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二話「消えて終わる物語、そこから始まる物語」

 空が血の色に染まり、茜色の夕日は見違えるほど明るく感じてしまう。水平線まで続く砂漠のような荒れた地。地面は枯れて緑が無いというのに、気温は肌寒く肌にねっとりと絡みつく湿気とにごった空気は、景色と全く比例しない。例えるなら、環境が死んだような世界だった。

 そんな場に、二人の男女がボロボロになりながらも地に足をつけていた。

「なんだよ、これ……――、」

 現在置かれている状況が把握できない齢十三の少年リアンが、意味深な表情で呟いた。適度に伸ばした髪の毛と茶色のジーンズに紺のコートを羽織り、現代的ファッションを交えた魔法使いのような服装をしている。そのコートがボロボロなのは言うまでも無く、発する声は酷く枯れていて、左手の剣を握る手は汗でじっとり濡れている。

「はぁ、りっ、リアンッ!!」

 リアンの隣にいた少女ローリィは、驚愕の表情でそう尋ねた。伸ばした翡翠銀の髪とは違い、その服装はリアンと同じくらい傷ついている。

 そんな二人の目の前には――、

《ァひゃッ?》

「判猿……だって?」

 彼らの数メートル先。大危険生物の証であるレベルⅣの生き物が、悪の表情で笑っていた。身長や体格は一メートルの猿と瓜二つだが、その背中に生えた黒い羽、先が尖った尻尾、異常に伸びた八重歯は悪魔そのものだ。いや、絵に描いた悪魔と大差がない。

「わ、私の探る魔法で弱点を――」

「馬鹿言うな!レベルⅢのデーモンで精一杯なのにソレより強い判猿を倒せるわけが無いッ!!!」

「じゃ、じゃあどうするって言うの!?この荒地に逃げ道がある!?」

「く、くそ……」

 手に汗を握ったまま、リアンは奥歯を噛んだ。平和というものを喉から手が出るほど欲しがる彼に、仲間のピンチであるこの状況は苦痛そのもので、一秒が何分にも感じるような感覚に苛まれている。逆に言えば、それだけの感情しか抱いてない。科学的魔法が発達した今現代ではこの様な奇怪生物は普通に存在しているので驚いたりしない。さらにはリアンは仲間であるローリィを守ることだけ第一に考えているため、自分の身を捨てているから恐怖がない。

 赤い空の中、ローリィはゆっくりと口を開く。

「……リ、リアン。私――」

「おとりになるとか……そういう事言うんじゃないだろうな?」

 リアンがローリィの発言を切って口を入れた。それと同時にローリィが黙り込み、リアンから判猿に視界を変える。悪魔の微笑が彼女の視野の中心に立ち、嫌悪の身震いが体を蝕んでいく。

 ローリィ、とリアンは言葉を紡ぐ。

「なんだか……さ。あれだよ。キミと旅するからには、こんなヤツ倒せなきゃいけないよな。レベルⅢでも精一杯で、二人で倒したとき喜び分かち合って、それだけで仲間を守れた気がしてた。まぁ殆どキミの魔法で倒せてたけど……。そんなの気にせず生きてきた」

「リ、リアン?」

「恥ずかしい……。僕は、今この場で何もできないのが、恥ずかしいッ!!!」

 ザクンッ! 剣を荒れた地面に突き刺し、柄尻に右手を添えた。

「リアン、どうし――」

「――……ろ」

「え?」


「逃げろ、ローリィ」


「――ッ!!ど、どうして」

「一緒に行けなくて、ごめん……。――ルック」

――瞬間。

 パチンッ! 一言と同時、ローリィの姿は消えた。

 一人の少年が最終手段として取った、瞬間的移動の魔法。

 それだけがローリィを救い、きっと彼女は平和な町に飛ばされているだろう。そう確信した彼は、何一つ恐れを持っていない。

「ははは。これで仲間、救えたかな……」

 ただ達成感と罪悪感、こうなってしまった後悔だけが心に残る。後は空っぽ、何も残っていなかった。戦う気力は勿論。逃げようとする力さえも。

《ブヒャぁ?》

 目の前には不適に笑う汚いサル。

 これらを生んだのは、魔法だ。

 彼は、生まれて初めての感情を抱く。


「魔法が……――憎いッ!!」

《ギャビィィィィ!!!》

 グシャリ。

 空と同じ色のモノが、枯れた地面を潤していく。



***




 魔法を三年間学ぶ公開型フリースクールの中には「特待生」が混じっている場合がある。

特待生として選ばれた生徒は通常の人たちと一緒に公開授業を受けて魔術を学ぶが、五時間目終了の後に居残りの授業がある。そこで特殊カリキュラムとして公開授業よりも強い魔法を学習する事になる。尚、その劣等優越による差別として反乱が起こる危険性があるため、卒業するまでは特待生という立場を隠さなければいけない。

 さて。そんな魔法学校だが、特待生として卒業した人物は必ず旅に出る必要がある。服や武器に金と青で出来た、特待卒業生のシンボルマークである刺繍をつけ、その身分証明をつけた状態で五年間パートナーと旅に出るのだ。その理由は見かけ上魔法の深層心理を学ぶ事であるが、実際は外にいる危険生物の撲滅運動である。

