伝わる想い - Ⅲ
僕は部屋に戻っていた。後悔の念に苛まれ、布団の上にうつ伏せになって死んだように横になっていた。
「付き合ってください……」
そう言われた時、どれだけ嬉しかったことだろう。これまで、『彼女』がいなかった僕にとって、この告白は衝撃だった。死ぬまで記憶に残るだろう。
しかし、同時に一つの疑問が浮かんでしまったのだ。
なぜ、僕なのだ、と。
正直言って、僕は自分の顔に自信はない。いや、あってもそれはそれで困る。それでも、致命的な形をしたクリーチャー、というわけでもないだろう。
ようするに、どこにでもいる平たい形をした日本人の顔だ。
それに比べてダニエルは、誰が見てもイケメンである。色情の全てを二次元に注いでいることを除けば、頭も良いしスポーツもそこそこ、よく出来た人間だ。加えて、彼の家は金持ちだ。既に卒業後の就職の話も来ているらしい。
僕達が並んで歩いていれば、百人の女性に聞いて百人がダニエルを選ぶと思う。男性も選ぶと思う。
だから、その時僕は聞いたのだ。
「な、なんで俺なの? ダニエルじゃなくて?」
「…………」
質問の仕方がまずかったのかもしれない。ミヤちゃんは何も答えなかった。
上目遣いでこちらを見つめているだけだった。
その時の僕は、混乱していて思考がぐちゃぐちゃだった。束の間の沈黙が流れる。それを破って、先に口を開いたのはミヤちゃんの方だった。
「……安藤君。わたしの目を見て」
突然何を、と思ったが、言われた通りにミヤちゃんの目を見る。
見つめ合う形になるわけで、恥ずかしさのあまり目線が震えていたかもしれない。だが、目を合わせた時、僕はさらに混乱した。
ミヤの瞳の片方が、仄暗い金色に輝いていた。同時に、背筋におぞましいほどの寒気が走る。
海水浴場で声を聞いた時と似ている感覚。そしてサチュリが飛び起きた。
『目をそらせアンドー! 催眠魔術だ!』
「ヒプ……?」
突然サチュリが叫ぶので、驚いてそちらを向いた。幸いそれによって、ミヤちゃんの魔術から逃れることになる。
ミヤちゃんは、サチュリの放った言語を聞き取れなかった。しかし、意図を察したのか、「なんで……」と言いながら、泣き崩れた。ここまで泣き喚くミヤちゃんを、僕はかつて見た事が無い。
なぜ僕だけ、サチュリの言葉の殆どを理解できるのか、わからない。サチュリも、僕の話す日本語だけを完全ではないものの理解していた。
「す、少し考える時間が欲しい。必ず答えは出すから」
僕は、泣いている彼女にそう言い残して、そっと頭を撫でてやってから、静かに扉を開けてその部屋を出た。今思えば、なんてヘタれた真似をしたんだろう。
ゆえに、僕は後悔をしていた。外からは、夕焼けで茜色に染まる空を、一羽のカラスが飛んでいく鳴き声が聞こえる。その鳴き声は、僕の無様な姿を嘲笑っているかのようにも思え、僕は虚しくなった。
***
そうしながら、どれだけの時間が経ったのだろう。部屋の扉を開く音がしたので向くと、ダニエルが帰って来たようだった。ものすごい疲弊した顔をしている。
「おう、おかえり」
「うす……、怪我したって聞いたけど大丈夫かい。何があったんだ、トイレで」
「いや、まぁ、いろいろ……」
「なんだ、いろいろって」と、苦笑された。
本当にいろいろあったので、答えようがなかった。ダニエル達が何をしていたのか気になったので、話題をそらして尋ねることにした。
「――ところで、お前らは二人でどこ行ってたんだ?」
「それを聞くか……思い出したくないのだが……」
ダニエルは、黎と二人で買い物に行っていたらしい。いや、半ば一方的に付き合わされていたらしい。ひたすら歩き回され、荷物持ちをさせられ、ここにまで至ったらしい。道理で死にかけのような顔をしていたわけだ。
