寂しがりやな皇子達
暗森、お気に入り&ユーザーが凄いよ!ありがとうキャンペーン!
未来の子供達のお話です。
まず第二弾、皇太子殿下ナーブルと兄弟達。
後宮の廊下で可愛らしい声が響いた。
「なっちゃん!!まってぇー」
たどたどしい声で呼ぶ声にナーブルは振りかえった。
そこには、可愛い妹のヴェルがたどたどしい足取りで追いかけてきていた、周りに侍女がいない様子からまた捲いてきたな、とお転婆な妹に苦笑しながら声をかけた。
「ヴェル、どうしたの?」
ナーブルはしゃがんで持っていた書物を床に置くと駆け寄ってきたヴェルを抱きとめた。大きめのぬいぐるみみたいに可愛い妹をぎゅっと抱きしめ、可愛いと思いながらしがみ付くヴェルに視線を合わせた。
「ウーね、いっちょあいうの!」
(訳:ヴェルも一緒に行くの)
「僕はこれからお勉強だから、ヴェルは一緒にいけないよ?」
妹のヴェルを抱き上げながらナーブルは言うと、ヴェルはぎゅっとナーブルにしがみ付いていった。
「ウーもょいっちょなのぉ!」
その様子に、ナーブルの従者ウィルエルが苦笑した。
「困りましたね。皇子。」
「困ったなー。母上と父上は外交でいらっしゃらないし。・・・あれ、ヴァルキスは?」
いつも一緒にいるヴェルの双子の片割であるヴァルキスの姿が見つからず、ナーブルは周りをきょろきょろと見ると、柱の影にヴァルキスが此方を伺っていた。
「おいで、ヴァルキス。」
そう声をかけると全力でナーブルの足にしがみ付くも、抱っこしてもらっているヴェルの蹴りが頭にあたりコロンと倒れた。
「ぁ、ヴェル!!だめだろ!」
ナーブルが怒るもヴェルは大好きな兄であるナーブルを独り占めするべく、引っ付き虫のように張り付いて離れない。
「うーのだもん」
ヴァルキスはきょとんとした顔をしていたが、大きな瞳にじわじわと涙が溜まってくると一気に泣き出した。
「うわぁああああああああああヴェーがぁああああけっちゃ!!!!!!!!」
まだ感情のままに魔力を操ってしまう幼子はすぐに魔力の暴走を仕始める、ヴァルキスの周りに魔力の渦ができ始めるも、すぐにナーブルが結界を張ると引っ付いてるヴェルを引き剥がしてウィルエルに渡すとヴァルキスを抱き起こした。
「ヴァルキス、男の子だろ?そのくらいで泣いちゃだめだよ。」
「ひゃって・・・・うぇええええええん」
ナーブルがヴァルキスの頭をいいこいいこすると、しがみ付いておお泣きして服を涙で濡らしていった。
「うわぁあああああママ!!!うわああああぁぁぁぁママにあいぁいのぉお!!」
泣きながらナーブルに訴えるヴァルキスにナーブルは苦笑した。
荷物は近衛の騎士が持ってくれているのを確認すると、ヴァルキス抱っこしながら歩き始めた。
「ウーもママにあいぁい・・・・ママ」
ヴァルキスの言葉に触発されてヴェルの様子まで怪しくなり始めた。
「まだ初日なのになー。明後日には母上も父上も戻ってこられるから、それまでの辛抱だよ?」
ナーブルは幼い兄弟に困りながら優しく言うも、まだまだ母親と一緒に居たい幼い兄弟には明後日という時間は長すぎて待てないものだった。
「うーはいみゃ!ママにあいぁいのぉ!」
(訳:ヴェルは今ママに会いたいの!)
ウィルエルに抱っこされながら怒ったように言うヴェル。
「ママ!!ママ!!!ママ!!!」
ヴァルキスは母親を求めるように泣きながら訴えている。
「困ったなぁ~・・・」
よしよしとあやしながら、ナーブルはほとほと困り果てた。
とりあえずこういうときは、とナーブルが赴くのは遊び相手モトイ優秀な宰相閣下、ルーカスの執務室だ。
「ルーカスー」
部屋の前で呼ぶと直ぐに返事が返ってきた。
「只今居ません。お帰りください。」
そう聞こえると同時に扉を施錠する音が小さく鳴った。
「「・・・・」」
明らかにルーカスの声で返された返事と室内に決して入れない様子に、ナーブルはむすっとした顔をした。
扉を守る兵士も、ナーブルの従者や近衛も無言を貫き通すも、おかしそうに肩を震わせている。
そして幼い姫と皇子は不思議そうに言った。
「るーきゃす?るーきゃすいにゃいって、なっちゃん」
(ルーカス?ルーカス居ないってよ、なっちゃん)
悪知恵は働くが変なところで純粋なヴェルは言葉どおりに捉えて、ナーブルに言った。
「ふぇぇ・・・ひっくひっく・・・るーのちょえちたよ?」
(訳:ルーカスの声がしたよ?)
