第4話 要するに強いか弱いかって話
魔法生っていうのは、基本的に弱肉強食の世界だ。
……と言っても、森の中でライオンがシマウマを追いかけ回すような、ああいう単純な構図とは少し違う。魔法生の世界では「強い奴が弱い奴を食う」みたいな分かりやすい暴力だけで物事が決まるわけじゃないし、むしろ実際のところはもう少しややこしい。なにしろ、魔法生にはそれぞれ役割がある。前衛、後衛、回復、補助、索敵、結界、魔導解析。ナンバーの種類によってできることは全然違うし、戦闘能力が低くてもパーティーに必要な能力を持っている人間は普通に重宝される。例えば回復系のナンバーを持つ奴なんかは、剣の腕がどれだけダメでもまず追い出されることはない。なにせ、どんな最強パーティーでも回復役がいなければ長期戦はできないからだ。
つまり、単純な「強い・弱い」だけでは語れない世界ではある。
……あるんだけど。
それでも結局、現実はわりとシンプルだったりする。
役に立たない奴は、役に立たない。
優秀な奴は、優秀。
この二つの区分は、思った以上に残酷なほどはっきりしている。
俺が三年間通っていたテクノスアカデミーでは、魔法生として正式に卒業するためにいくつかの条件が設けられている。一定数以上の実習クリア、学院ランキングの基準点突破、ナンバー能力の実戦証明、そしてパーティー単位での総合評価。どれもそれなりにハードルが高い。さらに言えば、卒業できたとしてもそこで終わりじゃない。
問題はそのあとだ。
卒業後、魔法生はそれぞれの進路を選ぶことになる。
王国直属の魔法騎士団に入るか。
ダンジョン調査局に配属されるか。
民間の探索ギルドに所属するか。
あるいは研究機関や魔導企業に就職するか。
そして、その進路を決めるときに一番重視されるもの。
それが――
成績。
もう本当に、びっくりするくらいそれしか見ない。
「人格がどう」とか「努力がどう」とか、そういう綺麗な言葉は一応パンフレットには書いてあるが、現実には学院ランキングの数字がすべてだ。上位パーティーは王国のエリート部署に引き抜かれ、下位パーティーは地方の雑務に回されるか、最悪そのまま民間ギルドに流れる。つまりテクノスアカデミーというのは、巨大なふるいにかけられる場所みたいなものだ。
そしてそのふるいは、かなり露骨だ。
複雑そうに見えて、結局のところ。
「優秀か、そうでないか」
その天秤に乗せられる。
その結果で、将来の明るさが決まる。
明るい未来を手に入れるために、みんな必死で競い合っている。
……まあ、そういう場所なんだよ。
だから俺は、あいつらを責める気にはなれなかった。
ガルドたちのことだ。
もちろん、思うことがないわけじゃない。
あるよ?
そりゃある。
だって俺たち、三年間ずっと一緒にやってきたんだぞ。
最初のダンジョン実習のとき、ガルドがゴブリンに追い回されて半泣きになってたのを俺は見ているし、リーナが雷魔法の暴発で自分のローブを焦がして泣きそうになっていたのも覚えている。ハルトなんて弓を引きすぎて指の皮がむけてたし、ミアは回復魔法の詠唱を三回くらい噛んでいた。
あの頃はみんな同じくらい未熟だった。
だから、俺も役に立てた。
みんなで失敗して、みんなで強くなっていった。
少なくとも、俺はそう思っていた。
なのに。
最後に言われたのが、
「お前の貢献って、今まで一つもなかったよな」
だった。
……それは、さすがにちょっと頭にきた。
いや、まあ、分かるんだよ。
言いたいことは。
最近の戦闘では、俺はほとんど何もしていなかった。
ガルドが敵を見つける。
ハルトが矢を撃つ。
リーナが魔法を撃つ。
ミアが回復する。
そして戦闘が終わる。
その間、俺は後ろで「うん、オークですね」とか思ってるだけだった。
……うん。
客観的に見ると、確かにいなくても困らない。
でもさ。
だからって「今まで一つもなかった」は、ちょっと言い過ぎじゃない?
ゴブリンの巣を見つけたの、俺だぞ。
あのときのトラップ見破ったのも、俺だぞ。
あとリーナが食中毒になりかけたとき、キノコの毒を見破ったのも俺だぞ。
……まあ、戦闘関係ないけど。
とはいえ。
同時に思う自分もいる。
俺なんかがいなくても。
あいつらなら。
多分、普通にいい成績を取ってたんだろうなって。
そう考えると、やっぱり俺は――
受け入れなきゃいけないのかな、と思う。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか街の門まで来ていた。
アルトリア中央都市。
巨大な城壁に囲まれた学院都市だ。
門の前には荷馬車が並び、商人や旅人が行き来している。門番の兵士が通行証を確認し、魔導スキャナーで荷物をチェックしている。都市に入るには簡単な身分確認が必要なのだが、学生証を持っている俺はそのまま通れた。
……いや、その学生証ももうすぐ返却なんだけど。
街の中に入ると、懐かしい空気がした。
パン屋の匂い。
鍛冶屋の金属音。
遠くから聞こえる魔導列車の汽笛。
俺は歩きながら、小さく息を吐いた。
「……さて」
とりあえず。
寮に戻らなきゃな。
荷物、全部置きっぱなしだし。
制服も教科書も、全部。
それから――
グラント教官にも会いに行かなきゃいけない。
あの人、絶対怒ってる。
いや怒ってるっていうか、心配してる可能性もある。
どっちにしても怖い。
あと、確か制度として休学届ってのがあったはずだ。
正式に退学するんじゃなくて、一時的に学校を離れる制度。理由さえ通れば一年くらいは籍を残せる。今の俺の状況を考えると、それが一番現実的な選択肢かもしれない。
ちゃんと手順を踏んで、学校を休む。
そうしないと後で面倒なことになる。
……多分。
それに。
今頃、親にも連絡がいってるんだろうな。
テクノスアカデミーは保護者への連絡がやたら早い。学生が三日も姿を見せなければ、実家に通知が飛ぶのはほぼ確実だ。
父さんは多分、「まあ若いうちは色々ある」って言うと思う。
母さんは――
めちゃくちゃ心配する。
想像するだけで胃が痛くなってきた。
俺は思わず額を押さえた。
そして、小さく呟く。
「……はぁ」
人生って、なんでこんなに手続きが多いんだろうな。