「ああ……。それはなんていうか、ドンマイ……」
「やはり、三次元はクソだな。君もそう思うだろう?」
「…………」
「安藤……?」
「いや、実はさ、告られたんだよね、ミヤちゃんに」
「はぁ? ……はぁ?」
二度見しながら驚かれた。
ダニエルが、ここまで驚くのは初めて見た。しかし、すぐにいつものように平静さを取り戻し、軽く咳払いをした。
「そうか、よかったじゃないか。あいつは三次元の癖に結構可愛いと思うぞ」
「まぁ、そうだけどさ……。まだ返事してないんだよね。今日中にはしなきゃとは思ってるけど」
「……はっきり言うが、君の性格では、やらなきゃやらなきゃと言いながら先延ばしして、最終的にやっぱいいや、と言うと思うぞ」
「至極ごもっともですわ……」
「だから、今日やらなきゃではなく、やれ。やると誓え、僕に。出来なかったら君の財布から万札を一日一枚ずつ抜いていく。これはマジだ」
「はい……」
ダニエルの助言のおかげもあり、僕は決意をすることが出来た。今日の夜、返事をする。もちろんオーケーのほうで。
彼は「頑張れよ」と、一言だけだが応援してくれた。やはりイケメンだった。
***
一人の女性が、旅館に向かって歩いていた。日は沈みかけ、空の向こうは茜色に染まっているが、反対側は既に暗く、星が微かに輝いている。
彼女は足を止めた。自身を付き纏う存在に気づいたからだ。後ろを振り返らずに、言葉を発した。
「……なんでしょうか? わたくしに何か用でも?」
「…………」
追跡者は何も答えずに、女性へと近づいていた。さすがに様子がおかしいと思ったのか、女性は後ろを振り返る。そこには、白い髪に赤い片目を携えた、一人の青年が立っていた。人間の年齢でいえば、二十歳くらいだろう。
「魔界人? 一体なぜここに?」
女性は、天界の魔術を詠唱し、空中に円形の白い魔法陣を形成した。直径は十メートル程で、二人はその円に収まる位置に立ち、向かい合っていた。
魔法陣からは、淡い光が発せられ、地面を照らしている。追跡者は攻撃を警戒しているようだが、戦いになっても負ける気はしないと言わんばかりの様子で、一歩もたじろぐことはなく、そこに立っていた。
「安心なさいな。これは、万物霊を言霊に変換させてるだけですわよ。この魔法陣の範囲内にいれば、言語の壁を越えて対話が出来ますわ」
「なるほど、便利なものだな。エーテルは」
魔界人の男は、淡々とした声ではあるが、返事をした。どうやら、やはり言語が通じていなかったらしい。
「……で、あなたはいつからわたくしをつけているのですか? わたくしは急いでいますし、あなたとは戦う気もありませんわよ」
「駅、からずっとだ。だがたまたま向かう先が一緒なだけで、貴様に興味は、毛頭無い」
「そうですか、それであなたはどこへ向かっておいでで?」
「場所の名はわからん……。妹と合流せねばならんのだ。急いでいるのは、こちらも、同じだ」
「そう……。わたくしは、シェミル。シェミル=オルディーナ=キュピレ。〈アカシア〉管理局の第二防衛隊隊長、“緑閃”のシェミルと聞けば、魔界人のあなたと言えど、一度くらいは聞いたことがあるのではなくて?」
「知らん」
「……それで、あなたも名乗ったらどうですか?」
「リュード=レクシリア。三魔帝の一人であり、魔界で二番目の強者である、サチュリ=レクシリアの兄だ」
「知りませんわね……。まぁ、敵意は感じられないし勝手になさいな。魔術は解除しますから、話しかけてもわかりませんので」
二人は、一定の距離を置いて歩いた。行き先が同じことに気づくのは、旅館に着いてからである。
***
宿泊のプランの関係上、朝昼晩の三食は用意してもらえることになっていた。四泊五日という、サークルの合宿としては短い期間なのだが、その分快適な生活を送ることができるだろう。完全に旅行である。