不思議そうに扉とナーブルの顔を見やる、気弱な弟はちゃんと先ほどの声が誰だか認識していたらしい。
そして泣き止んだ幼い兄弟の様子に、ナーブルは一ついい事を思いついた。
にっこりと母親に良く似た笑顔だと評される微笑を浮かべながら幼い二人の兄弟に聞いた。
「ヴェル、ヴァルキス。お兄ちゃんいい事思いついちゃった!ルーカスと一緒に遊びたいよね?」
「「あしょぶ!!!」」
幼い元気な声に、部屋の中にいる人物の声がかすかに聞こえた。
どうやら扉の前で此方の様子を伺ってるようだった。
その様子にナーブルは、弟を降ろすと従者のウィルエルもヴェルを降ろす、二人はもうすでに遊ぶ事に頭がいっぱいな様子でキラキラとした瞳をナーブルに向けている。
ナーブルはその様子に、笑みを深めながらいたずらっ子な笑みを隠しもしないで言った。
「じゃー、僕のお勉強が終わるまでルーカスを探すんだ!」
「「うん!!」」
「じゃーいくよ!!よーい!初め!!」
パンっと小気味よく手を叩いて遊びを開始させた。
ヴァルキスは一目散にルーカスの執務室の扉に飛びつき、扉のとってに飛びついてガチャガチャとならしてあけようとしている。
「ヴァルちょっちにはいにゃいよ?」
(訳:ヴァルキス、そっちにはいないよ?)
ヴェルは城内を探そうとしていた足を止めて双子のヴァルキスに不思議そうに言った。
「いうよ?るーおへんじちた!あかにゃい!」
(訳:いるよ?ルーカスお返事してた!開かない!)
「あけちゃいの?」
(訳:開けたいの?)
「あけちゃい」
(訳:開けたい)
幼い二人のやり取りに、うん。可愛い!!とナーブルは思いながらも勉強の為にその場を急いで離れた。
そして爆発音が背後から聞こえたが、ナーブルは驚いた様子も無く逆に笑い出した。
「皇子、やりすぎですよ。」
その様子に、ウィルエルはため息をつきながら言った。
「だって、ルーカスが居留守を使うのがいけないんだ。それに最近一緒に遊んでくれないし」
「後半が本音ですね。ルーカス宰相のお仕事の邪魔をされては・・・陛下に叱られますよ。」
まだ感情の赴くままに魔力を動かす幼い兄弟は、歩く爆発物といってもいいくらい危険な二人だった特に、ヴェル。
開けられない→なら壊せばイイジャン!という発想に直結するヴェルは、いとも簡単に扉や壁を破壊してしまうのだ。
なので普段からヴェルは魔力制御装置であるネックレスや腕輪をしているのだ。
だが大人しい双子の片割であるヴァルキスは基本母親を求めて泣かない限り魔力の暴走をしないため、しても周りが止められる程度なので、魔力制御装置をつけていない。
だがしかし、ヴェルはヴァルキスの魔力を利用できる事に最近きづいたのだ、最初に気づいたのは一緒に遊んでいたナーブルだった、そして両親とルーカスはまだ気づいていない。
「ぁ~今頃ルーカス驚いてるだろうな~ヴェルには魔力制御してるから壊されないだろうって、思ってたよ!!絶対!!」
「皇子・・・・」
「だいたい、父上がいけないんだよ。最近母上と二人っきりの時間が取れないとかそんな理由で、普段は連れてかない外交に母上を連れてったんでしょ?まだ幼い子供を残してさ~」
そう言って、講師が待つ部屋へと入って行った。
授業が終わってナーブルが次の予定として組み込まれている軍施設に向う途中に、ナーブルはある人物に角を曲がった先であった。
「「ぁ」」
ナーブルは一目散に、その人物の脇を通り抜けて逃げ出した。
その後を近衛と従者が付いていくが、それ以外の人物・・・ルーカス宰相も付いてきている。
「皇子!!待ちなさい!!貴方のせいで私の今日の予定が狂いまくってるんです!!貴方だけ予定通りに進められるなんてお思いになられて無いでしょうね?!」
かなりのスピードで走っているというのに息切れもしないで叫ぶ様子にナーブルはドンだけ肺活量が凄いんだと思いながらも、軍の演習場に駆け込んだ。
勉強の後は、体を鍛えるために軍の演習に参加する予定だったのだ。
父親である、陛下は元々は軍人それに皇子といってもやはりいつ何時、何が起きるか分からないという理由もあったりするのだが。
