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名言集其の一
思い煩うことはない。人生は無意味なのだ! ――モーム
その無意味な人生が作為的なものだとしたらあなたはどうしますか?
起きて、朝飯を食べて、出勤して、帰宅して、夕食と共にビールを飲んで、寝る。
藤野藤樹の日常生活は主にこれの繰り返しである。
短大を出て一発で地元の企業に就職したはよかったもののすぐさま転勤、都会での生活に四苦八苦しながらもやっとのことで仕事が板についてきた働き盛りの二十七才であるが、その日常生活は平坦な毎日を連続していた。
偶に合コンや飲み会に誘われることはあるものの、もともとそのような騒ぎごとが苦手な藤樹はいまいち周りとの距離を取りかねており、楽しむに楽しめない。
仕事ができるために同僚や上司からの信頼はそこそこにあるのだが、どうにもこうにも変化に乏しい。
学生時代の友人たちは皆あちらこちらの会社や人によっては研究職や公務員を務めているためにそうそう会えるものではない。
それならば彼女でも作ってみようかと思い立ったものの職場の女性は皆恋人がいるか既婚済みであり、他の女性とも巡り合える機会がないため最早あきらめの悟りを開いている。
何か熱中するような趣味があればまた別なのだろうが、藤樹にはそれもない。強いて言うのならばネットで小説を読んだり、カフェめぐり(残念ながら酒には弱いために気取ってバーや居酒屋を巡ったりはしない)などがあるのだが、それで満足しているかと言えばしていない。
何もやることが無い藤樹は結果として仕事に打ち込むことになり、周りからは仕事をいつも真面目にこなす少し近づきにくい人として定着してしまい、更に友好関係が狭まっていたりする。
「遣る瀬無いな。」
今日も仕事が終わりビールを片手につい最近買い換えたノートパソコンでネット小説を読む。
何か悩み事や不満があるわけでは何のだが、なんともこう釈然としないものが内心に浮かんでくる。
変わり映えのしない日々。
途切れないルーチンワーク。
彼女や気の置けない親友も出来ず、これと言った趣味すらもない。
不平不満はない。この時代これだけ収入の良い職業についているだけでもマシな方である。
しかし、楽しいかどうかと問われれば首を横に振る。
朝起きて働いては寝て、朝起きて働いては寝て。
何か少しでいいものだからこの日常に変化は起きてくれないものだろうか。
そう考えること幾星霜。
「……旅行サイトの広告か。去年の冬のボーナスもまだ使い切っていないし、いっそ有給使って海外旅行でもしてみようかな。」
ふと目に着いたその小説サイトにあった旅行サイトへのリンクに藤樹は魅かれた。
偶にはゆっくりと旅行でもしてこの平凡な毎日から抜け出して羽を伸ばしてみるのも悪くない。
もしかしたら何か心が変わる様な面白い発見ができるかもしれない。
凡そそんなことを考えながらも、特に警戒もせずに広告をクリックする。
「へえ、絶景の海が見える旅ねぇ。ふうん、なかなかこれはいい景色だな。」
そのサイトには一枚の綺麗な海辺の画像が貼り付けられており、ツアー客募集の文面が連なっていた。
丁度残り一名様らしく、思い立ったが吉日、これも何かの縁かもしれないと藤樹は思い、取りあえずは参加要項に目を通す。
「なになに、“世にも美しい自然が見せる世界で貴方も優雅な旅生活を満喫してみませんか。珍しい動植物たちとの触れ合いや、古い史跡を巡る旅もあります。”結構色々なイベントがあるみたいだな。」
場所は何処かな?ヨーロッパ?それとも南米の絶海の孤島だったりして。
そんな妄想を膨らませながらも、最後に“詳細は後日参加者にのみご説明いたします。”とだけ書かれており、何とも尻切れトンボな文句である。
とまれこうまれ、流石に場所や旅費が書かれていない募集要項をみて怪しいとは思ったものの、自身の興味をかなりそそられてしまったため、定員残り一名という誘惑にかられ最終的には参加のボタンをクリックしてしまった。
それが、取り返しのつかないことになるとはこの時夢にも思わず。
その瞬間、藤野藤樹は世界から切り離された。