面接試験その5・・・異世界講座
「なるほど・・・この世界の事を説明するのが面倒で強引に連れて来た、と?」
「は、はい・・・」
あれから数分、女性・・・確かヘレルさんって呼ばれてたっけな?
ヘレルさんはアリアさんに僕をここまで連れて来るまでの事を尋問されていた・・・正座で。
「それで?『向こうの世界』から、この子を拉致して『魔会』に連れて来たと思ったら今度はその子を捕まえるために大事な社内の壁をぶっ壊した、って?」
「おっしゃるとおりにございます・・・」
『向こうの世界』やら『魔会』やら色々分からない単語が出てきているがさすがにこの状況で質問できるほどの勇気は僕には無い。
「呆れを通り越していっそ笑えてくるな・・・ヘレルが居ない間私は必死で社内を回してたって言うのに・・・」
「すんませんでしたぁ!許してください!」
ヘレルさんが思いっきり土下座する、
・・・この人本当に社長なのか?
「はぁ・・・君、社長の暴走につき合わせてしまってすまない、まずは私から改めてお詫びさせてもらう」
「い、いえ、そんな・・・」
アリアさんがキッチリと頭を下げる、この人の方が社長っぽいんだけど?
「ありがとう・・・コイツは昔から暴走しだすと止まらない性格でな、私も何度手を焼かされてきた事か・・・」
しみじみというアリアさん、その顔からは今まで味わったであろう果てしない苦労と疲労の両方が滲み出ていた。
・・・この人、苦労してるんだなぁ・・・
「・・・さて、本題に移ろう、ヘレルが君をわざわざここに連れて来たのには理由があるんだ、ほらヘレル説明しろ」
アリアさんが近くにあった椅子に座り、ヘレルさんに言う。
「は、はい!ありがとございます!」
・・・ヘレルさん、完全に屈服してるな
「こほん・・・んじゃ、言うで?ぼん、ウチがぼんを連れて来た理由はただ一つ―――」
少しためてから、ヘレルさんは口を開いた。
「ぼん・・・ウチのもんになってくれへんか?―――痛っ!アリアッ!?」
「お前はアホか!?そんな言い方したら逃げられるに決まってるだろうが!」
「だからってしばく事ないやん!アリアの鬼!暴力魔族!」
「お前に言われたくない!この脳筋社長!」
・・・まるで子供みたいだな、この2人・・・喧嘩するほど仲がいいってやつか?
「ふぅ・・・仕方ない、私から説明しよう」
やっと言い争いが終わったみたいだ、ようやくこの訳分からん状態から抜け出せるんだな。
「さて、ヘレルの目的の前に君が今居るこの世界について説明しようか」
・・・ん?
「・・・今居る世界、ですか?」
その言い方って・・・まさか・・・
「ああ、ここは君が元々居た世界とは違う世界、『トレーディア』と呼ばれている世界だ」
・・・え?
「ち、ちょっと待ってください!つまり、ここは・・・」
「君にとっては異世界、と言う事になるな」
頭の中で?が飛び交う、異世界ってあの異世界だよな?ゲームとかラノベとかでよく出て来る・・・アレ?
「・・・はぁ!?」
「信じられないか?」
「そ、そりゃそうですよ!突然、ここは異世界だー、なんて言われても!」
信じられ無い、と言うか信じる方がどうかしている。
「ま、そうだろうな、だが現に―――」
アリアさんは僕の腕を・・・いや、腕輪を指差し、言った。
「君のしている腕輪、それは私達の世界の物だ」
・・・そう言われて、少し納得してしまった自分が居る。
確かにこんなわけの分からない機能を持った腕輪なんて見たことも聞いたことも無い。
「この世界、『トレーディア』には大きく分けて2種類の生物が存在している、片方はニンゲン、そしてもう片方は―――」
そこまで言うとアリアさんは背中を向けて言った、その背中には・・・
「―――私達、魔族だ」
・・・その背中には立派な羽が生えていた。
「えっ?・・・・・・えっ?」
・・・ちょっと待て、じゃあ何か?僕は公園に居たらいきなり『トレーディア』とか言う異世界に連れて行かれて?しかもその世界には人間と魔族が居て?魔族側の方に連れて行かれたって?
