背中の女
アヤシちゃんと歩いていると、たまに「あっ」と言って立ち止まるときがある。
理由は教えてくれたり、くれなかったり。
今日は目の前に、同じ授業をとっている黒田くんがいた。
「黒田くん、なんで女の人、連れてるんだろうね?」
いや、私には彼1人しか見えないんだけど。
「しかも背中にぶら下がってるし」
「どんな女の人?」
「え? 見えない? ほら、髪が長くて細い人」
見えない。見えない(汗)
翌日、黒田くんと仲がいい山本くんと同じ授業だったので、こっそり聞いてみた。
「マジか?」
「うん。アヤシちゃんが言ってた」
「うわ。本物かよ」
実は先週、黒田くんは富士樹海へ行き、そこで木から釣り下がったロープを見てしまい、それから変なことが起きているそうだ。
「夜中にシャワーがいきなりジャージャー流れたり、電気が急に消えたりするんだと。夢にも出てくるって」
山本くんが、そこで言葉を止めた。
「それが髪の長い女だって言ってた」
お昼休みに山本くんと二人でアヤシちゃんを探す。
今なら彼氏と学食にいるだろう。
「アヤシちゃん!」
「どうしたの?」
「黒田くんの背中、本物」
私が言えば、アヤシちゃんは首をかしげた。
「本物?」
「なんか憑いてるみたい」
「うん。そうだよ。言ったじゃん」
言った。言ったけどさ。
まさか、本当だって思わない。
「祓ってあげて」
そう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「どっか行ってって、自分で言ったらいいよ。ね?」
いや、普通の人は、霊とは話せない…と思う。
私と山本くんは、にっこりと可愛らしく笑うアヤシちゃんの前で立ち尽くした。