なんでもねえけど
翌日。
朝キタガワに話しかける事が出来なかった私は、クラス会に行くのを止めるのをどのタイミングで言えるんだろうかと授業中考えて、そして休憩時間もなかなか言いに行けないでいる。
キタガワの席遠いしな…でも近くに座る昼休みは他の人もいるから声をかけにくい。
いや、自分でも意識し過ぎなんだと思うけど、やっぱりキタガワの周りの女子の目を気にしてしまうのだ。
ていうかまた他のクラスの女子が教科書借りに来てんじゃん。絶対今声かけれんわ…
ほんとにどういうこと!?もう…なんで女子から借りずにわざわざピンポイントでキタガワから借りる?
…そりゃ借りたいからだよねキタガワから。触りたいもんね、好きな子の持ち物。もしかしたら教科書ちゃんと持ってきてるのに借りに来てるのかもしれないし…
他クラの小、中も違う女子がわざわざキタガワに教科書借りに来るのに、どうして小中一緒で今同クラの私が必要な伝達事項を伝える事さえできない?
仕方ない、と思う。なんとか昼休みに隙を狙って話しかけよう。
…出来そうにないけど…
と思っていた昼休み、アイちゃん達が購買に行っている間に一人で手を洗いに行ったら、廊下の手洗い場の横でどこかのクラスの女子が4人、ヨコヤマを捕まえている。
「ねぇねぇ、キタガワ君も誘って、うちらと中庭でご飯食べようよ~」
「お前ら…」とヨコヤマが苦笑する。「キタガワもってキタガワの事誘いたいから仕方なくオレに声かけてんだろ?」
「まぁまぁまぁまぁ」とその中の一人の女子。「いいじゃん1回だけ!お願い1回だけちょっと誘ってみてよ」
「無理無理。お前らの事知らないと思うし」
どうやら女子たちはヨコヤマと同中らしそうだ。
「いいのいいの」と押しの強い女子たちだ。「だから知ってもらうためなんだって~」
「そんなの無理だって。知らないヤツばっかのとこで無理させたくねえよ」
お、ヨコヤマ友達思いじゃん。女子4人に囲まれて頼まれたら断りにくそうだけど頑張ってる。
「え~~?」とその中の一人が言う。「キタガワ君すごく優しいって聞いたけど?誘っても嫌がらなさそうな感じっぽい。うちらも絶対無理とかさせないし」
「そうそう」と別の子が言う。「告白した子もまず『ありがとう』ってすんごく優しく言われたって言ってた。結局断られたらしいけど」
「マジか!」とヨコヤマ。「すげえな…でもそれは告白され慣れてるからじゃね?」
「いいの」とまた別な子。「それでも言われたら嬉しいじゃん」
「嬉しいの!?」とヨコヤマ。「断られてんのに!?」
…ヨコヤマ、普通の感性を持った普通の良い感じのヤツじゃん…
「キタガワ!」とヨコヤマが今の女子の誘いを一応伝えようとキタガワを呼んだので私は急いでその場から離れた。これで昼休みも話しかけられそうにない。
キタガワが快く承諾して、今の子たちとご飯食べに行くところを見るのがイヤだ。…私には知らないヤツと遊園地に行くなとか言ったくせに。
…って私!まるでものすごくキタガワが好きで嫉妬してるみたいじゃん! 気持ち悪っ!
…なんかほんとやだ私。キタガワの動向だけじゃなくて友達のヨコヤマの動向まで気にして横から話を聞くなんて事しちゃったよ。本当に気持ち悪い。
気にしない気にしない気にしない気にしない、と自分に暗示をかける。
あっ!!
…あれ…
行くんだ!
中庭に行くんだキタガワ…マジで…
4人の女子と連れだって、ヨコヤマたちと廊下の向こうへ歩いていくキタガワが見えた。
…まぁそりゃ行くよね。せっかく女子が誘いに来てくれてるんだから。でもそれだったら私がアイちゃんの彼氏の友達とどこか行くのだってほっといてくれたらいいのに。
…なんだろう…なんでこんながっくり来てるんだろう私…
今のキタガワはそんなやつじゃん。いろんな子に良い感じに相手してんのをこの目でも見てたし知ってたし。なのに…今日はそんな誘いには乗らないんじゃないかとちょっと心の底で思ってしまったのは、二日続けて二人きりでほんの少しでも話したからか?合コンみたいなやつには行くなって言って来たからか?
小学のクラス会に行って、そこにキタガワもいたって、それは今のキタガワで小3の頃のキタガワじゃない。
自分の席に戻った私を、弁当を持って私の席へやってきてくれたアイちゃんとユウミちゃんがビミョーな面持ちで見ている。二人もキタガワが女子たちと歩いて行くところを見たのだ。
何でもない顔、何でもない顔、何でもない顔…
私は何とも思ってないから。
が、キタガワはほんの5分くらいでまた教室に戻って来た。
そしてヨコヤマもハシモトもいないのに、また私の前の前の席に腰かけて一人で弁当を食べ始めた。
…ダメだ……なんで一人だけ帰ってきたんだろう。私は何とも思っていないんだって思いたいのに、ものすごく気になる。
でも、クラス会に行かないって言えるのは今だけかもしれない…
「彼氏がね」とアイちゃんが言う。「昨日した遊園地の話だけど、彼氏がってか彼氏の友達がね、ナカちゃん来れなくなったの残念がってたって言ってたよ」
「あ~…」と私。
アイちゃんが言ってくれてる事なのに、ほんとかなと思ってしまう私だ。
そしてアイちゃんの前でクラス会行かないって言ったらアイちゃんが困りそうで、やっぱりここでもキタガワに話しかけられない。
「や、なんかさ」とアイちゃん「うちの彼氏が写真見せた時、その彼氏の友達、ナカちゃんの事気に入ったみたいで今度また…」
「中田!」
急に振り向いたキタガワが私を呼んだ。
「…」びっくりした分ちょっと間を開けて答える。「…なに?」
「なんでもねぇけど」
「…」なんでもねぇけど?
「あれ?」と、どこかへ行っていたフルカワさんたちも戻って来た。
「カナエ、さっきいなかったのに」とフルカワさん。「どこ行って来たの?ヨコヤマたちは?今日は一人で食べてんの?うちらんとこ来たらいいのに」
「あ~ありがと、でもこの後ちょっと中田と用事あるから」
へ?
私よりも先に「なんの?」と聞いたフルカワさんの声が低くてちょっと怖い。
「中田、水本が呼んでたから」キタガワが私に言う。「弁当食い終わったら一緒に国語科の控室に来いって」
「水本先生が?」今初めて聞いた。「…なんで?」
「…さあ?筆記用具持って来いって言ってたけど」
「え、そうなの?…ありがと」
「じゃあ早く片付けて」ガタっと立ち上がりながらキタガワが言う。
「…キタガワも一緒に?」
「そう言ったじゃん。早く食えって」キタガワが私の横へ来て私の弁当箱に残っていた唐揚げをつまんで食べた。
「「「ちょっ…!」」」そばにいたフルカワさんたちの声が上がる。




