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めいみの短編集シリーズ

遠い記憶

作者: 本堂 迷美

ガサガサと小話をUP。

その中の一つです。

遠い記憶を呼び覚ます破片たち、確かにそれはここに存在したんだ…。



「これ、何だっけ??入れた覚えはないんだけどな…。ん~、記憶にないのよね~」



大切なことのようにも思えたけれど、今、私の手のひらにあるのは色褪せたガラクタばかり。

私は彼の転勤で新しい住まいに移るために、近々結婚する予定の彼と住み慣れた部屋の片付けをしていた。



「俺もあったあった、宝箱。小さい頃って、どうしてこんなガラクタばかり集めていたんだろうな?しかも、大人になったら理由なんて覚えてなかったりしてさ」



私には勿体無いくらいに優しい彼は、こうして私の部屋の片付けを手伝いながら、私の手のひらに転がるガラクタを興味深そうに覗き込んだ。



「ホントよね。蝉の脱け殻とかガラス玉とか。今時の子供は集めないかも」



まだまだ自然の残る中途半端な田舎で育った私には、可愛い人形や首飾りよりも、男の子たちと秘密基地を作って走り回っていたことのほうが多かった気がする。



「ははっ、確かに。今はゲームが沢山あるし、遊ぶ玩具には不自由しないと思うぞ。ま、きっと今子供だったとしてもお前の勝ち気な性格は変わんないだろうがな」



「ちょっと、私はそんなにお転婆じゃありませんでしたっ!!」



むくれた私の顔を軽く詰まんで笑う彼。



彼に抵抗するために閉じた両手から、子供の頃の記憶がポロポロとこぼれ落ちる。



私はそのガラクタの中に、どうしても思い出せない記憶があった。



「うん。このくらいしておけば大丈夫よね」



あらかたの物を段ボールに詰め込むと、片付けの目処がたったと荷物を眺めてから、私は大きく背伸びをする。

段ボールが積み上がる隙間に布団を引いて、私達は明日の準備をした。




「明日は早いからもう寝ましょうって…はやっ、速攻で堕ちやがったわ」



こっそりと悪態をつきながらため息を漏らしつつも、私の隣で寝息をたてる彼の頭をゆっくりとひと撫でしてから乱れた上掛けを直す。



私に付き合わせちゃったな。

自分だって仕事が忙しいのにね…ありがと。



そう思いながら、私も一緒のぬくもりに身体を任せようと布団に潜り込んだ。




カツン…



ん?



庭の方から、ガラス窓に何かがぶつかったような音がした。



風かしら?



もう秋も深まった真夜中。

外は寒いだろうなと思うと余計に今の暖かさがいとおしくなり、私は睡眠を貪ろうと目を閉じた。



カツン…カツ…カツン



窓に当たる風…にしてはハッキリとしたリズミカルな音がする。

私は彼を起こさないようにそっと布団から抜け出すと、近くにあった上着を引っ掛けてから恐る恐る窓に近付いてみた。



カラリとアルミサッシの窓をあけてると、さらした肌を秋の冷たい風が通り抜けてゆく。

空気が澄んだ、清廉な夜空に星がチラチラと瞬いていた。

思わず上着の合わせをキュッと握りながら辺りを見回しても、誰もいない。

そこにはいつもの庭の景色が広がっていただけだった。



けれど、ふと視線を下ろした足元には小石が数個散らばっている。



音の原因はコレね…。

もう、ビックリするじゃない。



私は近くに転がっていた小石を一つつまみ上げたあとまた小石を地面に戻し、眠りにつくために窓の縁に手をかけた。



『…君は、大切な人を見つけたんだね』



サワ…サワ…サワ



風に乗って、私の耳に微かに届く声。



『幸せになって…僕の大切な…』



微かで、ハッキリとは聞こえない。

けれど、冷たい風とは違う何かが私の身体を包み込んだ感触があった。

暖かい腕で抱きしめられたように、包まれた身体にほんのりと熱が灯る。

そしてその感覚は、一瞬にして冷たい風に掻き消されてしまった。



『幸せに…』



その囁きを最後に、私の耳にはまた何も聞こえなくなった。

辺りには、風に揺れてさわめく枯れ葉や草木の姿だけ。



そのとき私は、よくわからないけれど胸の底から込み上げる泣きそうになった気持ちに困惑しながら、しばらくはただ、うん、うん、と秋の夜空にうなずいていた。









「うわっ、さっむいな。窓開いてんじゃんか」



「ゴメン。起こしちゃったね」



部屋の中から彼の驚く声がした。



「いや、珍しく起きてんだな~って思ってさ。つか、まだ外暗いじゃんか。ほら、寒いだろ。窓を閉めてここに入りな?」



眠そうな目をこすりながら、彼は片手で上掛けを持ち上げた。

私は上着をハンガーにかけてから彼の作った空間に近づき、ゆっくりと身体を忍ばせる。



「風に当たってた割には、そんなに冷えてないか。ん~あったけ」



布団の中の、彼の体温に包まれる。



「ん、あったかいね…おやすみなさい」



「おぅ、おやすみ」



私はその暖かさにまどろみ、ゆっくりと眠りの底に沈んでいった。





夢を見た。

夢の断片で、私は顔を思い出せない男の子と遊んでいたんだ。



『君が良かったらなんだけど、大きくなったら、僕、また会いに行ってもいい?』



「もちろんいいよっ、私もまた遊びたいもんっ」



男の子は微笑んで、私に何かを渡してくれる。



『…嬉しい。そうだ、これをあげるよ。僕からのお守り』



「わぁ、ありがとう。凄く可愛い。私…のこと大好き!!」



『僕も大好きだよ』



そう言って、私たちは夢の中で笑いあっていた。



目覚めれば、また記憶の底に沈む記憶のカケラ。

それは確かにあった遠い日の思い出だと、お菓子の缶に仕舞われたはガラクタは教えてくれる。





日が登り、朝を知らせる光が私と彼を照らす頃、草で編まれたリボンは缶の中でカサリとほどけた。


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