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第3話 もうちょっと何とかならない?



 大体、「みやぶる」ってなんだよ。まじで。


 俺は山道を歩きながら、三日ぶりに学院都市アルトリアの城壁を遠くに眺めつつ、心の底からそう思っていた。いや、本当に。神様ってさ、人に能力配るときもうちょっと説明書とか付けてくれない? 「このスキルはこういう用途に適しています」みたいな。少なくとも俺がもらった《No.87 みやぶる》に関しては、完全に商品レビューが不足している。使い始めてから三年経っても、まだ「で、結局これ何ができるの?」って気持ちが消えないのだから、これはもう設計ミスと言っていい。


 ただでさえ俺には戦闘力がない。


 腕力は平均以下。

 魔力量も平均以下。

 剣術の成績は下の中。

 魔法適性は中の下。


 つまり、総合評価としては――


 「努力はしてるけど向いてない」


 ってやつだ。


 そんな俺が持っている唯一の能力が、《みやぶる》。

 できることと言えば、敵のステータスを見るだけ。


 ……うん。


 役立たずもいいところだ。


 いや、正確に言うなら「役立たないわけじゃないけど、役立つ場面がものすごく限定されている能力」だ。


 例えば初見の相手。


 これは確かに強い。


 だってそうだろ?普通の戦闘っていうのは、相手の能力を探りながら戦うものだ。攻撃の癖、魔力の流れ、弱点、戦闘スタイル。そういうものを観察しながら徐々に優位を取っていく。


 でも《みやぶる》を使えば、最初からそれがある程度わかる。


 つまり、


 無条件で手の内を一部見透かすことができる。


 理屈の上ではかなり有利だ。


 戦い方次第では確実に先手を取れる。


 ……理屈の上では。


 問題は、その「見透かす」という言葉の中身である。


 全部見えるわけじゃないんだ。


 これが。


 俺は三年間この能力を使い続けてきて、ようやく理解した。


 《みやぶる》っていうのは、いわば「情報抽選機」みたいなものだ。


 対象を見る。


 能力を発動する。


 すると、頭の中に情報が浮かぶ。


 でも、その内容が――


 かなりムラがある。


 例えば、ゴブリン。


 ――ゴブリン

 ――筋力:低

 ――警戒心:低

 ――弱点:喉部


 うん。


 まあ、普通。


 ところが、別のゴブリンを見るとこうなる。


 ――ゴブリン

 ――性格:臆病

 ――好物:キノコ

 ――最近の悩み:食料不足


 ……いや。


 その情報、戦闘でどう使うんだよ。


 俺は以前、真面目にその情報をパーティーに伝えたことがある。


 「このゴブリン、キノコ好きらしい!」


 ガルドは言った。


 「それで?」


 俺は言葉に詰まった。


 そう。


 それで?


 なのである。


 しかも、相手が強くなるともっと困る。


 ボス級モンスターになると、見破れない項目が増えるのだ。


 例えば、学院の実習ダンジョンにいたミノタウロス。


 俺が見たステータスはこうだった。


 ――ミノタウロス

 ――筋力:極めて高い

 ――防御:極めて高い

 ――???

 ――???

 ――???


 いや、伏せ字多すぎない?


 情報の半分以上が「???」だった。


 しかも弱点は表示されない。


 結果、パーティーはどうしたかというと――


 普通に殴って倒した。


 つまり、俺の能力は


 「あれば便利かもしれないけど、なくても困らない」


 という、ものすごく微妙な立ち位置に落ち着いてしまったのである。


 しかも、この能力。


 もう一つ厄介な特徴がある。


 俺の《みやぶる》は、常時発動型じゃない。


 どちらかというと、


 領域展開型だ。


 と言っても、別にカッコいいものではない。


 簡単に言うと、俺を中心にして一定範囲の中にいる対象に対して能力が働く仕組みになっている。ただしその範囲がまた曖昧で、調子がいいときは十メートルくらい先まで見えるのに、調子が悪いと三メートルくらいしか反応しないこともある。


 つまり、


 効果範囲にもムラがある。


 さらに厄介なのは、対象に能力を反映させたからといって全部の情報が出るわけじゃないことだ。さっき言った通り、見える情報はランダムに近い。弱点が出ることもあれば、好物が出ることもある。たまに「昨日食べたもの」とか表示されることもある。


 それを見たときの俺の気持ちを想像してほしい。


 戦闘中だぞ?


 モンスターが棍棒振り回してくる状況で、


 「昨日の夕食:野ウサギ」


 って表示されるんだぞ?


 どうしろと。


 しかも能力発動には微量とはいえ魔力を使うから、何度も使うと普通に疲れる。


 結果としてどうなるか。


 時間効率が悪い。


 そして効果範囲にもムラがある。


 つまり、


 パーティー連携に致命的に向いていない。


 これが最大の問題だった。


 パーティー戦闘っていうのは、とにかくテンポが大事だ。


 前衛が敵を抑え、後衛が魔法を撃ち、回復役が支える。


 その流れの中で、


 「ちょっと待って、今ステータス見てる」


 なんて言ってる余裕はない。


 ……いや、最初はまだよかったんだ。


 パーティー結成当初。


 みんな、戦いに慣れていなかった。


 ガルドもまだ未熟だったし、リーナも魔法制御が甘かったし、ハルトも狙いが安定していなかった。ミアだって回復のタイミングをよくミスしていた。


 俺の情報は、その頃は役に立った。


 「ゴブリン三体、右から来る!」


 「前のやつ防御弱い!」


 そういう情報があるだけで、戦闘はかなり楽になった。


 あの頃のガルドなんて、味方の補助なしじゃゴブリン一匹にも苦戦するレベルだったのだから。


 それが。


 時間が経つにつれて。


 みんな、どんどん強くなっていった。


 ガルドは剣を振るたびに威力が増して、今ではオークを正面から叩き潰せるようになった。リーナの雷魔法は精度が上がり、詠唱短縮まで覚えた。ハルトは移動しながら矢を撃てるようになったし、ミアの回復魔法はほぼノータイムで発動できる。


 つまり。


 みんな、戦闘のプロになっていった。


 そうなるとどうなるか。


 それぞれの役割がはっきりしてくる。


 ガルドは前衛。


 リーナは火力。


 ハルトは遠距離。


 ミアは回復。


 そして。


 俺は――


 いつの間にか、


 役割が薄くなっていった。

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