・・・あまりのショックに思考がフリーズする、状況を整理しようにも頭が働かない。
「まぁ普通の反応だろうな・・・『向こうの世界』では私達魔族は空想上の存在とされているのだから」
アリアさんが腕を組んで仕方無さそうに言う。
・・・ん?待てよ?今・・・
「私達・・・って事はヘレルさんも!?」
どこからどう見ても人間なヘレルさんも魔族だって言うのか!?
「ああ、ウチも立派な魔族やよ?『人化』をこーやって解除すると・・・」
ぴょこん、とヘレルさんの頭から耳が生えてきた、よく見ればもふっとした尻尾も生えている。
「ほぉら、これがウチの本来の姿やで~?」
狐っぽい耳と尻尾を揺らしながらヘレルさんが笑う。
・・・その時僕は、頭の中でここが異世界である事を少しだけ受け入れてしまっていた。
ヘレルさんのあの化け物じみたパワー、あれはこの人が魔物だったからと考えると納得がいってしまう。
「は・・・ははっ・・・」
・・・人間って、どうしようもなくなると笑っちゃうもんなんだな・・・
「・・・大丈夫か?調子が悪いなら少し休んでも良いんだぞ?」
引きつった顔で笑う僕を見てアリアさんが心配してくれる、この人、いい人なんだなぁ・・・
・・・よく考えたら、人じゃないんだった
「い、いや、大丈夫です、すいません」
「謝らなくてもいい、いきなり異世界になんて連れて来られたら誰だって困惑するさ」
少し笑ってそう言うアリアさんが僕には天使に見えて仕方なかった。
「・・・ん?」
・・・あれ?
「アリアさん、ここって魔族側の土地なんですよね?」
「ああ、人間側の領土には近いが確かにここも魔族側の土地に属しているな」
「・・・あの、僕がここに居るのってマズく無いですか?」
魔族側の土地って事は当然魔族がいっぱい居るってことだ、そんなところに人間が居るって相当ヤバイ事態なんじゃ・・・?
「・・・そうか、君は知らないんだったな、すまない、こちらの説明不足だった」
そう言うとアリアさんは椅子から立ち上がり説明を始めた。
「今、この世界の人間と魔族の間には協定が結ばれている」
「協定、ですか?」
「ああ、当時の『勇者』と『魔王』によって結ばれた協定だ、ニンゲン側の領土を『王国』、魔族側の領土を『全魔族共和社会連邦』、通称『魔会』として統治しあう、と言う協定だな」
ぜ、ゼンマゾクキョウワシャカイ・・・?
いきなり凄まじい言葉の羅列が飛んできたぞ・・・
「まぁ簡単に言えば人間と魔族の間で取り決められた停戦協定、みたいなものだ」
「は、はぁ・・・?」
よくわからないけど・・・この世界の人間と魔族は争ってはいない、ってことだろうか?
「―――さて、ここからが本題なのだが・・・『魔会』には1つ、とても大切なルールがある」
「大切な・・・ルール、ですか?」
「ああ、少し待て―――はっ!」
そう言うとアリアさんは椅子から立ち上がり何も無い空間に手を伸ばした、すると―――
「よっ、と」
どこからともなく、革表紙の分厚い本が現れた
「これだ、無駄に分厚いからしまうのにも一苦労だな」
・・・まずそれをどこにしまっていたのか、そこから聞きたいんだけどな・・・
「この本の名前を『金塊等魂法』と言う・・・名前なんて覚えなくてもいいがな、大事なのはその内容だ」
そう言うとアリアさんはスッと目的のページを開くと僕に手渡した。
「そのページの7行目だ、読んでみろ」
「い、いや!?読めないんですが!?」
ページをチラっと見ると見たことも無い字であふれかえっている、当然僕は異世界の言語なんて読めない。
「大丈夫だ、読めなくても分かる、そういう文字だからな」
「は、はぁ・・?」
どういうことだろう?読めなくても分かる・・・?
(と、とりあえず字を見るふりだけでも・・・)
そう思ってページの文字を目で追ってみた時だった
「・・・あれ?」
よ・・・める・・・?
