表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

こんな感じになっちゃって

 小学生の時はカッコ良かったのに…

 そう思いながら教室の窓際のいちばん後ろの席から、廊下側の前から3番目の席のキタガワカナエを見る。

 …むかしはまっすぐな感じでそれでいて優しくて…ちっちゃかったけど男らしい感じもあって…ってすごく好きだったけどな…

 キタガワカナエは喜田川叶重。今、教室の前の方から別のクラスの可愛い女子に呼ばれて教科書を貸すために立ちあがったところだ。



 キタガワとは小3の時に初めて一緒のクラスになった。同じクラスの男子オオタに、オオタのお母さんと同じ名前なのをみんなの前で暴露され、しばらくはいじられて「オオタママ」と呼ばれていた。だんだん面倒くさくなってきた子からは「ママ」、「マミィ」と呼ばれるようになったが、「オオタ」と呼ばれなかったのはさすがに同クラのオオタとかぶってめんどくさかったからだろう。

 小学生男子ってまぁそんな感じだよね…

 それでたぶん、普通だったら中学になっても同小の子が持ち上がってるから、やっぱり「ママ」と呼ばれてしまう。もしかしたらもっと悪ふざけられて、「かあちゃん」とか「おかん」とか呼ばれていたかもしれない。それで別小の子から「なぁなぁなんであいつママとか呼ばれてるん?」みたいな質問を同小の男子がされて、結局みんなからも「ママ」って呼ばれる感じだ。

 中学生男子ってそんな感じだよね…



 でも、キタガワは中学では「ママ」とは呼ばれなかった。実際小6の中ほどからほとんどもう呼ばれなくなっていた。「ママ」と呼ばれていた小さくて、どっちかといったらいじられキャラだったキタガワは、小6くらいからだんだん身長順も後ろの方になり、顔つきも男の子らしくなって来て、中学でさらにがくんと背が伸び、小学の時とは別人じゃないかって言うくらい顔つきも変わったからだ。

 女子ウケするようになったキタガワカナエは、女子から「カナエ」とか「カナちゃん」とか呼ばれはじめ、しかもそれは幾分か甘いイントネーションで「カナエ~~~♡」とか「カナちゃぁ~~ん♡」とか呼ばれはじめ、モテはじめたキタガワカナエを変にいじると、女子ウケが恐ろしく悪くなると悟った男子に「キタガワ」としか呼ばれなくなりそのまま高校へ。

 まさか高校も一緒だとは思わなかった。しかも一緒のクラスとか。



 たぶん99.99パーセントの女子は今のキタガワカナエをカッコいいと思うんだろうけどね。

 わかるけどねそれは。

 でも私は小学の頃の、クラスでもそんなに目立たない方だった頃のキタガワの方が断然カッコ良かったと思う。

 当時のキタガワは名前の事や背が低い事で結構クラスメートにいじられいたが、それで卑屈になったりいじけたりは絶対にしていなかった。逆にケンカ腰でやり返したりしていたわけでもない。いろんな事を普通に受け入れていただけ。「ママ」と呼ばれても素の表情で「何?」と、それが自分の名前のように普通に返事していたし、体の大きな男子にふざけてこずかれたりしても、女子に「あんた邪魔、ちっちゃいくせに」とか言われても、気にする様子なんて全く感じられないくらいに普通にしていた。人によってはそんな風だと余計にいじられたり、いじめられるようになってしまう子もいるかもしれないのに、そうならなかったのはキタガワが本当に素で、相手が強いとか弱いとか、男子とか女子とか関係なく、誰とでも同じように、抑揚なく接する人づきあいのうまさのせいだったからだと思う。

 …でも…急激に拍車がかかってなんかチャラい感じになっちゃったけどね…



 教科書を借りに来た女子と何話してるのかは聞こえないけど、「やだぁありがとうカナちゃ~~ん。数A忘れて困ってたんだ~~すんごい助かる~~~」みたいな感じ?それでキタガワが「いやいやいつでもいつでも」ニコニコニコ、みたいな感じ?

 そしてそれを周りの女の子たちがチラ見してるって感じ。あの子この前も来てたよね…って思いながら。

 フワフワしたやわらかそうな茶色い長めの髪の目のぱっちりした子。勇気あるよね。キタガワに教科書借りる事がっていうより、うちのクラスの女子の前で借りていく事が。女子に借りないで敢えて同中でもなかったキタガワに借りに来てるのを、うちのクラスの女子に何て思われても気にしない、みたいな感じが強さは、自分に自信のある証拠なんだろうな。

 あっ…



 びっくりした…

 キタガワ、急に振り返るから…一瞬目が合ったかと思った。マズいマズい…

 教室の一番遠いところにいる私の視線なんて誰も何も感じてないと思うけど、とたんに目線を反らしてしまった。



 今の子だけじゃない。

 高校に入学して2カ月半、キタガワのところへ訪ねてくる女子はもちろん他にもいる。たいがい休憩時間にやってくる子たちは2、3人でやって来てワイワイキャイキャイ騒いで帰るが、来る子は限られている。クラスの子たちもいる時にやって来て騒げるくらい押しのあるのはやっぱり、ちょっと派手目で自分に自信のありそうな子たちばかりだ。キタガワの事を気にしている女子は多そうだけど、みんながみんな声をかけられるわけじゃないし。同中だった子は別として。

 見てるだけって子も多いと思う。…私のように…

 って、私のはまた意味が違うんだけど。

 今は『好き』って気持ちで見てるんじゃない。『こんな感じになっちゃって』って感じで見ている。



 いや、キタガワを見ている他の子たちについて私がこんな感じで気付いているって事は、私がキタガワを見ている事だって他の人も気付いているかもしれないって事だよね…

 止めよう!

 ヤバいよね、勘違いされる。『好き』だから見てるわけじゃないのに。他の女の子のように今のチャラい感じのキタガワをいいなって思ってると思われたら嫌だ。断然イヤ。もう見るのは出来るだけやめなきゃ!


 …でも…なんかやっぱり見ちゃうと思うけど…むかしのキタガワと今のキタガワが違うんだって事をいちいち確認するために。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