最低?
「オレのやったネックレスのヤツ、ずっと付けてたじゃんカバンに」
「…うん…」
心の中でわ~わ~騒いでいて、まともに返事が出来ない。
「なんで付けてた?」口調が厳しいキタガワ。
うわ…もう…「…ごめん」
「なんでごめんなんだよ、意味わかんねえ」
「だって!オレにもらったって誰にも言うなって言ってたのに付けてたから…ごめん。私ね、あの時すごく嬉しかったんだよ…あのネックレスもらった次の日が誕生日だったから」
だからキタガワの事も好きになって…
「ごめん」ともう一度謝る。「そんな事したらキタガワ嫌かなって思ったんだけど…ほんとごめん。気付いてなさそうだから良いかなって、そのままずっと付けてた」
「…」
「だから、」と言い訳を続ける。「誕生日プレゼントみたいですごく嬉しくて、つい…」
キタガワが少しうつむいて言った。「知ってたから」
「…」
「あの次の日が誕生日だって知ってた。知っててやった。誕生日にやるのはメチャクチャ恥ずかしかったから前の日にやったの!あれ、姉ちゃんが作ったやつじゃねえから。あれもオレが作ったやつだったから、だから誰にも言うなって言った」
…マジで…マジでマジでマジでマジで!
嬉しさと恥ずかしさと今の自分のいたたまれなさと、そんな感じが全部合わさったどうしようもない気持ちでキタガワが渡してくれたネックレスを見る。小5の時にもらったネックレスとは技術が格段に上がっている。
「もしかして…もしかしてあのヘアピンも?作ってくれたやつ?」
「うるせえよ。ねえちゃんから教えてもらったんだよ」
吐き捨てるように言ってるけどキタガワ…
え、て事はあの頃のキタガワは私の事が好きだったって事?好きだったって事?好きだったって事?それで今、また綺麗なネックレスくれるの?それは今も私の事…
「あれ?」
門柱の所で声がした。「あんたも帰ってきてたの?」
見ると紺色のミニのワンピースを着た綺麗な若い女の人。ぺこ、っと私が頭をさげると「こんにちは、いらっしゃい」と、とても華やかな笑顔で言ってくれた。キタガワのお姉さんかな。
「…あれ?その子は?また学校の子?」
キタガワが小さく舌打ちしたのが聞こえた。
『その子はまた学校の子』…
心の中でお姉さんの言葉を繰り返す。その子はまた学校の子ってどういう事?女子がちょいちょい家まで来てるって事?家まで来るって事はやっぱり親しくしてる子がいるって事?しかもなんか複数っぽいニュアンス…
「違う」キタガワがムッとして答える。「いいから先に家に入れよ」
「ああっ!!」女の人が叫んだ。「ネックレス!あんたネックレス上げてんじゃん!彼女?彼女連れてきたの!?」
「あ~」驚いている私にキタガワが言った。「姉ちゃんだから」
やっぱりか。
取りあえず挨拶をする。「こんにちは。すみませんお邪魔してます」
「こんにちは!」恐ろしいくらいの綺麗な笑顔で改めて挨拶をしてくれる。
「上がったらいいのに」
お姉さんは私に言ってくれた後ふざけるようにキタガワに言った。「ほら、何で家に入れてあげないのよ?親もいないんだから今のうちに早く部屋連れて行きな」
「いいから!」キタガワの怒った声。「お前こそさっさと先に家に入れ」
「お前とか言うな、お姉さんに向かって」
そして同意を求めるように、私にまた綺麗な笑顔で「ねえ?」と言った。
曖昧に微笑み返すだけの私。
突然の展開に、いろいろ現状を忘れて心がはじけそうにときめきかけていたが、お姉さんの一言で我に返った私だ。
家にもいろいろ女の子が来てるって事ね?
最低!!
なんかいろいろすごく嬉しかっただけに、テンション上がり過ぎだただけに、なんかもう…キタガワ最低!
「よかったじゃ~ん」とお姉さんが言う。「ちゃんと彼女出来たんだ~~」
「もういいから」とキタガワ。「ほんと余計な事しゃべんなくていいから」
「じゃあせめて玄関の中入ったら?」と懲りないお姉さん。「こんな所じゃなんだし、お茶出して上げるから」
「いえ!」と私は慌てて答えた。「もう帰ります!すみませんありがとうございます」
そんな、いろんな女の子がやって来てるなら帰りますって。
「いいからいいから」と言ってお姉さんが言う。「はいはいはいはい中入ってもう。お昼も食べて帰ればいいじゃん」
半ば強引に玄関の中へ入らされ、そしてキタガワも私もいろいろごちゃごちゃ言いながら断ったにも関わらず、私は今キタガワの家のリビングの茶色いソファに座っている。
基本片付いて清潔で、ところどころ少しだけ散らかっている落ち着ける感じのリビングだが、もちろん私は落ち着いてはいない。
クラス会だって言われて騙されてやって来て、結局キタガワの家に上がりこんでいる自分。そしてどうも私を好きだった感じのキタガワ。それでもやっぱり女の子に調子良さそうなキタガワ。
落ち着けるわけがない。
今朝からの短い時間の間で、なんだかすごく弄ばれたような気さえする。よくわかんないけど。
キタガワが「しょうがねえ」とボソッと言った。お姉さんはキッチンでお茶を用意してくれている。
「あいつがうるせえからしょうがねえから」と言って立ち上がる。「オレの部屋に行こ。…しょうがねえからだから、ほら!」
マジで。マジでキタガワの部屋?
ちっ!と心の中で舌打ちをする。この期に及んでしょうがねえからとか言い出しやがったこいつ!
「私もう帰るから」
「いいから。まだ話全然終わってねえから」
キタガワの部屋はリビングと同じようにまぁまぁ片付いて清潔で、それでも少しだけ服が床に置いてあったり、ベッドにマンガが置いてあったり、机の上にプリントが無造作に置いてあったりした。
キタガワの部屋!
これ…ここに入ったって誰かにバラしたら速攻騒ぎになりそうな…
…いやでもさっきのお姉さんの話じゃ他の女の子たちもこの部屋に来てるって事でしょ?
そう思いながらキタガワの部屋を見回す。
勉強机の前にあった椅子をガラぁっと動かして私の横に置いて、「ふん」と言う。使えって事だよね、と思いながら腰かける。キタガワはドサッと自分のベッドに腰かけた。じっとそのベッドを見てしまう。
…なんか…なんか…最低!
ここで誰かと何かしてたら最低!
やっぱ帰ろう私。




