気付かれない
実は私は…恥ずかしい事をしていたのだむかし。
キタガワにもらった綺麗なビーズのネックレス。最初ヘアピンをもらった時にはそこまで意識していたなかったキタガワなのに、ネックレスを誕生日の前日にくれた事が大きかったからか、本人には「誰にも言うなよ」と、今考えたらちょっと酷いともとれるような口止めをされたにも関わらず、だんだんキタガワの事を意識するようになって、その前にもらったヘアピンの事も合わせてどんどんキタガワの事が好きになっていった純粋なあの頃の私。
けれど何しろ小学生だ。「好きだな!」と思うだけで、それに口止めされてた事もあってネックレスをもらった事も誰にも何も言えず、まさか本人に好きだと言うなんてとんでもない話。キタガワは普通に私に話しかけてくれていたけど、それは同じクラスだったからで、全く何も特別な事もなく、小6にはクラスも離れたし、私も隣の席になった話の合う子をいいなと思うようになった。
小学生だからね…別クラの男の子よりも同じクラスの隣の席の男の子の方が身近だよね。遠恋に耐えきれなくて身近な人を好きになる女子大生みたなもんだよね…なんか違うかもしれないけど。
そしてキタガワの事もまだ好きだったけどね…
小学生なんてそんなもんだよね!
でもだ。
キタガワの事をとても好きに思えてきていた私は、もらったネックレスを休みの日に着ける以外にどうにかいつも持っていたいと思って、三重くらいにグルっと巻いて金具を付けてキーホルダーに作り変え、お母さんからもらった黒猫の小さいマスコットと一緒にして、ランドセルとは別に持つ通学用の補助バッグにずっと付けていた。ランドセルだと結構目立ってキタガワに見つかって嫌がられたりしたら恥ずかしいから。
…いや、キタガワには気付かれなかったけれど、気付かれないにしても今思えば本当に恥ずかしい。「オレにもらったって言うな」と口止めまでされたネックレスを…イタいよね…でも今より女子力あったのかも、その頃の私。
キタガワは本当にそれに気付いていなかったか…
本当に気付いていなかったと思う。その後くれたネックレスの事をキタガワと話した事は1回だけ。貰った何日か後に「お母さんもすごく綺麗だって言ってたよ」とキタガワに教えた。その時キタガワは少し恥ずかしそうにして、「他のやつには絶対言うなよ。恥ずかしいから」とそこでまた口止めをしてきた。
だから見つかりやすいランドセルは止めて補助バッグに付けたけれど、キタガワが見つけたとたん怒るかもと、はじめはビクビクしていたのだけれど、それについて何か言われたり、じろじろとバッグを見られたというような事もなかった。
まぁ形状も変わっていたし。マスコットも付けてたから気付かなかったんだろうな。
気付かれなくて本当に良かった。よくそんな恥ずかしい事が出来たなと本当に思う。今だったら絶対に出来ない。
たぶんキタガワは自分がくれた事さえ忘れてるんだろうな、と小5の終わり頃にはすでに思い始めたが、それでもずっと付けていたのだ。いじらしいな私。
私はキタガワに気付いて欲しかったのかな…それをずっと付けている事に。
気付いて欲しかったんだよね!だって好きだったから。
そして好きだ好きじゃない、付き合う付き合わない、みたいな事よりも、とにかく嬉しかったからいつもそれを付けていたかったんだよね…
やっぱ相当いじらしいな私。
そのキーホルダーを友達に見られて、「これ可愛い~~」と言われる事もあったけれど、それはたいてい黒猫のマスコットの事だったし…それでもお気に入りでなんとなく、中学の通学カバンにもみんな何かしら付けていたから、私も付けたいなと思って、仲の良かった友達からもらった、ずんぐりしたカエルのマスコットと、黄色くて丸いよくわからないオバケのマスコットも付け足して一緒に通学カバンに付けていた。
中1でまたキタガワと同じクラスだったけれど、やはりそのキーホルダーに気付かれる事は全くなく、それでも中2の半ばには取り外した。
キタガワが学年でも結構派手目の女子と付き合っているという噂が流れたからだ。その頃もキタガワの事を好きだと思っている女子は結構多いみたいだったが、その女子との話が出てから次々にまた4、5人、私が知っているだけで4、5人なんだけれど、キタガワと付き合っているという女子の噂が流れて、私はそっとその3体のマスコットごとキタガワにもらったネックレスを改造したキーホルダーをカバンから外したのだった。いったい何人と付き合ってんだよ中坊のくせに!と思いながら。
淡い思い出だ。切ない…自分がちょっと可愛かったな!と思える思い出…
「なぁ」とキタガワに聞かれる。「お前バスで来てるよな?」
「…うん」
自転車で来れない事もないけれど、バス停が家から近いから今のところバスで来ている。それに少し距離があるから雨の日や真冬がしんどそうだし、朝から空腹になりそうだから。
「オレがどうやって来てるか知ってる?」
「…自転車?」
「そう。当たり」
…なんだろうな…この会話。
「もうそろ教室帰った方が良いような気がするんだけど…」とまた言ってみる。
「あ~~」とかったるそうなキタガワ。「じゃあ帰るか」
なんだったんだろう今の時間。
またキタガワのちょっと後ろを歩きながら考える。…と、キタガワが急に歩く速度を緩めてゆっくり歩き出し、私の隣に来た。
なんで歩調を緩める!
隣を歩くのがなんとなく気まずい感じがして私もさらに歩調を緩め、またキタガワより少し後を歩こうとするんだけれど、それに合わせてキタガワがまた私の隣に来る。
…なにこれ…かったりぃ…
来たときよりももっと気まずい感じで教室に戻る。
しかも二人とも飲みかけのゆず茶のペットボトルを持ったままだ。
「…あの…、キタガワお金、小銭ちょうど持ってないかも…」
「あ~もういい。いらない。今回はオレのおごり」
なんだそれ!