捨ててない
…これは…
…まだ持ってるって答えても良いやつ?そう答えたら気持ち悪がられたりするやつ?
あの時『オレにもらったって言うな』って言われたって事は、今持ってたら、そんなのいつまでも持っとくなよ気持わりいじゃん、て言われるやつ?モテるようになった今そんな事が女子にバレたらダサいから?
でも!どんなに気持ち悪がられても、あの時すごく嬉しかったネックレスを捨てたなんて思われたくない。
「…捨ててないよ」
捨てられるわけない。あんなに嬉しかったのに。
キタガワの方を見ずにうつむいて答えた。緊張した声を出してしまって恥ずかしい。
「まだ持ってる」
意を決してそう言ったのにキタガワの返事がない。
…うわ…やっぱ言わなきゃ良かったよ…
「ごめんでも!でも私、言われたように誰にも言ってないよ、キタガワにもらった事。これからも誰にも言わないし」
そうまで言ったのに返事がない。
「キタガワ!」
恥ずかしさと気まずさで緊張がマックスになって、思わずキタガワを大きな声で呼んでしまった。
「…なに?」と普通に答えるキタガワ。
「なんで…」
「なに?」
「…なんでもない」
ヘアピンだってまだちゃんととってある。ビーズが1コ取れてしまったけど。
「なぁ」とキタガワ。「サワダたちと話してた中学の時の好きだったヤツって誰」
「…」
今またそれを蒸し返すか?
黙っていると「タケダの事じゃねぇよな?」と言われて驚く。
タケダというのは修学旅行の時に私に告ってきてくれた子だ。クラスは違ったけど、委員会が同じで何回か一緒に仕事をしているうちに好きになったのだと言ってくれた。凄く嬉しかったけれど、それは純粋に嬉しくてありがたいと思うだけで、それだけだった。せっかく告ってきてくれたのに、私ごときが申し訳ないが付き合いたいと思うような『好き』いう感情は無かったので、良い返事が出来ずにいる私に、それでも「じゃあこれからも普通に話をしてくれる?ただそれだけで嬉しいから」と言ってくれて、本当に良い子なんだなと思った。良い子っていうか、今考えると大人だよね。
そんな良い子に告られたのに、その後、絆創膏一つでエザワ君の事好きになったよね…
女子って…怖いよね!
「なんで知ってるの?」と当然聞く。
私は誰にも話していないのに。
「タケダとクラス一緒だったし修旅のとき部屋が一緒だった。お前に告ったタケダが帰って来て、興奮してオレに話してきた」
「マジで!?ねえ!それって他の子にも言ってた!?」
「いや、オレにだけ。今一つ手ごたえはなかったけど好きだって言えて良かったっつって。すげえテンション上がってて、オレに小学一緒らしいなって、いろいろ聞き出そうとしてきた」
「マジで!?」
なんでよりによってキタガワに…
「なんか…マズイ事話してない?」と聞いてみる。
「マズい事って?」
「私のとぼけた失敗の数々」
「教えてねえよ。なんも教えねぇわそんなん。で?タケダじゃなかったら誰?」
「…あんま…あの…言いたくない感じなんだけど」
ちっ!と舌打ちされた。
「じゃあぶっちゃけもう言うけど!」
言ったキタガワの声が怒っているのでビクビクしてしまう。
「中1の時は…」と言いかけて、言い淀んで唸るように続けた。「あ~~もう~~めんどくせえ…」
「なぁ~~~」とジャングルジムの上から呼びかけてくる少年の声。
ちっ、とキタガワが今度は子どもたちに舌打ちする。
「なぁ~~ってぇ~~~~」もう一度呼ばれる。「チュウは~~~~?」
「まだしねえっつったろ!!」少年たちにキレるキタガワだ。
「いつするん~~~~~!?」懲りない少年が聞く。
「なぁって~~~~」と他の子も面白がって聞く。
「…ここでの話がうまくいかなかったらチュウなんてずっとできねぇんだよ。お前ら、もう家に帰れ」
キタガワが言ってもそのままはやし立てる子どもたちに、もう一度大きく舌打ちしてキタガワは私の腕を掴んだ。
「オレんち行こ」
「家で!?」と言ったのは私ではない。子どもたちだ。「これから家でするん!?」
子どもがふざけて言っているだけなのに赤くなる私。
「しないから」とキタガワが真面目な顔で私に言った。「今日は何もしないからついてきて」
そこで可愛くうなずけばいいものを、キタガワがいつになく真面目な顔なのと、子どもたちがうるさいのがおかしくなってきて、突然声を立てて笑ってしまった。急にこんな目に遭っているのだ。情緒不安定にもなるよね。
「何笑ってんの!?」ムッとして私の手をぎゅっと力を入れて掴むキタガワ。
「ハハ…え、と、ごめん」
キタガワの怒った声で今度は急に力が抜けて、それでもやっぱりヘラっと笑ってしまう。
「ごめん、だってなんか…緊張してたから、おかしいのが止まらなくなった」
「…もう~~~」と言いながらしゃがみ込んで頭を抱えるキタガワ。
こんなキタガワ初めて見るけど…




