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エイルは自室へ戻ると先ほど中断していた読書を再開する。

今彼が研究しているのは魔界の歴史についてである。

歴史といってもほとんど伝承と言っても差し支えなく、魔界ではさほど歴史に重要性があるとの

認識がないため、文献が少なく、ほとんど嘘か本当かわからない、物語のようなものしか残っていない。


この時が一番の幸せだ。

エイルは思う。

誰にも邪魔されず心安らぐこの場所で、自分の好きなものに没頭できるこの時間。

何物にも代えがたい至福の時だ。


しかし、エイルの至福の時は、突然の訪問者によって邪魔されてしまうのであった。




すらりと伸びた足、透き通るような白い肌、ライトブルーの目は氷のように光を乱反射させる。

光り輝く絹糸のよう金髪を翻し、彼女たちは、魔王城の門をくぐる。


「エイル様はいらっしゃるかしら、フレイア」

そのうちの一人がもう一人へ確かめるように声をかける。

「いるにきまってるわ、むしろあのエイルがどこに行くっていうのよ。お姉様」

お姉様と呼ばれた少女はふふっと上品に口元を緩めると、フレイアと呼ばれた少女へ微笑みかける。


「ええ、居てくれなきゃ困るわ。だって明日はエイル様の17歳のお誕生日ですもの」

「ええ、誕生日ですもの。引きずってでも連れてくわ」

二人は見つめあい、仲よさそうに、何かを企んだような笑顔で城の中へと歩を進めた。




「まあまあ、いらっしゃい。ユミルちゃん、フレイアちゃん」

満面の笑みで少女二人を迎えたのは、エイルの母親だった。


「こんにちは、ヘルベティア様。ご機嫌麗しゅう」

「お邪魔致します。ヘルベティア様」

ヘルベティアと呼ばれた彼女は、二人を実の娘のように暖かいまなざしで見つめながら

城の中へと手招きする。

「さあさ、入って入って。二人とも来てくれておばさん嬉しいわ」


「エイル様はお部屋ですか?」

城の廊下を歩きながらユミルが質問する。

「ええ、部屋にいるわ。あの子ったら今日もごはんの時間に姿を見せず、部屋で本ばかり呼んでるの」

やれやれと整った顔立ちの眉間の部分に皺を寄せながら、ヘルベティアがため息を吐く。

一見すると彫刻のように美しい顔立ちのヘルベティアだが息子のこととなると、どうしても難しい顔になってしまう。


「もう17歳になるというのに、外にも出ず、学校にも行かず、部屋で読書したり、変な研究をしたり、たまに

姿を見せたかと思ったら真っ黒になってたり、びしょ濡れになってたり、本当あの子は大丈夫なのかしら」

真剣な顔で息子の未来を案ずるヘルベティアだったが、ユミルは何だかその様子がおかしくて微笑んでしまう。


「ふふ、エイル様は相変わらずですわ。今は何に興味を持たれているのでしょう」

ヘルベティアとは対照的にユミルは楽しそうに、読書に研究に熱中しているエイルの姿を思い出しながら

微笑む。

「大丈夫です。ヘルベティア様。私たちが絶対に立派な魔王にしてみますから!大魔王様のように」

これまた対照的にフレイアが鼻息荒く息巻く。ちょっぴりおっとりした雰囲気のユミルとは違い、フレイアは

どこか気が強そうな雰囲気を纏っている。

「大魔王様のように……」

ヘルベティアがそう呟いて、今朝の夫の頼りなさそうな顔を思い出す。大魔王とは彼女ヘルベティアの夫のことだが

魔王城の外では魔界の盟主大魔王として恐れられつつ崇められている彼だが、今朝の息子にすら強く言えない姿を思い出し、

ああいう風にもなって欲しくないと密かにため息をついた。


そんなこんな三者三様の面持ちで、三人はエイルの部屋の前までたどり着いた。


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