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嘘吐き秘書と魔王な社長  作者: 緑海
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面接試験その6・・・『プライド・スペル』

「この世の全てが買える世界・・・!?」

驚きを隠せない僕にアリアさんが言う。

「そう、それがここ、『全魔族共和主義連邦』―――『魔会』だ」

・・・なるほど、『金塊等魂法』とはよく言ったもんだ。

金塊は魂と等しい・・・そのまんまぴったりだもんな。

「さて、ようやく説明が終わったが・・・本題については何も話せていないな」

「本題・・・あっ」

そういえば確かに、どうして僕がここに連れてこられたかは分からないままだ。

「この世界は全て金で買える、だから『魔会』の魔族達は皆金を必死で稼いでいる―――無論、私達も、だ」

そう言うとアリアさんは隣でいびきをかいているヘレルさんを指差し・・・

「ぐがぁ・・・・・・」

「・・・はっ!」

ドゴォッ!!

「うぼぉっ!?」

思いっきり、腹パンをかました。

「全くお前はっ!自分の世界の説明ぐらいまともに聞けんのか!?」

「だってアリアの説明クッソ長いんやもん!そりゃ眠くもなるわ!」

「お前は私が何を話しても寝てるだろうがっ!」

「だからって腹パンは無いやろ!女の子に暴力はアカンって言われんかったんかいな!」

「社内を飛び回ってクレーター量産するようなバカを女の子とは呼ばん!」

・・・なんていうか・・・不毛、だなぁ・・・

「まったく・・・ほら、ヘレル、会社の説明だ、早くしろ!」

「はいはい・・・いつからアリアはこんな暴力魔族になったんかねぇ?ウチは悲しいよ」

「・・・もう一発、要るか?」

「いーや、遠慮しとくわ・・・よっこいしょっと」

そう言うとヘレルさんは椅子から立ち上がり話し始めた。

「んじゃぼん、『プライド・スペル』について説明するで?」

「ぷ・・・」

プライド・・・スペル?

「そう!『プライド・スペル』!」

僕が何か言葉を発する前にヘレルさんが立ち上がった。

「ウチが創立した会社にして、いずれ『魔王』にまで上り詰める事になるであろう会社の名前や!」

「・・・今はまだそこいらの弱小企業の一つに過ぎないがな」

「そこ!うるさい!」

・・・えーと、今分かった事をまとめると・・・

今僕が居る建物は目の前のヘレルさんが作った会社、『プライド・スペル』の中ってことか。

そして『プライド・スペル』は弱小企業である、と・・・

「ったく、アリアはほんま・・・まぁええわ、ぼん、本題に入るで!」

急に真面目な顔をしてヘレルさんが話し始める、

「ウチはアリアと違ってまどろっこしいのは苦手でな?・・・単刀直入に言わせて貰おか」

「は、はい」

ここまで話を聞いてきたが未だに分からないことがあった。

・・・どうして僕がここに連れて来られたんだ?

その疑問の答えが、ようやく分かるんだ・・・!

「ぼん―――」

そこまで言うとヘレルさんは指をビシィ!っと僕のほうに向け―――

「今日からぼんには、私の秘書になってもらう!」

・・・・・・・・・

「・・・は?」



「え・・・?」

今この人なんて言った?

・・・秘書になれ、って言ったのか?

「・・・えーと、アリア、さん?」

僕はとっさにアリアさんの方を見る、また暴走してるんじゃないのか?

「残念だが・・・今回はコイツの独断じゃない、我々『プライド・スペル』の総意だ」

・・・嘘だろ?

「・・・一応聞きますけど、どうして僕なんですか?」

別に僕は他人と比べて頭が良いわけじゃない、

むしろいたって普通の学生をやっていたはずだ。

「ふんむ・・・採用理由を聞かれても困るけど・・・ま、ええやろ、別に言ったって問題ないしな!」

そう言うとヘレルさんは椅子に座りなおし話し始める。

「ウチらが欲しいのは唯一無二の才能、『プライド・スペル』は他にはないオンリーワンの才能を求めてるんや」

・・・オンリーワンの才能、ねぇ?

「・・・すいません、正直思い当たる節が一つも無いんですが・・・」

悲しいことに僕は本当に平凡な学生だったのだ、特殊な才能なんて一つも―――

「何言うとんの?ぼんには立派な才能があるやん!」

「は?」

満面の笑みでそう言い放つヘレルさん、この人は何を―――

「ウチらが欲しいのはな、ぼんの唯一無二の才能・・・嘘を吐く才能なんや!」

・・・は?




「嘘を吐く・・・才能?」

「そうや、まぁ言うなれば嘘吐きの天才?みたいなもんやね」

そう言って笑うヘレルさん・・・何言ってるんだ?この人?

「・・・いや、何言ってるかわからないんですけど・・・?」

「何を言ってるも何も言葉通りの意味やけど?」

・・・だめだ、話が通じない。

「やめてください!僕にはそんな才能ありません!」

「そうか?あんなに素早く嘘を考えて自然体で言える・・・ウチは凄いと思うけどなぁ?」

言いたくて言ってるわけじゃない!

・・・とっさにそう叫びたくなるのをこらえて僕はヘレルさんに言う。

「僕は嘘なんて吐きません、大体何を根拠に僕に嘘吐きの才能があるだなんて・・・」

「―――4月1日、午後15時34分」

・・・え?

「何の事―――」

「大体今から9年くらい前やろうか?・・・忘れたとは言わせへんで?ぼん?」

9年前、そういわれて僕は思い出した。

いや・・・思い出してしまった(・・・・)

・・・なんで?なんでヘレルさんが『あの日』の事を・・・!?

