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裕子と新幹線
新幹線に乗っている母と娘。
「今日は田舎のおうちに行こうね」
「わ~い、ママ、新幹線って速いね。これから毎日乗ろうよ」
「あらあら、この子ったら。あんまりはしゃいじゃ、他の人に迷惑よ」
「はぁい」
「でも本当に速いわね。いつも乗ってる電車と全然違うね」
「ええ。確かに速いわ。でも……」
「でも?」
「それで浮いた時間を、私たちは有効に使えているのかしら」
「……裕子?」
「30分早く着いても、1時間早く着いても、結局その時間をゆとりには使わない。30分多く作業をして、1時間多く仕事をするだけ。時間が短くなっても、私たちはもっと遠くにいくだけで、移動時間は結局以前と変わらないままだわ」
「ど、どうしたの、裕子……?」
「生き急いでいるのよ、私たちは。この新幹線と同じように、ただ走り続けることしか考えていない。でも、人間は機械じゃない。私たちは時間を使って休まなければ、どこかで息切れすることを、もっと知る必要があると思うのよ……」
「あ、あなた! 裕子が生き急いでいるとか言ってるの! あなた!」