勝負
アヤシちゃんと校舎内を歩いていたら、突然先輩と思われる男性に声をかけられた。
「ねえ、ねえ。キミ、霊感が強いんだって?」
潔いぐらいのストレート。アヤシちゃんは返事をせずに、じっとその先輩を見つめた。
「あと、『気』も出せるんだって?」
なにも答えないアヤシちゃんに、さらに畳み掛ける。
「俺も『気』が出せるんだ。勝負しようぜ?」
「勝負?」
初めてアヤシちゃんが反応すれば、先輩はにっと笑って、そばの空き教室に私たちを誘った。
「手を向き合わせて、『気』の出し合いをするんだ。どっちが勝つか」
先輩がすっと片手を前に出した。手のひらがこちらに向けられている。
アヤシちゃんもその手から50㎝ぐらい手前に、手のひらを先輩に向けて、胸の高さに手をあげる。
何が始まるんだろう。
一瞬わくわくしたけれど、それは本当に一瞬で終わってしまった。
先輩が手を下ろし、アヤシちゃんも手を下ろした。
「強いな~。この大学にこんなに強い奴がいるとは思わなかった」
先輩はそう言って、自分の手を見ている。
「うっ。寝不足だからかな。もっと押せるとおもったんだけど」
そんなことを言っている先輩を置いて、アヤシちゃんは私に笑いかけた。
「いこ?」
「う、うん」
教室を去る私たちに、後ろから先輩の声が追いかける。
「また勝負しような」
アヤシちゃんは、曖昧な笑みで答えただけだった。
その後にアヤシちゃんの彼氏と合流し、この話をしたら、非常に悔しがられる。
「僕も勝負してみたかったな~」
そこか。
アヤシちゃんが可愛く微笑んだ。
「きっとヒロくんの方が強いと思うよ? 私でもストレート勝ちだったから。ずっと『気』を出して押していったら、しゅーって相手の手元まで行ったの」
それから思い出したように、ふっと視線が上に逸れる。
「でも寝不足で万全じゃないって言ってたから、次は私は微妙かも」
視線がまた彼氏に戻る。
「ヒロくんは絶対勝つよ。今まで見た人の中では一番強いもん」
そして私に同意を求めるように言う。
「ね?」
えっと…。
私に何を言えと?
私は曖昧に笑うしかなかった。




