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原初武器(プリモーディアル・ウェポン)

 

【エドの雑貨屋】


 足を1歩踏み入れると、埃が舞い始めた。


「ケホッ……汚ぇなぁ」


 掃除くらいしとけよなぁ。


「何も置いてないが……本当に大丈夫なのか?店員も居ないようだ」


「店員はいねぇよ。"ここには"な」


 俺はカウンターの上にある水晶玉の上に手を置いた。


【顧客コードを入力してください】


 この店は経営するプレイヤーが認めたプレイヤーしか取引できないシステムの店だ。

 認められたプレイヤー一人一人に専用の顧客コードってのがあるんだが……。


「ったく、めんどくせぇな」


【イカレアヴァオン廃人ルベライト】


 ふざけやがって。

 これだからこの店には来たくないんだ。以前のデータなら直接会って取引してたから、このコードを打ち込むのも久々だ。


【プレイヤー:ルベライト。認証しました。マスターへ繋げます。少々お待ちください】


「なるほど。冒険者同士の取引か」


「そういうこと。特にコイツは俺と最前線を走り続けた奴だ。それなりに気を利かしてくれるだろ」


「ふむ。クロと共に戦っていたのなら面識があるかもしれないな」


 そうか。アヴァルはあの時の戦いの記憶もあるんだったな。


【プルルル…………プル、ガチャッ】


 カウンターにある水晶玉から現地の映像が投影される。


『おおい!!ルベ!!復活したなら真っ先に声かけろよな!!!』


 ゴーグルを付け、大きなバックパックを背負った青髪の青年は応答するや否や声を張り上げた。


「あーあー、うっせぇなぁ。こっちもバタバタしてんだよ」


『そーかよ!……ちっ!鬱陶しいな……。ルベ、あと30秒まて!』


「戦闘中か、りょーかい」


 なら、見学させてもらおう。


「アヴァル、よく見とけよ。これから先俺達が冒険する世界だ」


「……」


 アヴァルは黙って頷き、映像を見る。


 ◇


 新エリア【アドゥナ砂漠:炎天の塔入口】


「ったく!門番なんて聞いてねぇぞ!」


「もー、エドぉ、そんなカッカしないのぉ。未踏のエリアなんだから、何が起こるか分からないでしょぉ」


 エドと呼ばれた青髪の青年は、眼前で暴れる大蛇を前に数歩後退る。


「はぁ……あと少しなんだがなぁ……」


「ルベが一緒なら余裕を持って勝てたかもねぇ」


「うるせぇうるせぇ、役不足で悪かったな。んで、ルーナ。どうするよ。このへビの動きもHP一定値下回ってからだいぶ強化されてるぞ」


 ルーナと呼ばれた銀髪の美少女はうーんと考える仕草をした後、ニッコリと笑う。


「わかんなぁい。だってそういうのってルベが考えてくれるものだったから」


「お前もルベ任せじゃねぇか!!」


 2人は散開する。

 その様子を見ていた大蛇は大きな尻尾をしならせ強力な薙ぎ払い攻撃を繰り出す。


「よっ」

「ほっ」


 2人は余裕の表情で難なく躱した。

 体制を立て直すが、すぐさま毒液攻撃が飛んでくる、そして、噛みつき攻撃、砂塵で視界を遮り巻き付く拘束攻撃。

 この拘束攻撃に捕まればほぼ即死級の技に繋がるだろう。


「おらっ!!」


 〔ガンッ!!!〕


 エドは短剣を蛇の胴体に突き立てる。


「硬ぇ……が、最初ほどじゃねぇな。押し切るぞ!!」


 大蛇のHPは残り2割を切った。

 この2人のレベルなら互いに大技2回で撃破できるだろう。

 本来なら、だが。

 この2人に限っては一線を画す。


「このHP量なら私だけで十分ねぇ。エド、10秒ちょうだい」


「りょーかい!」


 ルーナは藍色の刀身をした刀を納刀、腰を落とし構える。


 ◇


【エドの雑貨屋】


「クロ、あれは?」


「……原初武器(プリモーディアルウェポン)【神刀:陰雅(いんが)】。俺が取り逃した原初武器の一つだ」


「原初武器!?あの、可憐な少女が……」


 ◇


 新エリア【アドゥナ砂漠:炎天の塔入口】