夕食の時間はかなり気まずかった。黎も、ミヤから話を聞いていたようで、こちらをちらちらと見るも、何も声を掛けることはなかった。ミヤはというと、食事の間、殆ど俯いていたので、表情がよく見ることができなかった。ダニエルはというと、いつものように静かに食事をとっていた。こいつはぶれないな。
二年生や三年生が、こちらを見て「何かあったのかね」とか耳打ちをしていたが、丸聞こえだった。本当に惨めである。
夕食を済ませ、食堂から出て部屋に戻る。すると、部屋の前に二人の男女がいることに気がついた。
「なんだあいつら……」
ダニエルも不思議に思っていたようだ。
だが、僕は男の風貌を知っていた。白い髪に赤い片目。サチュリと同じだ。もう一人の女性は見たこともない。かなり大人っぽい身体つきをしている。
「どうかしましたか?」
僕は近づいて声をかけた。二人はこちらを見て、何かに驚いたのか、目を丸くする。
男はものすごい剣幕をして、こちらに近づいてきた。顔がものすごい近い。目を覗き込んでいた。もう一人の女性も、ゆっくりとこちらに来て後ろから覗いてきた。
「混ざってますわね……」
「…………」
女性は、巧みな日本語でそう言った。男は何か呟いていたが、聞き取れなかった。日本語ではなかったからだ。代わりに自身の眉間を手で抑え、落ち込んでいる。
「あの――」
「あっ! シェミル!」
「誰あれ?」
後ろから、ミヤちゃんと黎の声が聞こえてきた。彼女達も食事を終えて戻ってきたようだ。一瞬ミヤちゃんと目が合ったが、すぐにそらされてしまった。
「えっと……ミヤちゃんの知り合い?」
「う、うん……。さっき予約人数二人分増やしてもらったでしょ? この人がそうなの」
誰だろうこの人は。ミヤちゃんの姉だろうか。
その割には似ていない。背は僕と同じくらいだし、スタイルはどこかのモデルのようだ。
いろいろな思考を巡らせていたが、口を開いたのは女性の方だった。
「初めまして。氷室黎さん、安藤弘樹さん。わたくしはシェミル。よろしくお願いしますね。ミヤとは、長い付き合いのお友達ですわ」
「 は、はぁ……」
金髪のロングヘアを揺らしながら、彼女は笑顔で会釈をした。というか、髪の毛が長い。エスカレーター乗れないだろこれ。間違いなく引っかかって危ない。
なぜ僕の名前を知っているのか、少々気になったが、ミヤの知り合いならば話題になることもあるのだろう。
「そちらの方は……?」
「こいつは知りませんわ。ストーカーです。駅から着いてきているんです。警察に連絡したほうがよろしいですわね!」
「ストーカーって……」
もちろん彼がサチュリの関係者であることは、その風貌から察しがついた。シェミルと名乗る女性は、言葉が通じていないことを良いことに、その男に罵声を浴びせまくっていた。
当の本人は、その場で拳を震えさせながら、俯いて立ち尽くしている。
本当に言葉を理解してないんだろうか。なんか怒ってるような雰囲気を醸し出していた。
「ところで、お二人はなぜここに?」
ダニエルが問う。ここはミヤちゃんと黎の寝泊まりする部屋の前である。
「あら、すみませんわね。わたくしはそちらのミヤに呼ばれて来ましたの」
「呼ばれて……?」
「ちょ、ちょっとシェミルぅ……」
シェミルは、まずいことを喋りかけた、と言わんばかりの仕草で「なんでもありません」と答えた。何か隠していることは確定的に明らかだった。ミヤちゃんは小さくため息をつく。
「ところで、あなたなかなかにイケメンですわね。お名前はなんて言うのかしら?」
「おっと、これは失礼。ダニエルといいます。ダニエル・ブラックフォード。三次元には興味ありません。よろしく」
