「好き」って百回言うよりも──「それもう、好きとかいう次元ちゃうやん」
前回は、一方的に想い続ける男たちの話でした。
誰かを好きになること。
誰かを大切に思うこと。
その形は、人によってずいぶん違うのかもしれません。
今回は、そんな話を書いた後で思いついた、そんなお話です。(*´ω`*)<日曜日もそろそろ終わりか〜
「──で、結局どうしたらええん?」
コーヒーカップを両手で包むように持ちながら、拓也は情けないほど眉を下げた。
向かいの席に座る真紀は、わざとらしいほど大きなため息をつく。
「その質問、今日だけで三回目やで」
「だって分からんねん」
「何が」
「愛情の伝え方」
真紀は思わず吹き出した。
「小学生か」
「真面目や。こっちは真剣に悩んでんねん」
「はいはい」
日曜の夕方。
駅前の寂れた喫茶店は人もまばらで、窓から差し込む西日がテーブルの上の琥珀色を橙色に染めていた。
拓也は冷めかけたコーヒーを一口飲んでから、ぽつりと言った。
「『好き』って言葉にするんも、なんか照れるしな」
「言うたらええやん、そんなん」
「無理や。ガラやない」
「なんで。口ついてるやろ」
「無理なもんは無理やねん」
「子供か」
また笑う。
昔からこうだった。
拓也は恋愛経験が少ないくせに、いざ誰かを好きになると、バカがつくほど真面目に、そして的外れに悩み出す。
「彼女さん、何か不満でも言うてたん?」
「いや、そういうわけやないけど……」
「じゃあ何が不安なん」
「俺の気持ち、ちゃんと伝わってるんかなと思って。冷たい奴って思われてへんかなって」
真紀は背もたれに体重を預け、少し首を傾げた。
「ちなみにやけど、あんた先週彼女が風邪ひいた時どうしたん」
「仕事終わってから、ポカリとゼリー買ってマンションまで届けた」
「ふーん。その前の日は?」
「なんか『明日熱出そう』ってライン来たから、消化に良さそうなもん買い込んで、ドアノブにかけといた」
「ほう」
真紀は自分のカップに手を伸ばす。
「じゃあ、誕生日は?」
「前から欲しがってた財布」
「よくブランドとか分かったな」
「いや、一年前になんか雑誌見て『これ可愛い』って言うてたから、型番控えててん」
「一年前?」
「せやけど」
真紀は思わず天井を見上げた。
なんやこいつ。
「……髪切った時とかは?」
「そら分かるやろ。前髪三センチ切っただけでも分かる」
「機嫌悪い時は?」
「ラインの文末が『。』だけになるからすぐ分かる」
「無理して笑ってる時は?」
「目が笑ってへんから、そういう時はしんどい証拠」
「好きな食べ物は?」
「オムライス。でもケチャップ多めじゃないと嫌がる」
「行きたい場所は?」
「二ヶ月前に『水族館行きたい』って言うてたから、来週のチケットもう取ってある」
こつん、と真紀は少し強めにカップを置いた。
「なあ」
「なんや、急に怖い顔して」
「あんた、何を相談しにきたん?」
「え?」
「十分すぎるやろ」
「でも、好きって言葉では言うてへんし。女の人って、そういう分かりやすい言葉が一番大事なんちゃうん?」
「そら、言われたら嬉しいで」
真紀は自嘲気味に、少しだけ笑う。
「傷つきたくないからな、みんな。でも、女かてアホちゃうねん」
「失礼な。アホやなんて思てへんわ」
「ええから聞け」
拓也は口を紡んだ。
真紀は窓の外、家路を急ぐ人々の群れに視線を向けながら言葉を繋ぐ。
「『好き』って百回言う男よりな、熱出した日に黙ってポカリ届けてくれる男の方が、よっぽど信用できる」
「……」
「『可愛い』って連呼する男より、一年前にポロッと言った欲しいもん覚えてる男の方が、ずっと愛されてるなって実感できるねん」
「そうなんか……?」
「そうや。言葉なんか、その気になればいくらでも嘘つける。でもな、行動は嘘つけへん。あんたがやってるんは、全部彼女をちゃんと見てる証拠やんか」
拓也は目を伏せ、自分の大きな手をじっと見つめた。
「人ってな、言葉で恋に落ちるかもしれへん。でも、大事にされてるっていう安心感は、そういう毎日のめんどくさい積み重ねでしか作られへんねん。あんたはもう、言葉以上の合格点たたき出してんの」
拓也はしばらく黙っていたが、やがて憑き物が落ちたように、小さく笑った。
「そういうもんか」
「そういうもんや」
「難しいな、恋愛って」
「いや、あんたにとっては一番簡単やろ」
「なんでや」
「自分で考え」
「雑やな」
「うるさい」
拓也は不満そうに眉を寄せた。
けれどその顔は、少し前までみたいな不安そうな顔ではなかった。
その顔を見ていると、ずいぶん昔のことを思い出した。
──「好き」だけは何度も言うくせに、約束は忘れる人やった。
泣いても気づかへん人やった。
会いたい言うくせに、会う時間は作ってくれへん人やった。
手を繋ぐのも、向こうの機嫌次第やった。
今となっては顔も曖昧や。
名前すら、もうどうでもええ。
それやのに。
好きと言えへんくせに、一年前の会話を覚えている。
会いたいと言わへんくせに、相手が熱を出せば飛んでいく。
安心させる言葉は苦手なくせに、安心できる行動ばかりする。
ほんま不器用やな。
「……あんた、それもう好きとかいう次元ちゃうやん」
「は?」
真紀は少しだけ笑った。
「彼女さん、幸せ者やなぁ」
拓也はきょとんとした顔で瞬きをする。
「なんや急に」
真紀は立ち上がると、拓也の背中をバンと叩いた。
「ええから帰れ」
「いった!」
大きな背中だった。
叩いた手のひらが、じんと痺れた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。m(_ _)m
案外、人は自分が誰かに与えているものを、自分では分かっていないのかもしれませんね(笑)(*´∀`*)