男たちが鍛える演習所の真ん中まできて走るのをやめてルーカスと間合いを取りながらナーブルは聞いた。
「ヴェルとヴァルキスはどうしたんですか?」
周りの男たちは、二人に気づき少しずつ距離を置き始めていた。もちろんとばっちりを食わないためだ。
ナーブルはニコニコと母親に良く似た笑顔を振りまきながら、横に手を差し出すと従者のウィルエルがナーブルの手に木で出来た剣を渡した。
「散々遊ばれて今さっき、お昼寝にはいられましたよ。ナーブル皇太子殿下」
ルーカスも腹黒い笑みと評される胡散臭い笑顔で返しながら、手にナーブルと同じような剣を召喚して握っていた。
「それはよかった。初めて長時間母上と一緒に居られない状況に不安だったみたいで」
「そのようですね。えぇ全部聞こえてましたら存じてますよ。」
「ふふふ、そうだったね。」
「ですがね、私には仕事があるんですよ。皇子にも勉強があるように、遊ぶ暇はないんです。」
先に攻撃を仕掛けたのはナーブルだった。
「ケチ!」
「皇子ももう幼い子供じゃないんですから、自覚なさい!」
そう言ってナーブルの攻撃をやすやすと避けて、攻撃し返した。
「わかってるよ」
ちょっと拗ねたように言う様子にルーカスは、つくづくナーブルが男の子に生まれてよかったと思った。これで女の子だったら・・・いろいろと大変だったろう。
幼い頃に女の子の服を着せただけでも、周りの反応は大変だったのだ。
「はぁ・・・陛下夫妻が戻られるまで、皇子の勉強は一旦やすみにさせますからそのつもりで」
「ぇ?なんで?」
「ヴェル皇女がヴァルキス皇子の魔力を使えることを黙ってたそうですね。ナーブル様」
「ぇ・・・・?ナンノコト?」
僕わかんなーい、と可愛らしくいっている間にもルーカスの攻撃はとまらないで続いていた。
「ヴェル皇女の侍女から聞きましたよ。ナーブル皇子に伝えて、対策するとおっしゃったそうですね。」
「僕、まだ覚えが悪くって・・・」
「教師人からは大変物覚えがよろしく、一度聞いた事は忘れないという噂ですが?」
言葉と同様に、攻撃も押されぎみなナーブルは焦った。
「ルーカス宰相、この世に完璧な人などいないんですよ」
「そうですね、皇子。私も完璧では無いので、人に八つ当たりすることもあるのですよ。」
ナーブルは冷や汗をかいた、この後足腰が立たないほど手合わせをして地面に行儀悪く寝転がった。
「も・・・・むり!!!」
手は真っ赤にはれて血豆まで出来てしまっている。
だが、ルーカス宰相は涼しげな顔のまま渡されたタオルで流れ落ちる汗を拭いていた。
「なんで・・・つかれて・・・なんだよ!」
息も途切れ途切れに叫ぶナーブルに、ルーカスは不思議そうな顔をしてから思い出したように言った。
「あぁ、皇子はご存知なかったですか?私陛下の右腕と称されるのは政治だけでなく軍人としてもそういう意味なんですよ?」
「・・・・!きいてない!!」
ナーブルは一人毒づいた。幼い兄弟の相手をした後なら勝てると思って、軍の演習場に引き入れたというのにまさか軍人としての父親の右腕にもなっていたなんて。
そしてナーブルはあまりにも疲れて、そのまま眠ってしまった。
「まったく、軍人だったらココで蹴り起こすんですけどね~。こんなところで眠ったら襲ってくださいと言ってる様なものだというのに」
ため息をつきながら、ルーカスはナーブルを抱きかかえて歩き始めた。
「皇子も誰かに甘えたかったのでしょう。最近皇后様は幼い二人にかかりっきりですし、ルーカス宰相の遊びと言う名の授業もなくなりましたし、皇子としての勉強も増えてきてますし」
そう言ったのは従者のウィルエルだった。
「・・・貴方を従者にして正解でしたね。」
「!?・・・ありがたきお言葉。」
そんな会話がされていななんて知らないナーブルは、朝お腹にかかる圧力と体中に響く筋肉痛で目が覚めた。
「なっちゃん!!あしょぼ!!るーきゃすがいいって!!」
「なっちゃん!!あしょぼ!!あしょぼ!ルーいいって!!」
「ぁぁ・・・やられた・・・」
ルーカス宰相にはまだまだ勝てないナーブル皇子だった。