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あ、そう

 ガタっと立ち上がるキタガワ。え?こっちに来るんだけど、え?お礼ってなんだろ?なんの話?

 私の横に立ち、「ほら」と急かすキタガワ。

「今今今今、早くって。チャイム鳴るから」

「…お礼ってなんの事?」恐る恐る聞く。

「えっ!?」大きな声を出すキタガワ。

ビクッとする。

「オレがこの前貸したノート。お礼に飲み物って言ったら今日お金忘れたから今度って言ったじゃん」

私が!?



 そんな事言ってないし、だいたいキタガワからノートなんて借りた事はない。

 アイちゃんとユウミちゃんが少し心配そうな戸惑っているような顔で見ているし、フルカワさんたちの顔はもっとビミョーだ。ヨコヤマはニコニコ笑いながら、そしてハシモトはちょっと不審そうな眼でただ私たちの動きを見てる。

「忘れたの?」とキタガワ。「ひでぇな」

言いながらつんつんと私の制服のシャツを引っ張る。

 …え…どうしよう何これ…

 見守るアイちゃんとユウミちゃんの目を見ながら、引っ張られるままに立ちあがってしまった。

「よし行こ」とキタガワ。

「ちょっと!カナエ!」と呼ぶフルカワさん。



 教室出ちゃったけど…なんだろこれ…なになになになに…

 ついては来てしまったが、やはり不審に思って立ち止まってしまった。

 振り返るキタガワ。ちょいちょいと手招きをして言う。「ほら、早く」

「ちょっと待って…あの、なんか間違ってない?さっき…お礼とかって言ってたけど、別の子と間違ってない?」

「間違ってない。いいからほら」

二コリともせず淡々と答えるキタガワ。もう一度ちょいちょいと手招きをする。仕方なく歩き出す私。

「でも私!ノートとか貸してもらってないと思うけど」

「貸したわ中1の時」

中1!

 …って、ノートを?私が借りたの?中1の時に?ザァっと記憶をたどるけど…

「…覚えてないんだけど」と言ってみる。

それにそんなむかしの話今持ち出されても。しかもフルカワさんが飲み物くれるって言ってた時に…

「いいじゃん。お前他にも覚えてない事いろいろあんだろ?」

…そうかもだけど…



 廊下を歩いて行く私たちを他の子たちがチラチラと見る。

 キタガワの背は高い。中学からずっとバスケ部で肩幅もまぁまぁ広い。ゴツ過ぎないけど華奢ではない体型。髪型は小学の時からほぼ変わらないのにね。長過ぎないサラサラの髪。ワックスもつけてない。

 キタガワの少し後を歩く私。一緒に歩いてると思われるのかな…私が変に後を付けてるようには見られないよね。…そんなのどうでもいいか。



 やまぶき高校は校舎3棟から成っていて、私たちの1年6組は前から2棟目の3階。そこから1階まで降りて、自販機は校長室や職員室のある第1棟への渡り廊下の端にある。

 結構遠いよね。普段一緒に歩かない人と歩くには遠いよね。超気まずい。

どうして急に思いついてこんな事してんだろうキタガワ。



 結局無言のまま自販機まで。

「ああっ!!」っと急に大きな声を上げてしまった。

「…なに?びっくりするじゃん」と、それでも淡々としたキタガワ。

「お金持ってくるの忘れた!」

「ここまで来といて?」

「…ごめん、取って来るから」

「いい、オレが持ってる」

「あ、じゃあ後で…」

「いい」

そう言ってキタガワは自販機にお金を入れる。

 ピッ、とゆず茶のボタンを押してガタン、と出てきた小さいペットボトル入りのゆず茶を私に渡してくれた。

 え、私も?

 そしてピッ、ともう1回ゆず茶のボタン。ガタンと落ちてきたゆず茶のペットボトルをキタガワはゆっくりと取り上げて、蓋を開け一口飲んでまた閉めた。



 ゆず茶好きなのかな。

 私は好きだけど。本当は温かいのが好きだけど。ていうか私の分はいらないよね。ゆず茶2本分の小銭入ってたっけ?私の財布。

「中田はほんとはあったかいやつが好きよな」

自販機と反対側の壁によりかかったキタガワが言う。

 …ゆず茶の事?キタガワを見るとちゃぷちゃぷっとペットボトルを振って見せる。

「…うん」

 今さら私のはいらなかったのに、なんて言えない。



 …どうするの?ここで飲むの?私もここで蓋開けて飲んだ方がいいの?

 でも私今、そこまでお茶欲しくないな…水筒持って来てたしさっき飲んだし…。どうしよ…。ペットボトルは両手で握りしめたままだ。冷たいな。

 じゃあ後でお金渡すからごめんね、って言って先に行こうかなと思った矢先、後ろから他の子が3人、自販機にやって来たのを先に気付いたキタガワが私の腕を掴んで自分の方へ避けさせた。

「…ごめんありがとう」と一応言う。

 それには応えずキタガワは腕時計を見てから言った。「あの話誰の事?」

「…」

「さっき話してたじゃん。中学の時気になってたヤツって誰の事?」

 ここでその話を振ってくるの!?

 聞こえてたのか嫌だな。答えない私をキタガワがじっと見つめるので目を反らしてしまった。

 …答えられないよね…ちょっと小学の時のキタガワに雰囲気が似てたエザワ君の事なんて、絶対に答えたくないし。



 「…いや、別に…」歯切れの悪い返事をしてしまう。

「誰?」

顔が笑っていないキタガワ。さっきフルカワさんたちと話してた時とは大違いじゃん!何?何でそんな事聞いてくんの?自分の友達じゃないかとか思ってんの?同中だから気になんのか?

 黙って首を振る私。早く教室に戻りたいから言ってみる。

「もう少しで予鈴なるでしょ?もう教室に戻らないと…」

「大丈夫。あと5分くらいはここにいても。そいで誰?」

「…」

 キタガワはエザワ君の事どれくらい知ってるんだろう。同クラになった事あったのかな…まぁ言わないけどね。

「それはちょっと…」と答える。

「…あ、そう」

なんだ、あ、そうて。




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