教えんなよ
わ…
…食べたね…私の唐揚げ。給食の時みたいに。
すんごい懐かしい感じがしてるけど、そういうのを今、他の女子が見てる前でやるのはよくないよね…
じっとキタガワを見つめてしまう。そんな私を見返して「いいから」とキタガワはもごもご唐揚げを食べながら言った。
「いいから早く片付けろって」
筆記用具を持ってキタガワと教室を出る。
アイちゃんとユウミちゃんは戸惑った、でもちょっとにやにやした顔で私たちを見送り、フルカワさんたちは何か言いたげだけど無言。無言が怖い。
でも水本先生が呼んでるんなら仕方ないでしょ?私だってゆっくりユウミちゃん達と話がしたかったよ。
キタガワと第3棟の3階の端という越境地帯にある国語科の控室に向かう。
渡り廊下を通って第3棟に入った所で「なぁ」と言われる。
「なに?」
「ちょっと」
立ち止まるキタガワ。
「…なに?」
国語科の控室、ちょっと遠いよね?
「お前んちの唐揚げうまい」立ち止まったままキタガワがそう言った。
唐揚げの話!?
「…あぁうん、ありがと」
勝手に食べられたのにありがとうと言うのもおかしいけど。
「あれお前も作れる?」
「…作れない事もない」
「なんだよそれ」
「うちのお母さんが作るのよりはちょっと下手」
「へ~。なぁちょっと手ぇ出して」
何急に?手を出さないでいるとキタガワが自分のペンケースを開け、ガッと片手で私の手首を掴み、無理矢理手のひらを上に向けさせ、そこに赤ペンで番号を書いた。
「なに…?」
「オレの番号」
キタガワの?
「クラス会の連絡にいんだろ?お前のは?」
赤ペンをそのまま渡される。そして手の平を差し出される。
「…書くの?」
「書くんだよ」
書くに決まってんだろ、みたいに言われる。
「…でも…キタガワ…あの…」
「なにほら、早く」
「…なんか女子が言ってたけど…キタガワにラインとかよくスルーされるって、読まれもしないし電話にも出ないって言ってたけど…」
普段は誰にでもいい返事してるくせに。「全然電話出てくれな~~い」って女子がよく言ってた。「でも普段優しいから許しちゃう~~」って。
「あ~…めんどくせぇから」キタガワが吐き捨てるように言った。
「は?」
「女子のラインていつまでもいつまでも続くじゃん。どうでもいいような事ばっか送ってくるじゃん。どうでもいい電話ばっかしてくるじゃん」
そんな子もいるけど、そんな子ばかりじゃない。それはキタガワとラインするのが楽しくて話を長引かそうとわざとしてるんだよ、きっと。
じゃあ誰にでも教えなきゃいいじゃん!
ほら!って感じで手の平を差し出され催促される。
それでこいつとわざわざラインして、私もスルーされるのかな。なんかそれすごいムカつくと思うけど。…まず私からはしないとも思うけどね。だって用事ないもん。スルーされるのも嫌だもん。
もう一度手をぐいっと出されたので、キタガワの大きな手の平の真ん中に小さく書いた。
「ちっちゃっ!」と言われる。
だって女子に見つかって「何ソレ、誰の番号~~~?」って事になったりしたら嫌だから。
「お前さ」とキタガワがペンケースにペンを仕舞いながら言う。「ああいうの、ダメだから」
「…」
「写真だけ見て、会ってみたいとか言うヤツと簡単に会ったりしたら絶対ダメだから」
「…」
「次、なんか誘われてもちゃんと断れよ」
「アイちゃんとの話聞いてたの!?」
「わかった?断れよ」
なんでキタガワがそんな事言い出す?
「でもアイちゃんの彼氏の友達だからきっとちゃんとしてる子だと…」
「ダメだって。バカじゃんお前」
「…」
「そういうヤツはちょっと付き合って適当に遊んでそれで終わりなの」
「そんな事…」
「ほんとバカじゃねえの、そういう話にホイホイ乗るとか」
「乗ってない!」
乗ってないし、アイちゃんの事をバカにされてるみたいで嫌な気持ちになる。自分こそ誰にでも調子いいくせに。
「そんなことより」もう私は早く用事を済ませて教室に戻ろう。「早く水本先生んとこ行かないとチャイム鳴る」
「嘘」
「うそ?」
「水本が呼んでるっつうのは嘘」
「なんで!?」
「お前が変な誘いに乗ろうとしてたから」
「乗ろうとしてない」
「でもあのまま誘われたらまた『うんじゃあ行く』みたいな返事してたろ」
してたかもしれないけど…してたかもしれないけど、それを邪魔するために嘘付いて私を教室から連れ出したの?
なんか…ちょっとドキドキしてきたんだけどどうしよう…
「ラインは結構みんな知ってっけど、」とキタガワがあからさまに横を向いて言う。「電話番号教えてんの、女子はお前だけだから。他のやつに教えたりすんなよ?」
うわ…




