はじめましての、恋子さん
恋子さんは腐女子だ。
腐女子と言うのは、BLやGLと呼ばれる――つまりは同性同士がいちゃラブちゅっちゅしているもの(ものによってはもっとプラトニックな)を愛している頭の中が少しばかり腐ってしまっている方々の事だ。
女子という風にはなっているが、別に性別は関係ない。腐男子と呼ばれることもあるにはあるが……腐女子という言い方の方が多いようだ。
さて、どうして恋子さんが腐女子になったのだろうか。
それは、恋子さんの学友、もとい悪友の奈々さんが腐女子だったからだ。
そうこうしているうちに、奈々さんがやってきた。
「昨日の“あすおた”見たー!?」
ちなみに“あすおた”というのは“明日に何かを起こすため”という週刊少年誌に連載中の人気漫画だ。奈々さんの言ったのはそれがアニメ化されたもので、そちらの方も現在毎週水曜日に絶賛放送中だ。
「昨日もやっぱりグレ×アリ来たよ、やばかった!!」
いま奈々さんのセリフの中に出てきた“グレ×アリ”というのは、ちゃんと書けば“グレッグ×アリー”というカップリングの事でグレッグが攻め、アリーが受けという事を表す腐用語だ。
攻めと言うのが……そう! 端的に言うと、攻めが男役、受けと言うのが女役だと思ってもらえば。まあ、何の時の話かというのは言わなくても察していただきたい。
そして男役女役と言うところから、グレッグとアリーと言う二人の登場人物がどちらも性別が男であることは分かるだろう。
ここでひとつ忠告しておく。腐女子でない方々はいい子だから“攻め受け意味”などで絶対にググらないでくれ。
さて、熱弁する奈々さんに対する恋子さんの答えはというと。
「あっそ。」
「なんでそんなに淡泊なのよ~!?」
くどいようだが“あすおた”は少年向けの少年週刊誌に連載されている漫画だ。決して、奈々さんのような腐女子向けに書かれた作品ではない。
「だって、昨日のあれは、やっぱりうん! グレ×アリのSSあれで上がっててくれないかなー。」
……腐向けの作品ではない。
それは置いておいて、というのはショートショートの略で、まあこの場合“グレッグ×アリー”というカップリングをもとにした小説のことである。もちろん男同士がイチャイチャしている類の、二次創作と呼ばれるものである。
我々は忘れてはならない。
腐女子の目、つまり腐ィルターを通して見ると、なんでもない一般向けの作品であってもカップリングが発生してしまうという可能性が出てくるのだ。それは作品だけにとどまらず、街中で仲良さげに歩いている男子高校生同士に向けられる事や、鉛筆や消しゴムなどを人に例えてそのようなものになることもある。
恋子さんはうるさい奈々さんに対して言った。
「黙れ、腐女子。」
あれ?と思った方もいらっしゃるだろう。そう、恋子さんは周りに、あまつさえ腐女子の奈々さんにさえ自分がそうであることを言っていない隠れ腐女子なのだ!
つまり今までのそっけない恋子さんの態度は全て嘘。偽りだらけの演技であった。
先ほどの会話に恋子さんの心の声を入れてみよう。
「昨日の“あすおた”みたー?」
(見たよ。見たに決まっているじゃないか! 録画して、そしてちゃんと生でも見たよ、二度見たよ。次回予告までちゃんと!)
「昨日もやっぱりグレ×アリ来たよ、やばかった!!」
「あっそ。」
あーもう、この場で説得したい。“あすおた”は絶対アリ×グレ! 何であれがグレ×アリになるの!
昨日のって言うとあのシーン「全く、世話の焼ける。」とグレッグが言ってアリーがにっこりと笑った直後に、グレッグがピンチになってそれを今度は助け返したアリーが「どっちが。」と言うって言うあの伝説シーンでしょう!?
あれは、あのあと絶対グレッグは羞恥に頬を染めているの! それを見ながらアリーは口元を緩めるんだよ。
あのカップリングは俺様攻めわんこ受けなんかじゃなくて、ちょいSわんこ攻め×ツンデレ俺様受けの下剋上カップル!
俺様と言うのは……あ、うるさいですかすみません。
解説だらけでごたごとなったって?仕方ない腐女子の頭の中はカオスなのだから。
これはそんな隠れ腐女子恋子さんが奈々さんや周りの方々とわちゃわちゃ愉快に騒ぐお話である。
腐女子のみなさんすみません!!
あくまでコメディ―としてお楽しみください。
そして、ネット用語その他もろもろ出てきますが、
間違いがありましたらご指摘くださると非常にありがたいです。