色っぽく近づいてきたシェミルを、ダニエルは一歩たじろぐこともなくあしらった。というかどんな自己紹介だよ、それ。
「うふふ、面白い方ね。髪の色も似ているし、親近感が湧いてしまいましたわ……ん?」
白髪の男が、自身の喉元を指差し、シェミルに何かを伝えようとしていた。
「あー、はいはいわかりましたわよ。ミヤ、私たちを部屋に入れてくださるかしら?」
「あ、うん! 元々、シェミルはこの部屋に泊まることにしてたから大丈夫だよ!」
「それではお邪魔します。悪いのですが、安藤さん、ダニエルさん、また後ほど会いましょう」
そう言い残し、女性三名と白髪一名は部屋の中へ入っていった。取り残された僕たちは、特に何かを気にすることもなく部屋に戻った。今はそれよりも、ミヤちゃんとの件を解決しなければならない。そのことで頭がいっぱいで、シェミル達の登場は、意外にあっけなく記憶の片隅へ置き去りにされてしまうのだった。
「はー、なんか今日は疲れるな……。まだ一日目だってのに……」
僕は敷いてあった布団に倒れこんでいた。気を抜いたら簡単に眠ってしまいそうだ。
「……それで、いついくんだ?」
ダニエルが、何について問うたのかは瞭然だった。
「……もう、今から行こうと思う。お前の言う通りウダウダ引っ張ってはいかんことだしね」
「ああ、そうだ。行ってこい。OKするんだろ?」
「……そのつもり」
僕は立ち上がる。
実家のお母さん、お元気でしょうか。お母さんの言った通りでした。
僕が、自分に彼女なんて出来るはずがない、そう言った時、いつもお母さんは、そのうちできる、と励ましてくれましたね。あなたの言った通り、僕には今日、生涯で唯一になるであろう、彼女様が出来ます。
大人の階段を一歩登ってきます。
一度深呼吸をして、部屋の扉を開いた。
目の前には、白髪の男女二人が立っていた。
眠そうな顔をしたサチュリと、物凄い剣幕でこちらを睨む男。
「……君に話がある」
男はそれだけ言って、僕は屋外へ連れて行かれた。
***
魔界人の二人はそそくさと部屋から出て行ってしまったので、ミヤ達の部屋では女性陣のみの、いわゆる“恋バナ”が始まろうとしていた。
始めに切り出したのは、シェミルである。
「さてさて、それでミヤはどんな風に告ったのですの?」
「あ、それあたしも気になるかも……ちょ、ちょっとだけ!」
黎も話に乗ってしまったので、ミヤは答えるしかなかった。
しかし、うまい説明が見当たらない。魔術の事に関しては、極秘事項である。安藤には知られているものの、それは近しい事情があると思われたからであった。人間離れした身体能力を持つ少女、サチュリである。
ミヤは知っていた。異界の住人と関わりを持った時点で、その者の日常は歪み始めてしまうことを。それは、彼女にとって親友とも呼べる、シェミルに関しても例外ではない。
ましてやそれが、三人だ。人数が増えることで影響がある確信は無いが、良い結果をもたらすことはまず考えられなかった。
「わ、わたしもテンパっててよく覚えてないんだけどね……――」
ミヤは魔術のことを黎に悟られぬよう、慎重にことの顛末を話した。夕食前に、心配してくれた黎に対して話したこととほとんど同じ内容になってしまうのだが、それでも黎はミヤの話を真摯に聞いていた。
「……そもそも、あのチンチクリンは誰なん? すげー髪してるけどヘビメタでもやってるんか」
「わたしもよくわからないけど……安藤くんが浜辺から戻ってくるときに負ぶってたの。その時は頭から血を流してて、全身も血だらけで……とにかく何も考えられなかった。しかも安藤くん、あの高い柵から落ちてきたんだよ。その時の安藤くん、なんかすごい人間離れした雰囲気してたんだよね、怖かった……」
