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「好き」って百回言うよりも──「それもう、好きとかいう次元ちゃうやん」

掲載日:2026/06/21

前回は、一方的に想い続ける男たちの話でした。


誰かを好きになること。

誰かを大切に思うこと。

その形は、人によってずいぶん違うのかもしれません。


今回は、そんな話を書いた後で思いついた、そんなお話です。(*´ω`*)<日曜日もそろそろ終わりか〜


「──で、結局どうしたらええん?」


コーヒーカップを両手で包むように持ちながら、拓也は情けないほど眉を下げた。


向かいの席に座る真紀は、わざとらしいほど大きなため息をつく。


「その質問、今日だけで三回目やで」

「だって分からんねん」


「何が」

「愛情の伝え方」


真紀は思わず吹き出した。


「小学生か」

「真面目や。こっちは真剣に悩んでんねん」

「はいはい」


日曜の夕方。


駅前の寂れた喫茶店は人もまばらで、窓から差し込む西日がテーブルの上の琥珀色を橙色に染めていた。


拓也は冷めかけたコーヒーを一口飲んでから、ぽつりと言った。


「『好き』って言葉にするんも、なんか照れるしな」

「言うたらええやん、そんなん」

「無理や。ガラやない」

「なんで。口ついてるやろ」

「無理なもんは無理やねん」

「子供か」


また笑う。


昔からこうだった。


拓也は恋愛経験が少ないくせに、いざ誰かを好きになると、バカがつくほど真面目に、そして的外れに悩み出す。


「彼女さん、何か不満でも言うてたん?」

「いや、そういうわけやないけど……」


「じゃあ何が不安なん」

「俺の気持ち、ちゃんと伝わってるんかなと思って。冷たい奴って思われてへんかなって」


真紀は背もたれに体重を預け、少し首を傾げた。


「ちなみにやけど、あんた先週彼女が風邪ひいた時どうしたん」

「仕事終わってから、ポカリとゼリー買ってマンションまで届けた」


「ふーん。その前の日は?」

「なんか『明日熱出そう』ってライン来たから、消化に良さそうなもん買い込んで、ドアノブにかけといた」

「ほう」


真紀は自分のカップに手を伸ばす。


「じゃあ、誕生日は?」

「前から欲しがってた財布」

「よくブランドとか分かったな」

「いや、一年前になんか雑誌見て『これ可愛い』って言うてたから、型番控えててん」


「一年前?」

「せやけど」


真紀は思わず天井を見上げた。


なんやこいつ。


「……髪切った時とかは?」

「そら分かるやろ。前髪三センチ切っただけでも分かる」


「機嫌悪い時は?」

「ラインの文末が『。』だけになるからすぐ分かる」


「無理して笑ってる時は?」

「目が笑ってへんから、そういう時はしんどい証拠」


「好きな食べ物は?」

「オムライス。でもケチャップ多めじゃないと嫌がる」


「行きたい場所は?」

「二ヶ月前に『水族館行きたい』って言うてたから、来週のチケットもう取ってある」


こつん、と真紀は少し強めにカップを置いた。


「なあ」

「なんや、急に怖い顔して」


「あんた、何を相談しにきたん?」

「え?」

「十分すぎるやろ」


「でも、好きって言葉では言うてへんし。女の人って、そういう分かりやすい言葉が一番大事なんちゃうん?」


「そら、言われたら嬉しいで」


真紀は自嘲気味に、少しだけ笑う。


「傷つきたくないからな、みんな。でも、女かてアホちゃうねん」

「失礼な。アホやなんて思てへんわ」


「ええから聞け」


拓也は口を紡んだ。


真紀は窓の外、家路を急ぐ人々の群れに視線を向けながら言葉を繋ぐ。


「『好き』って百回言う男よりな、熱出した日に黙ってポカリ届けてくれる男の方が、よっぽど信用できる」

「……」


「『可愛い』って連呼する男より、一年前にポロッと言った欲しいもん覚えてる男の方が、ずっと愛されてるなって実感できるねん」

「そうなんか……?」


「そうや。言葉なんか、その気になればいくらでも嘘つける。でもな、行動は嘘つけへん。あんたがやってるんは、全部彼女をちゃんと見てる証拠やんか」


拓也は目を伏せ、自分の大きな手をじっと見つめた。


「人ってな、言葉で恋に落ちるかもしれへん。でも、大事にされてるっていう安心感は、そういう毎日のめんどくさい積み重ねでしか作られへんねん。あんたはもう、言葉以上の合格点たたき出してんの」


拓也はしばらく黙っていたが、やがて憑き物が落ちたように、小さく笑った。


「そういうもんか」

「そういうもんや」


「難しいな、恋愛って」

「いや、あんたにとっては一番簡単やろ」


「なんでや」

「自分で考え」

「雑やな」

「うるさい」


拓也は不満そうに眉を寄せた。


けれどその顔は、少し前までみたいな不安そうな顔ではなかった。


その顔を見ていると、ずいぶん昔のことを思い出した。


──「好き」だけは何度も言うくせに、約束は忘れる人やった。


泣いても気づかへん人やった。


会いたい言うくせに、会う時間は作ってくれへん人やった。


手を繋ぐのも、向こうの機嫌次第やった。


今となっては顔も曖昧や。


名前すら、もうどうでもええ。


それやのに。


好きと言えへんくせに、一年前の会話を覚えている。


会いたいと言わへんくせに、相手が熱を出せば飛んでいく。


安心させる言葉は苦手なくせに、安心できる行動ばかりする。


ほんま不器用やな。


「……あんた、それもう好きとかいう次元ちゃうやん」

「は?」


真紀は少しだけ笑った。


「彼女さん、幸せ者やなぁ」


拓也はきょとんとした顔で瞬きをする。


「なんや急に」


真紀は立ち上がると、拓也の背中をバンと叩いた。


「ええから帰れ」


「いった!」


大きな背中だった。


叩いた手のひらが、じんと痺れた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。m(_ _)m


案外、人は自分が誰かに与えているものを、自分では分かっていないのかもしれませんね(笑)(*´∀`*)

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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 いや真紀さん、よくここまでおつきあいしましたね。 「いい加減にしてくれ。この天然無自覚惚気がー」と言われても仕方ないような。 ひょっとするとこの付き合いのよさ、真紀さん、拓…
 愛の反対は無関心とか言うけど、この男、関心高すぎ。逆にこわい。  でも、彼女とのことを他の女に相談するのはどうなのか。一歩間違えば怨嗟を浴びてしまいそうな。  ここまでくると、一歩間違えばストーカー…
これって聞いてる立場からすると惚気られてる気になるよな(;゜д゜) 拓也くんにそんなつもりはないんだろうけれど。 むしろ拓也くんがそう思ってしまうという事は、彼女さんの態度がわかりにくいのかも知れない…
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