「すまんな、ぼんの事、実は色々調べさせてもらっててん、だから知ってるんよ」

頭の中に『あの日』の光景が蘇る、思い出してはいけないはずだったのに―――

「ぼんが自分の嘘のせいで家を追い出されたことも」

長い間忘れていた・・・いや、忘れたと自分に言い聞かせていた―――

「『あの日』、ぼんが何をしたのかも、全部な」

―――コータ君、ゴメンね―――

―――さよなら―――

「っ!」

そんな、最悪の思い出。

黙り込んでしまった僕にヘレルさんが声をかける。

「・・・ぼん、話は変わるがなぁ?仮にウチらのところ、『プライド・スペル』で働いてくれるんなら・・・何でも好きなもん1つ、買ってやってもええよ?」

・・・まるで小学生か何かを誘っているかのような言い方、でも僕にはヘレルさんが何を言いたいか分かった。

―――この世界は文字通り、『何でも買える』世界なんだ―――

・・・だったら、さ・・・

「・・・ヘレルさん、ちょっといいですか?」

「・・・何や?ぼん?」

僕は口を開く、

「『過去』を買う事って、できますか?」

「・・・できひん、つったら嘘になる、かな」

「・・・ありがとうございます」

・・・やっぱり、な

「決めました、ヘレルさん」

「・・・そう、か、だったら―――」

ヘレルさんは懐から2枚の紙・・・羊皮紙って言うんだっけか?

2枚の羊皮紙を取り出して僕に渡した。

「片方の契約は『向こうの世界』に帰る為の契約、ぼんのしてる腕輪の力で『向こうの世界』に帰る代わりに『トレーディア』での記憶は全部消えてまう、って内容やな、ほんでもう片方が―――」

僕は帰る方の契約書には目もくれず、もう片方の契約書を見つめる。

「―――こっちの世界で働くに当たっての基礎契約、それとぼんへの報酬に関する契約、やね、分かりやすく書いとるはずやからよう読みな」

言われるまでもない、僕は契約書の長い文章に目を通した。

・・・うん、基礎契約のほうは多分大丈夫だ、変なことは書いてないと思うし

問題は報酬のほうだ。

まず1つ、不老不死など実現不可能な物は要求できない。

そうしてもう一つ、契約主の魂なども要求できない。

ここまでは当然として・・・問題はこの2文だ。

『報酬の支払いは契約主、『プライド・スペル』が『魔王』となった時支払われる』

『報酬が支払われるまで契約者は『トレーディア』から出ることは出来ない』

・・・要するに、報酬が欲しいならこの会社を嫌でも押し上げろ、って事か。

「・・・はい、大丈夫です、ヘレルさん」

「ちゃんと全部読んだか?1回契約してもうたら、もう無かったことにはできひんねんで?」

「大丈夫です、覚悟はできてます」

ここで秘書として働いていける自信、なんてあるはずない、バイトは一応してたけどそんなのとは比べ物にならないほど大変だろう。

・・・それでも、僕はやらなくちゃならない

僕の嘘で『あの日』の事をどうにかできるのなら、僕は嘘を吐き続ける。

「・・・そうか、んならここにサイン、してもらおか?」

そう言うとヘレルさんは緑色の液体が入った小さな壺と羽ペンを差し出した。

「契約には専用のインクが必要なんや、こぼさんようにな?」

「ありがとうございます」

羊皮紙を机に置きなおしペン先をインクにつける。

よし、あとはここに僕の名前を―――

「・・・何してるんですか?」

机の向こう側から興味津々で覗きこむヘレルさん

正直ものすごく書きにくいんですけど・・・

「い、いやな!?なんでもないねんで!?ただな!ただ・・・」

ヘレルさんは何やら気まずそうに黙り込んでしまった、頭の狐耳もペタンとへたり込んでいる。

「ただ?」

「いや、そーいえばウチ、ぼんの名前知らんな、ってな・・・?」

ああ、そういえばここに来てから一度も名乗ってなかったっけ?

「聞いてくれれば僕の名前ぐらいいつでも言いましたよ?」

「いんやぁ・・・事前に調べたーて言うたクセに名前も知らんとか恥ずかしいやん・・・」

・・・そう言われてみれば、おかしな話だな?

「調べたんだったら知ってるはずじゃ・・・?」

「あー・・・」

さらにうつむくヘレルさん、なんだ?何があったんだ?

「・・・なぁヘレル、いい加減観念したらどうだ?」

「いやや・・・」

呆れたように言うアリアさんにヘレルさんはうつむいたまま答える。

「・・・はぁ、仕方ない、私から言うぞ?」

「!?、やめっ!?」

抗議しようとするヘレルさん、しかし一歩遅かったようで―――

「・・・読めなかったんだよ、お前の名前が」

「・・・は?」

読めなかったって・・・

「アリアッ!?なんで言うてもうたん!?」

「いや、別に隠す意味もないだろう?」

「アホッ!アリアのせいでウチのカッコイイ社長っつーイメージが・・・」

「そんなものは元々存在しない、安心しろ」

「ひどっ!?」

・・・ああ、そうか

よくよく考えてみれば、僕の元々居た世界はヘレルさん達からしたら立派な異世界なんだ。

そりゃ漢字なんて読めないだろうな。

「・・・すいません、ヘレルさん」

僕は契約書に名前を書いてヘレルさんに見せる。

「僕の名前は―――」

・・・正直、そんなに好きじゃないんだけどな、僕の名前・・・

一年ヒトトセ、 幸太コウタです」


・・・こうして僕、ヒトトセ コウタの異世界生活が始まった。





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