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どこにもいない

 そしてこのクラスで同中はキタガワと他にもう一人、男子のオオノバルキヨトだけ。オオノバルは中3の時も一緒のクラスだった。オオノバルは大野原と書いてオオノバル。本人が前言っていたところによると、おじいちゃんが九州の出身らしくて、九州では「原」という漢字をバルと読むところがあるらしい。オオノバルは呼びにくいのでみんなキヨトという下の名前で呼ぶ。私も一応キヨト君と呼んでいる。

 …そうなんだよね。忘れ物があったとして、同中の男子はキタガワかオオノバルに借りに来るし、女子は私かキタガワに借りて行く。が、なんだったら私によりもキタガワに借りていく。

 ちょっとせつないよね。

 

 

 でも同中の女子からは羨ましがられはする。それはもちろんキタガワと同じクラスだから。

 私はそんな時、ただ意味もなく無機質に笑うだけだ。

 「え~そんな事ないよ~~」と言ったら反感を買うだろうし、「そうでしょう?」みたいに答えてもそれがおどけているとは取られずに、きっと変な感違いをされて女子のみなさんに嫌われそうだ。



 他校に行った女子にもラインでたまにキタガワの事を聞かれる。聞かれた事に答えられるときは答えてあげるようにしている。だって女子に嫌われたくないから。例えば何委員になったとか、部活頑張ってるみたいだとか。女子に嫌われたくないからと言って、こちらからわざわざ取り立ててキタガワの事を話題に上げた事は一度もない。

 キタガワに彼女が出来たかという質問もたまにされるけれど、その時は決まってこう答える。「同クラだけどあんまり接点がないからわかんない」

 キタガワのラインを知らない子から、教えてって聞かれた事も何回かあるけれど、知らないのでもちろん「知らない」と答えた。

 実際どちらかというと、まだオオノバルの方が話した回数も多いしラインも交換した。

 ゴールデンウィーク中に中3の時のクラス会があったからだ。その時は連絡しあったけれど、それからはまだ数えるほどしかラインもしてない。



 キタガワは女子に対して調子がいいので、ラインも女子とメチャクチャやってそうだけれど、実はそうではないらしい。

 もともとうちの「やまぶき高校」は校則で校内でのスマホの使用が禁止、持ち込みも基本は不可。部活や委員会で下校が遅くなったり学校帰りに塾に行くのを理由に、担任と学年主任、そして校長の3人に申請をして持つのをやっと許可される。中学の延長でその校則を軽く破る子たちも4月中はいたが、本当に罰則が厳しくてゴールデンウィークを過ぎた頃には誰も破らなくなった。親が呼び出され、校長に、なぜ校則を破るにいたったかという作文をかかされ、自宅謹慎になるらしい。そして、親までもが子どもがなぜ校則を破るにいたったか、そしてその親の責任についての作文をかかされるらしい。


 入学当初、私がキタガワと同中だと知った他中出身の女子からも結構キタガワのラインを聞かれたが、知らないというとちょっと睨まれて、それでもその子たちはキタガワ本人に聞きに行っていた。

 放課後校門のすぐ外で女子に囲まれてたキタガワを見た。キタガワ、すぐに交換してたし。最初から本人のところに行きゃあいいじゃん!ともちろん思ったし。

 でもそうやってすぐ交換するくせに女子からのラインはたいがいスルーするらしい。たまに返信があっても変なスタンプが多いらしい。電話にはほぼ出ないらしい。…という話だ。女子たちがそう言っているのを聞いた。

 返事来ないなって思っててスタンプ来た時すごく嬉しかった~と自慢する子と、それを本気で羨ましがる子。それを下げすんだ目で見る私。…いや顔には表さないように気をつけてるけど。

 なんだそれ、って話だよね。じゃあ軽々しく誰にでも教えるなっつの。

 …でも…その中の誰かとは実はすごくやりとりしてるかもしれないよね。

 …まぁどうでもいいけど。


 

