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担任の水本

 うわ…

 他のやつに教えるなって…

 ネックレスをくれた時のキタガワがよみがえってくる。

 …もしかしたら…もしかしたらキタガワもずっと私の事気にして…

 「あれ?」

得体の知れないゾワゾワした気持ちが胸の奥から広がりかけたその時に声がした。

 振り向くと、私たちが訪ねようとしていた水本。まぁそれはキタガワの嘘だったわけだけど。

「何してんの?こんなとこで二人」と水本がいつもの飄々とした感じで聞く。

 うちのクラスの担任の水本は自称28歳。現国の担当だ。銀縁でだ円形のフレームの眼鏡をかけていて、少し長めの髪を後ろでくくっている。背も高め、少し得体のしれない雰囲気を出しつつも、見た目がまぁまぁ良いので女子には人気だ。



 「「いえ、なんでも」」と声をそろえてしまう私たち。

「あれ?中田?」と水本に顔を覗き込まれる。「なんか中田?ちょっと顔、赤くないか?」

「ないです!」

水本と、そしてキタガワまでも私をじっと見るので焦る。

 そして水本は私たち二人を交互に指差して聞いて来た。「これってもしかして!告白とか?」

「「…」」いきなりな、担任からとは思えない質問に驚く私たち。

「どっちがどっちに?」とさらに質問する水本の顔が笑っている。

「そういうんじゃないです」と、ちょっとムッとした感じで答えるキタガワ。

「そう言えばキタガワさぁ」と水本。「一昨日の放課後もここで他のクラスの女子と喋ってたじゃん」


 

 ふん?

 キタガワが小さく舌打ちした。

「あ、」と水本。「はい聞こえたからね今舌打ちしたの。ダメだよオレ一応先生なのに。他の先生にはしちゃダメだからね。オレが注意されるわ」

「…」無言のキタガワ。

そんなキタガワにニッコリ笑って水本が聞いた。「あの女子ももしかして告白?」

「…」また無言のキタガワ。

 そうか…告白されてたのか…

 「なんかさ」と水本。「キタガワ、3年の女子にも呼ばれてなかった?」

3年の女子にも!

「キタガワ、カッコいいもんねぇ」と水本は黙らない。「オレが見ててもそう思うわ」

「お前、」とキタガワが小さい声で私に言う。「そんな引いたような目でオレを見んな」


 「それで?」と水本はニッコリと意味ありげにわざとらしく笑って聞いた。「これはどっちがどっちに?」

「そういうのじゃないです」私が答えた。「チャイム鳴りそうだから失礼します」

「あ~そうだね」と水本。「午後も頑張って授業に集中するんだぞ~」

意味深に私とキタガワをちょっと笑いながら見送る水本だった。



 いやだな、水本…そう思っていたらキタガワも言った。

「オレあいつ苦手」

 でも…他の女の子と話をしていた場所で、私の手に電話番号を書くってどうなの?教えるのは女子には私にだけって言ってたけど…

 私にだけ、私にだけ、私にだけ…

 …ってそれ、他の女子にも言ってるってあり得ない?

 私だけ、って言ったけど。そして他のやつには教えるなって言ったけど。それでも他にも教えてる子いるよね、きっと。

 キタガワと一緒に教室戻るのはちょっとどうかな…なんか…他のやつに教えるなって言われて、やたら高まってしまった私の胸の鼓動が切ない。


「私、ちょっとトイレ行ってから戻る」

「擦って洗い流すなよ」

「…何?」

「これ!」キタガワが言って、パッと広げて見せた手の平には、私が書いた小さい数字。

 うわ…

 また性懲りもなくドキっとしてしまったのを隠して、慌ててたいして行きたくもないトイレへ急いだ。



 そしてトイレの個室で「あっ!!」と思う。

 忘れてた。クラス会行かないってキタガワに言うのを。明後日日曜なのに電話番号もらった事で忘れてた。あ、そうか、ラインすればいいんだよね、良かった良かった番号もらっといて。口で言うより楽だし。結果オーライだね。

 そうそう、もともとクラス会で連絡必要かもしれないからって番号くれたのに、あの『他のヤツには教えるなよ』で、本気で特別な事だと考え過ぎた。

 それに一昨日も告られてたって…それで3年の女子にまで呼び出されてたって。

 断ったのかな…断ったとしても、その子たちにもありがとうって言ってんのかな…

 なんか…すごくイヤだな!

 やっぱり明後日のクラス会には行かない。だってそこでもキタガワの事を気にして、チラ見しながらモヤモヤする自分がイヤだ。親しかった子も来ないかもしれないし。


 

 6時限目が国語総合の現代文。担当で担任の水本がやって来て、はじまりのチャイムが鳴り終わるとすぐに教室中を見まわして言った。

「このクラスの中でカップルっている?」

ざわざわざわざわざわ…

「いないの?」

ざわざわざわざわざわ…

 あ、ヤバい、先生と目ぇあった。動揺しないように一瞬で目に力を入れる。けど、ちょっとキタガワの事もチラ見してしまったら、キタガワもこっちを見たのでつい下を向いてしまった。

 「ふうん…」納得しない感じの水本。「じゃあ…まぁ授業をはじめま~す」

 何今の…クラスのざわざわも止まないんですけど。



 

 夜にキタガワにラインをする。

 結構ドキドキしながらラインする。

 しょっぱなからスルーされたらすごくイヤだ。

 しかもすぐにちゃんと要件を伝えられずクッションを置く。「明後日のクラス会って女子も結構来る?」

送ったら30分後に返ってきた。

「来ると思うけど」

「じゃあ私がよく知ってる子で誰が来るか知ってる?」

また30分くらいしてから返事。

「知らねえ」

 …なんか返事そっけなくない?

 まぁいいけど。

 それなら、と伝えたい事を伝える。「私、やっぱり行くの止めておこうと思う。仲良かった子がいなかったら心細いし。せっかく誘ってくれたのにごめん。ありがとう」








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