裕子と生きる意味
「ねえ、ママ」
「なあに」
「人間は、どうして生きているの?」
「えっ?」
「なぜみんな、今を生きようとするの?」
「きゅ、急にどうしたの?」
「私にはわからない。人間に、生きている意味なんて、あるのかしら」
「……あ、あなた!ちょっときて!あなた!」
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◆裕子と物欲◆
デパート。母と小学生の娘。
「今日は裕子の誕生日だから、何でも好きなのを買ってあげるからね」
「…………」
「どうしたの?」
「私たちは、物欲が大きすぎるのよ」
「えっ?」
「現代はモノがあふれているから、なんでも欲しがってしまう。だけど、それで私たち、賢くなったといえるのかしら?」
「ゆ、裕子……」
「モノはいらない。ひとつ手に入れると、さらに手に入れたくなって、いつか私の腕で抱えきれなくなるから」
「あなた! 裕子がまた変なのよ! あなた!」
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◆裕子とカレー◆
自宅。母親と小学生の娘。
「今日は裕子の好きなカレーよ」
「わあ、ありがとう、ママ」
ぱくっ。
「どう、おいしい?」
「うん、おいしい!けど――」
「けど?」
「このおいしいカレーを食べられない貧しい国の人たちのことを思うと、私達はなんて幸せなのだろうと思うわ」
「え?」
「幸せすぎる。そう、幸せすぎるのよ。こうして私がのんきに晩御飯を食べている間にも、どこかで人が苦しみ、死んでいく」
「ゆ、裕子?」
「そんなこといってもキリがないのはわかってる。でも、それを心の片隅に置いて、この食べ物の味をかみしめなければ、私達は他人のことを思いやることさえいつか忘れてしまうような気がするのよ……」
「あ、あなた!裕子がまた変なのよ!あなた!」
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◆裕子とエアコン◆
道を歩く母と娘。
「もうお昼ね。レストランで何か食べよか」
「わあい。わたし、フルーツパフェが食べたいな」
「そうね。じゃあそこのレストランにしましょうか」
近くのレストランに入る。
「わあ、すずしい~!」
「気持ちいいわ~。やっぱり外と違って中は涼しいわね」
「すずしい。確かにすずしいわ。でも・・・」
「でも?」
「エアコンでこれだけ涼しくなっているということは、本来室内にあった暑さが外に出ていることになるのよ。それが日本中のレストランで、いえ、一般家庭やオフィスビルでも行われているとしたら、一体わたしたちはどれだけの熱を排出していることになるんだろう」
「な、なにを言っているの、裕子?」
「夏に涼みたいのは、だれもが思う素直な気持ち。でもそれが過剰になれば、それだけ地球に負担がかかることを、私達は忘れてはいけないと思うの。こうしている間にも、南の島の人たちは温暖化による海面上昇で自分の住む場所がなくなってきているわ。私達は、その人たちのことも考えて、いまを暮らしていかなきゃいけないのじゃないかしら」
「ゆ、裕子!どうしたの、裕子!」