 キタガワのところへ来る子たちも、最初はなんでラインを返してくれなのかと文句を言っていたが、「オレはよっぽどの用事でもねえとあんま男子にも返さねえから」と言っているのがよく聞こえてきていた。本当かどうかわからないのに女子も強くは責めない。嫌われたくないんだろう。「なんで返してくんないのぉ、ずっと待ってたのにぃ~」みたいな感じだ。それでキタガワが「あ~でもごめん。だからあんま送ってくれてもわりぃから、返事できないからごめんな」って。そんな調子良い事言われてんのに大概の子は、「ううん、いいの、返せる時だけで。スタンプだけでもすごく嬉しい」みたいな。

 その後すぐにキタガワがニコニコしながら、「いやいや悪いから。でもいいじゃん。学校で普通に話せば」と言うと、女子は「うんわかったぁ♡」って言うよね!


 

 バカだなぁもう。

 聞きたくないけど、女子がやたらテンション高くなってるから声も大きくなってて聞こえてくるし。

 …うまく言ってるよね…そんなんだったら最初から教えなきゃいいのに。

 もうあの頃の、あの小学生の頃の、私の好きだったキタガワはどこにもいない。

 


 

 私がキタガワの事を好きだったのはだいたい小4の後半から小6の夏休みくらいまでだった。6年の時にはキタガワと違うクラスになってほとんど話す事はなかったし、隣の席になったトキタ君の事も気になったけれど、まだキタガワの事も好きだった。

 中1でまたキタガワと同じクラスになったけれど、その時にはもう私が好きだった頃のキタガワとは少し違う感じのキタガワになっていた。

 そしてこの春、高校に入学してたまたま同クラになったキタガワはもう全く違うキタガワになっていたのだ。



 私がどんな理由でキタガワを好きになったか…

 小3で初めてキタガワと同じクラスになって、隣の席にもなったけれど普通のクラスメートで、それでも小4の時の事だ。クラスで一番女子に影響力のあったキムラさんと、私がたまたま同じヘアピンを付けていて、その事で女子の何人かにキムラさんのまねをしたんじゃないのかと言われて、そのヘアピンを外してしまった事があった。それをちょうど見ていたキタガワが言ってくれたのだ。

「中田の方が先に付けて来てたのオレ見たし」

でもその言葉は女子に猛攻撃を食らった。

 「いつ?」とか「どこに証拠があるの?」とか「他に見てた人連れて来なさいよ」とか「中田さんの事好きなんじゃないの?」とかだ。

 キタガワはそのどれも素で適当に無視して、私にもちゃんと自分の方が先に付けてたって言えばいいのにと助言をくれたが、キタガワが女子からワァワァ言われたのを見た後で、私にそんな事を言える勇気はもちろんなく、二度とそのヘアピンを学校でする事はなかった。



 けれど、その少し後にキタガワが私にヘアピンをくれた。「ほら」と普通に。いきなりだったのでちょっとびっくりした。きれいな水色と紫のビーズで花の形が作ってある可愛いヘアピン。少し驚いた後、嬉しかったので喜んだら「オレからもらったって誰にも言うなよ」と言われた。

「中田もいろいろ言われんの嫌だろ」

「ありがとう。でも本当にもらっていいのかな」

「買ったんじゃねえから」とキタガワは言った。「ねえちゃんが作ったやつだから。ねえちゃん、やたらヘアピンとかネックレスとか作るの好きで、オレと妹にもくれる」

妹にはわかるけど…「キタガワ君男子なのに?」

「そう。だからオレはいらねえから、やるわ」

「…ありがとう。これ、すごくかわいいね」

「学校でつけてもいいけど、オレからもらったって言うなよ。またいろいろ言われたらオレもめんどくさい」

もう一度念を押されたのだ。

 それでも嬉しかったので言った。「いいな、そんなの作ってくれるお姉さんいて」

「そんなことねぇよ。うぜえ事の方が多い」




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