ある日の放課後の出来事 ―続編―
二回目の投稿です。この作品を読む前に、前作を読むことをお勧めします。
優から勧誘された夜、俺はホーミーについて調べた。やはり、ネットは便利だ。親に聞いてもわからないと言われたのに、一発で検索結果にホーミーについて書かれてあるサイトがあった。
「なになに、モンゴルの伝統的な歌唱法の一つなのか! で、歌い手が一人で普通の声と高い声の二種類を同時に出すと……そんなこと出来るか!」
そして次の日の放課後、なぜ放課後なのかというと、俺が今日一日、優から逃げ回ったからだ。クラスが違うので助かった。今日もまた、ホームルームが終わるとクラスメイト達は慌ただしく出ていく。それと入れ違いに見知った幼馴染の男が俺の教室に入ってきた。ずかずかと俺の机に近づいてくる。逃げ遅れた。そう思ったときには、時すでに遅し。優は満面の笑みを浮かべて俺の隣に静かに佇んでいた。強行突破しようにも優が俺の鞄を持っているため、逃げようにも逃げられない。俺は優が鞄から注意を逸らすように慎重にそして平静を装い優に話しかけた。
「どうしたんだ優? 用がないなら帰りたいんだけど」
「何をぬけぬけと、今日一日俺を避けやがって!」
「違うクラスなんだから、偶然じゃないのか?」
「俺は毎時間の休み時間ごとに、この教室に来たのに勇介、お前どこに行ってたんだよ」
「どんだけ暇なんだよ! っていうか用事なら誰かに言付けしろよ」
「部活勧誘だから言付けなんて意味ないだろ。そしてホーミー部に入れよ」
「ホーミーなんて興味ないの。あんなことできるかっての!俺は静かに学校生活を楽しめればいいの」
と、俺が優の勧誘から逃れようとすると、優は突然、にたりと笑い始めた。気味悪がって俺が見ていると、優はこちらを振り向いて言ったのだ!
「……俺、知ってるんだぜ」
「……何を?」
「お前がホーミーに興味持ち始めてるってこと!」
「どこにそんな証拠があるっていうんだよ」
「昨日の夜、ホーミーについて調べたんだろ?」
「なんで知ってんだよ! あっ……」
俺がそう答えた瞬間、優は悪魔のように微笑んだ。口が滑るというのはこういう事なんだな、と俺自身思った。
「やっぱり、興味持ってたんだな」
「嵌めやがったな」
「嵌めてなんてないさ、お前の行動なんてお見通しだ。で、興味あるんだろ? ホーミー部に入れよ」
「嫌だって言ってんだろ。言いたい事がそれだけなら帰るぞ。俺は忙しいんだ」
「どうせ、図書館にでも行って読書するだけだろ? 読書するぐらいなら、ホーミーして一緒に汗を流そうぜ」
俺が入部すると言うまで、この繰り返しは永遠に続くのだろうか。早く図書館に行って読書したい……。その時、俺の頭の中に妙案が浮かんだ。
「俺が入部するって言ったらもう来ないわけ?」
「もちろん。えっ、入ってくれるわけ?」
優が瞳を輝かせて俺を見る。
「一つだけ条件がある。人数集めて同好会から部活に昇格したら入ってやる。まあ、部活になるまで二年掛かるけどな。それでいいなら入ってやるよ」
「……そうだった。部活を創設するためには同好会から始めないといけなかった……」
優はさっきまでの勢いはどうしたのか、頭を抱えている。
「忘れてたのか? まあ、優らしいけど。部活勧誘だったんだから、同好会は無効だよな? じゃあ、俺は帰るぞ」
今のうちにさっさと帰ろう。そして、本屋で確か今週発売の新刊があったはずだし、買いに行くか。俺は鞄を手に取り、頭を抱えた優の横を通り過ぎて、ドアへと向かう。
「分かった。条件を呑んでやる。だから、二年後メンツ集めて勇介を必ずホーミー部に入れてやるからな! 忘れんなよ!」
ドアに手を掛けた時、後ろから優がそう言っているのが聞こえた。俺は優に背を向けたまま答える。
「交渉成立だな。二年後、ホーミー部を作れてなくても泣くなよ。あと今後一切、俺の時間を邪魔すんな! ……作れるといいな、頑張れよ」
最後の一言は声が、小さくて優は聞こえてないだろうけど、紛れもない俺の本音。煩く感じる時も多少いや多々あるけど、あいつは俺の大事な幼馴染だ。本当に部活を作れるのか、今から二年後が楽しみだ。
―END―