「なるほど――」
静かにミヤの話を聞いていたシェミルが、口を開く。
「その、人間離れをした雰囲気というものはおそらく皆が感じたかもしれませんわね。黎さんも感じたでしょう?」
「……いや、別にそんな感じはしなかったけど」
「あなたはよほど鈍感なのかもしれませんね」
「なんか言った?」
「……いえ、何も……って痛い痛い! 髪の毛引っ張らないでください!」
「……そもそもミヤ、このおばはん誰? ていうか、何者?」
「おばっ――!?」
黎の言葉は、シェミルの導火線に火をつけてしまったようだった。互いの視線は火花を散らしながらぶつかりあっている。
「しぇ、シェミルはわたしの昔からの友達だよ! 喧嘩はやめてよ二人とも!」
「へぇー、昔からの」、そう呟きながら、黎はシェミルの長い髪から手を離した。髪は見る間もなく、元の整った形に戻った。
「……で、あのチンチクリンのことはミヤもシェミルちゃんも知らないんだ?」
二人は、揃ってうんと頷いた。シェミルは実は知っているのだが、余計なことに黎を巻き込むわけにはいかないという判断だった。
「……なら、調べるしかないな。いくぞ諸君!」
しかし、シェミルのその判断は誤りだった。気がついた時には、既に黎の探究心には火が灯ってしまっていた。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいな。調べるって、どうやって……」
「んなん、盗み聞きするだけじゃん?」
魔界人の察知能力はヒトのそれとは比較にならない。一人でこっそり近づいただけでも立ち位置程度ならば簡単に暴かれてしまうだろう。それで見つかって終わるならば、彼女も諦めてくれるだろう。シェミルはそう考えてしまったのだ。
「まぁ、そのくらいだったら……」
「決定ね! じゃ、早速」
黎はカバンの中から、紙コップを取り出す。そしておもむろにそれを壁に押し付けた。
「……ミヤ」
「な、何?」
「この暴力猿は何をしているんですか?」
「……盗聴じゃないかな、た、たぶん」
隣の部屋には、ダニエルしかいないことを、彼女達は知らない。しかし黎は本気だった。熱心な黎を、他の二人は呆然と見守っているだけだった。
「…………んん?」
突然に黎が驚きの声を上げるので、ミヤは驚いて跳ねた。
「な、何か聞こえたの?」
「……いや、何も」
「今の声はなんだったのですかね……」
やはりというべきか、最初に根をあげたのは黎だった。
「あああ! 何も聞こえない! もういい、乗り込もう」
「乗り込むのはちょっと……まずいんじゃないかなぁ……」
「そうですわよ黎さん……って、あら?」
シェミルが気が付いた時には、黎は部屋から出ていた。慌てた二人はそれを追いかけた。黎は既に安藤の部屋に乗り込んでいた。シェミル達も追いつくが、彼女達が見たのは布団で寝転がりながら、携帯ゲーム機をするダニエルだけだった。
「……今度は何の用だ?」
「安藤は?」
ダニエルの問いを無視して、黎は問いかけた。ダニエルはため息混じりに応える。
「……安藤なら白髪の二人と一緒にどこかへ行ったぞ?」
「マジかー、どこだ……? ダニエルも探すの手伝ってよ」
「断る。今僕は“かなめちゃん”と二人で過ごしているんだ、邪魔をしな――」
「……マツサダ」
その言葉を聞いた途端、ダニエルの顔が青ざめた。口を開けたまま硬直している。
「……いきます」
「ダニエルくんと黎ちゃん、何かあったの……?」
「……聞くな、絶対に聞くなよ」
「そう言われると気になっちゃうなぁ」
撃沈したダニエルをよそに、黎は「ふふふ……」と不敵な笑みを浮かべていた。かくして、『チンチクリン兄妹の正体を暴き隊(黎命名)』が誕生した。