もらっていいの?
わらわらと子どもたちが寄って来た。
「振られたん?」キタガワを指して私に確認する子どもたち。
答えられなくてまたヘラっと笑ってしまう私だ。
「どうして振ったん」と私にマジ顔で聞く少年。「結構イケメンじゃん。もったいなくね?」
さっきのキタガワより真面目な顔で聞くその子の事が今度は面白くて、そうじゃないんだよ、って意味で緩く首を振りながらまたゲラゲラ笑ってしまう私だ。
「笑いながら振るって最悪じゃね?」私を非難する子どもたちだ。
キタガワがすくっと立ち上がって、一番うるさく言ってきた子を見降ろして言った。
「お前の好きなヤツを知ってる」
「へ?」
ビックリするその子。え~~~~と騒ぐその子以外の少年たち。
「オレの妹が小学だからまだ。お前らの事知ってっから」
「マジで!?」驚きおののき慌てまくる言われた子。「え、妹って誰!?何年?名前何?名前何?」
結局それでも子どもたちが私たちの行く末を確認しようとうるさくするので、キタガワがまた私の腕を掴み、私たちはそのまま歩いて、裏手の東門から小学校を後にした。
どうするんだろう…本当にこのままキタガワの家へ?
キタガワの家が私の家とは小学校を挟んで反対側にあって、学校からわりと近い所にあるのは知っていたけれど、はっきりどこかは知らなかった。
「後でまた送ってやるから」と自転車を置いたままの私にキタガワは言った。
「歩いて来たの?」と聞く。
「すげえ近いから。もう着くし」
もう着くの!?
ほんとに近いんだな。心の準備が全然っ、出来てないけど…どうするの私!家でさっきの話の続きするの?キタガワの家に上がるの?おうちの人はいるの?それでどうするの私!
「じゃあここで待ってて」
キタガワの家の玄関の前でそう言われる。
白い壁の2階建ての家だ。薄茶色の石の塀で囲まれた庭は、この辺りの他の家と同じようにそう広くはないけれど、柔らかな芝生が植えられていて、玄関先の適当な位置に置かれた大小幾つかの植木鉢も合わせて、明るくて可愛らしい感じがする。
「持ってくるから」とキタガワ。
…そうか中へ入るわけじゃないんだね私。そりゃそうだよね、今日初めて来たのに。子ども達がうるさかったから連れてこられたんだし。それなのにキタガワの家へ上がる心の準備をしかかってたよ…恥ずかしい。
玄関脇で私を待たせて、ダダダダッと中へ入り、またダダダダッとキタガワが戻って来た。
手に持ってきた薄い木の箱を開けてみせて言う。「やる」
中には天然石を組み合わせた3本のネックレス。
すごい!すごく綺麗…
それぞれ、オレンジ、緑、黄色系統でうまくまとめてあって、その粒の一つ一つの大きさも微妙な色の濃淡の組み合わせも、3本ともとても綺麗。陽の光に、より一層キラキラと輝いて見えた。
「…これ、私がもらっていいの?」
「やるっつったじゃん今」
なんでキレ気味…
そして何で今またネックレスをくれるんだろう。カバンにずっと付けてたのバレてたし…ずっと付けてたからまたくれるの?キタガワも、やっぱり私の事もしかして…
「どれでもいいの?」と聞いてみる。
ほんとに綺麗…オレンジ色のがいちばん好きかも…むかしもらったビーズのネックレスに一番近い。
「全部やる」とキタガワは言って箱をグイッと渡して来る。
「全部?」
「全部!…3つともお前にやろうと思って作ったから」
ぶわわわわわわわ、と顔が赤くなるのが自分ではっきりわかった。
引かない顔の赤さをごまかすために慌ててネックレスを褒める私。
「すごいね!どれも綺麗。すごい」
「あ~まぁな、結構数こなしたからな」
数こなした?
とたんに引っかかる私だ。
他にもいっぱいあるって事?…手芸が趣味?
それは…他の子たちにもいっぱいあげたって事?
そんなの、みんなにあげてんならもらいたくない…いったいどんな子たちにあげたんだろ…
なんかすごくイヤだ。むかしもらったネックレスの価値まで下がりそうな…え?もしかしてむかしからみんなにあげてた?それなのに喜んで私いつまでも付けてたの!?
「…みんなにあげてんの?」とついあからさまにムッとした声で聞いてしまった。
「は?」
「こういうの作るの趣味なの?」
「…趣味じゃねえわバカか。お前にやろうと思って作ったっつったろ」
バカかって言われた!
聞いたけど…
「こんなの誰にでもやるわけねえわ。恥ずかしい。だいたいお前があんな風に…」
バカかって言われた私より、何でキタガワの方が機嫌悪くなってんの?
「…まあいいけど」とキタガワが小さい声で言った。
「オレもずっと持ってたんだよ」とキタガワがボソッと言う。
「…」
「あの後、お前がキーホルダーに作り替えたネックレス、カバンから外した後、もう1コ…やろうと思って」
「…」
「つくったけど」
「…」
「渡せなくてずっと持ってたっつう話だよ。お前さ…オレの事好きだったんじゃなかったの?」