いや、正確には読めていないんだろう、この文字一つ一つがどういう意味なのかは分からないし、
でも・・・
「な?読めなくても分かっただろう?」
「は、はい、意味は分かります」
なんというか、読めてないんだけど頭の中にイメージだけ湧いてくるというか、意味だけが入ってくるというか・・・
「魔会の書物は殆どこの文字で書かれているからその内慣れるだろう、ほら、読んでみろ」
・・・うん、これなら読める、まだちょっと慣れないけど・・・
「えーっと・・・『魔族同士の闘争、及び決闘などの戦闘行為を固く禁ず、これはいかなる事情があろうと絶対であり、魔王であれども例外ではない、正し正等な理由がある上での防衛行為であるならばその限りではない』・・・ですか?」
「そうだ、要するにこのルールのおかげで魔族同士じゃ殺し合いはおろか、殴り合いさえもできなくなってしまったわけだな」
「へぇ・・・じゃあ『魔会』は平和なんですね」
そう言った僕を見てアリアさんは薄く笑い、言った。
「平和、ねぇ・・・そうとも言える、か、まぁいい、大事なのはこのルールが『魔会』に与えた影響、その一点だ」
「影響?」
「ああ、それを知るには今までこの『金塊等魂法』ができるまでの『魔会』、旧魔界の話をしたほうがいいな」
・・・いつの間にか異世界の歴史を学ぶ時間になってるな、コレ・・・
「さて、旧魔界の話なんだが・・・実はそんなに昔の話じゃあないんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、せいぜい今から90年前ぐらいだろう」
・・・十分長いと思うんだけどなぁ・・・
「旧魔界も今の『魔会』もトップの称号は同じ、『魔王』なんだが・・・君、魔王となるに相応しい魔族とはどんな魔族だと思う?」
「魔王、ですか・・・」
・・・正直ゲームとかの魔王のイメージしかないんだけど
「・・・一番強い魔族、ですかね?」
どんなゲームでも大抵魔王はラスボス、つまりは一番強い魔族だしな
「そう、旧魔界の時の魔族達も同じ事を思った、『魔王』に相応しいのは最も強い魔族だとな・・・その結果、どうなったと思う?」
「えっ?」
どうなった、か?
「たとえば一匹の魔族が『魔王』になりたいと思ったとしよう、そうすると自分が一番強い事を皆に証明しなければならない、そうなった時どうするのが一番手っ取り早いか?」
自分が一番強いと皆に認めさせる方法、か・・・
「えっと・・・その時点で一番強い魔族を倒す?」
安直な答えだけどこれが一番早い気がする、チャンピオンを倒せば自分がチャンピオンになれる、みたいな感じかな?
「そうだな、それが一番早いだろう、しかし他の魔族も皆同じ事を考えつく、そうすればお互いに邪魔者同士、潰しあいが始まるだろうな」
「潰しあい・・・」
「簡単な例が種族同士での抗争だ、実際当時は血で血を洗う抗争がいたるところで勃発していたらしい」
・・・なんていうか、ぞっとしない話だな
「当然そんな現状を放置するわけにはいかない、そこで当時の『魔王』らによって作られたのがこの『金塊等魂法』だ」
血みどろの戦いを止めるための法律、かぁ
・・・ん?まてよ・・・?
「アリアさん、ちょっといいですか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
僕はさっき頭に浮かんだ疑問を口にする。
「旧魔界では戦いで魔王を決めてたんですよね?」
「ああ、一番強い魔物が旧魔界を治めていたな」
「じゃあ・・・争いを禁じられた今はどうやって魔王を決めてるんですか?」
それを聞いたアリアさんはメガネ越しに目を光らせてニヤッと笑った。
「ふむ、いい質問だ、君、『金塊等魂法』の最後のページ、26行目を読んでみると良い」
え、え~っと、最後のページの26行目・・・?
僕は分厚い本を裏返しページを捲った。
そこには―――
『最後に、この『金塊等魂法』が発表された時点から『魔王』の称号、及び権利と歴史その他全てを有償で購入できる物とする、これは他の身分、権利、階級も同じである。』
「・・・え?」
つまり・・・これって・・・!?
読み終わり唖然とする僕にアリアさんは笑いながら言う。
「そう、この世界は全てが金で買える世界、『人権』も『歴史』も『魔王』の座さえも!この世で買えない物は何一つ無い世界だ!」