 特待卒業生はレジェンズと呼ばれ、昔からレジェンズというものは慕われている。故にその服や武器に着いている金と青の刺繍は、誇れる高貴なものなのだ。


 現代社会に有効活用されているのは、魔法が殆どである。五千年前は機械が有効的に使われていたが、ある日を境に世界が絶滅し、魔法というものが出来たらしい。それ以来は車という環境破壊の走行ロボットなど不必要になり、水など酸素と水素を化合させる魔法によって作成されるので、環境に害の無い世界が成り立っている。

「だけどもさー、魔法が出来たせいで奇妙な生き物生まれちゃっただろ?しかも、昔のビルとか言う長い建物無くなったし!あれカッコよかったのに!!」

「そうだけど……って、それは魔法苦手なアンタの言い訳でしょ!?」

 満遍なく広がる青空に見守られた町。その道脇で、二人の男女ラオとソフィアが大声で話し合っていた。土の建物と建物の間にある隙間で口論をする二人、ラオはジーンズにコート。ソフィアはミニスカートにカーディガンを羽織っていた。

「まっ、魔法なんて必要ないさ!俺には魔術より武術がある!」

「魔術使えないから武術に走ったんでしょ!?本当、武器捌きだけは一人前よねー」

「否めないけれども!否めないけれどもさ!」

 ガミガミとラオが両手を動かして叫ぶが、ソフィアは建物の壁に背中を預け、腕を組んだまま片目だけを開けてラオを見つつ、

「否めないから……何なの?」

 挑発の一声を入れた。

「あーむかつくー!!ソフィアはそうやって俺の剣魂を馬鹿にして!どうせ俺は魔法使えないヘタレさ!でもな、魔法なんざ捻くれモノが生み出したゲスな超常現象だって、ガルフのじーさんは言ってたぞ!!」

「だから、何よ?」

「ぬああああああああああ!!切るぞコラァアァアァアァアァア!」

 背中に担いだ剣の柄を握り、大声でラオが叫ぶ。それに対抗してか、ソフィアは太ももに巻いたポケットベルトに手を伸ばす。そこから映画に出てきそうな二十センチの細い杖を取り出し、ラオにその杖先を向け、

「うるさい、焼くわよ?」

「ごめんなさい」

 まるで怒り狂ったライオンを一瞬で黙らせるように、ラオを静かにさせた。ソレをみて小さく嘆息し、今居る細い場所から大通りに連なる道へと視線を変えた。

「戦闘では冷静さが必要になるのよ?そんな短気単細胞だったら死ぬわ、絶対ね」

 ソフィアがそう言うのも無理はない。なぜならこの現代では魔法の合成が失敗して出来てしまった危険生物が生息しているため、町は二十メートルの超合金外壁を円状に張り巡らし、天井を見えない魔的結界で防御することで始めて町が成り立っているからだ。勿論ラオとソフィアが居るこの町も例外ではない。それほどに危険である。

「でもよ、実際危険度レベルⅡのカスとしか戦ってねぇからさ。あんまりそう言うの分からないんだよな」

「そうね……これから旅することになるのに、経験不足過ぎるわ。あの無意味に大きな魔法学校は無駄な勉強ばっかりで全然実戦なし。そのくせ決められたパートナーと旅に出ろとか、どう言う神経してるのかしら」

 ソフィアはそう言うと、壁に背中を預けたまま足を交差させる。太ももに杖を仕舞い込むと、その柄に金と青の刺繍が埋め込まれているのが分かった。よく見ればひざ上までのニーハイやカーディガンの胸ポケット付近にもその刺繍が入っていた。

「え、お前勉強してたの?俺剣振り回してただけだよ」

「はぁ!?あ、アンタ、よくソレで特待卒業できたわね……。全国の特待希望落とされた人に平伏せても許されないわよ!」

 新生物を発見した少年のように奇妙な表情でソフィアが一括、ソレに対してラオはペコリとお辞儀する。

「いや、うん。すみません!」

「壁に大声で謝らないで変な人だと思われるわ」

「すみません」

「声小さくしても変わらないから!」

 二人で息の合った漫才をし、少しの沈黙が流れる。それに耐え切れなくなったのか、ラオは適度に伸びた髪をクシャクシャと掻く。

「ソフィア」

「なっ、なによ!」

 背筋をビクっと震えさせ、不意を突かれた表情でソフィアが言う。

「これからよろしくな、パートナーさん!」

 視線をラオに向ければ、そこには万遍の笑顔があった。

「……よろしくっ」

 こうしてレジェンズ内の二人は、ゆっくりと先へ進んでいく。明るい少年と素直じゃない少女の物語は時を刻み、静かに待ち受ける者へと近づいていく。

ご愛読有難う御座います。

か細い毛糸です。


今回、2種類の主人公を出しました。

ラオとソフィア、二人の物語を中心にやっていくつもりです。


それでは、有難う御座いました。

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