ホテル
「出張で大阪に行ったときなんだけどね」
アヤシちゃんが話し出す。
「駅の傍のホテルを取ったの。ところが寝るまで外が煩いの」
アヤシちゃんの指はピンクの綺麗なマニキュアが塗ってあった。
学生時代には見なかった変化に、お互いなんだか大人になってしまった実感が沸いてくる。
「大阪の街って、夜遅くまで皆元気で、騒がしいんだね」
うふふ。とふわふわした声。
聞いてみれば、それは繁華街の傍だった。
街の問題じゃなくて、泊まった場所の問題だと思う。
でも、ちょっとずれているのがアヤシちゃんなので気にしない。
「それに夜中まで煩いの。夜の間、ずっと上の階の人が走り回っていたの。子供かな?」
「えっと…泊まったのはビジネスホテルだよね?」
「ん~。そうだけど。深夜の2時ぐらいから朝の4時ぐらいまでずっと走る音が聞こえてた」
「2時間も?」
「しかも部屋を右に行ったり左に行ったり。元気があるな~って思ったけど、煩くて」
それは…。子供ではないのでは?
「ああいうのは注意してもらったほうがいいのかな?」
可愛らしく小首をかしげてみせる。
「あ、そう言えば、水音も凄い煩かった」
「水音? どんな?」
「ジャージャーずっとシャワー浴びていたみたい」
そこまで話して、アヤシちゃんが困ったような顔をした。
「あれ? ヘンだよね。もしかして生きてない人たちだったのかな?」
いや。今気づかれても。最初からヘンだよ。
夜中に走っている音が聞こえている時点でヘンだと思う。
普通ならどう考えてもそれはおかしい。
「ねえ。どう思う?」
アヤシちゃんの周りは相変わらず騒がしくて、楽しそうだ。