 大蛇の攻撃を一身に受けるエドは身軽に攻撃を躱していた。

 大蛇は迫る2人のプレイヤーの攻撃を掻い潜り、そして、強力な薙ぎ払い攻撃を繰り出す。


「あっぶね!!」


 攻撃がエドに直撃、しかし身体は黒煙となって消えた。


【スキル:ミラージュシャドウ】


「へへっ!引っかかったな馬鹿め!ん……あれ」


 挑発するエドだったが、自身のステータスバーを見てあることに気付く。


「やっべ……MPが底ついちまった……うぉあ!!!」


 HPが一定値を下回ったお陰で若干強化された大蛇の攻撃を紙一重で躱していく。


「おい!ルーナ!もう10秒経っただろ!!」


 エドの声を聞き、抜刀の構えを取っていたルーナはゆっくりと瞳を開く。


「ええ、もう大丈夫よ。巻き込まれたくなかったら下がって」


「よしきた!!」


 エドは大きく跳躍し後退する。


「頼んだぜ!!」


「ふぅ……」


 ルーナは1つ息を吐き、肩の力を抜く。

 そして、詠唱を始めた。


【月に魅せられし愚かな堕落者。聖女の祈りは混沌と消え、月光の一撃に堕ちる。司るは陰月。極地の果ての根源を見よ】


月禍(げっか)


 鞘に収めた陰雅から陰属性のオーラが溢れ、ルーナを包み込む。

 闇が周囲を暗く、ただ暗く、包み込む。

 一抹の不安に駆られるような、混沌とした闇。

 しかし、陰の中に見える僅かな光、さながら夜闇を照らす月光が如く。


 〔キンッ……〕


 目にも止まらぬ抜刀。

 放たれた横薙ぎの一閃。

 紫紺の一撃は静かにその軌跡をなぞる。

 刹那。

 大蛇は一撃に反応することもなく、その首を落とされた。


「ふぅ、いっちょあがりね」


 ルーナは満面の笑みを浮かべ、その刃を鞘に収めた。


 ◇


【エドの雑貨屋】


「なっ……」


 空いた口が塞がらんとばかりにアヴァルは口をパクパクさせている。

 魚みたいで面白い。


「な、なんだあの技は!!あの少女のことは覚えているぞ!クロと一緒に戦っていた少女だ!」


「おー、俺以外の奴も覚えてんだな」


 てっきりシステムの都合上俺だけ覚えてるのかと。

 ヘブンズロードの人達、とんでもないAI作ってんのな。


「だが今の技は一度も見たことがない!!よもや手を抜かれていたのか……!?」


 ギリッと歯を食いしばり悔しげな表情を露わにする。


「落ち着けアヴァル」


「手を抜かれていたなど……屈辱でしかない……」


「落ち着けってバカ」


「痛っ……」


 アヴァルにデコピンを喰らわしてやった。


「あのな、見た通り原初武器の奥義を使うには数秒の溜め、その他云々とそして詠唱が必要なんだ。お前、そんな暇与えてくれなかっただろ」


「むっ……」


「手を抜いていたんじゃない。使えなかったんだ」


「そ、そうか……」


 アヴァルは納得したのか顔を伏せ、椅子に座る。


「はぁ……」


 しかし、使用するのに詠唱と溜めの他にも前提条件が必要とはいえ、とんでもないな。

 俺の【漆天万雷】を遥かに凌ぐ一撃だ。

 これが原初武器(プリモーディアルウェポン)……。


「急いで前線に戻らないとな」


「そうだな。私も俄然やる気が出てきた」


『よし!ルベ、聞こえるかぁ?』


「聞こえるぞ。折角だ、こっちの映像も映せよ」


「そうだな!」


 エドはこっちの様子も伺えるようにビデオ通話をオンにした。


『へー!それが新しいルベの姿かぁ。銀髪とは思い切ったな!』

『えー、私とおそろぉ?ちょっと匂わせやめてよねぇ』


「うるせぇ馬鹿共。それに俺はもうルベライトじゃない、クロノスだ」


『クロノスか!なら、クロだな!』

『よろしくねぇクロ』


 俺達が和気あいあいと会話している横でアヴァルはバツが悪そうにモジモジしている。


『それで……気になってたんだが、横のべっぴんさんはどちらさんで?』


「おー、紹介がまだだったな。俺の従者だ。名前は"アヴァル"」


『やっぱり従者か!にしてもよく表情の動く従者だなぁ……って、アヴァル?お前、宿敵の名前を従者に付けるとかどんなプレイだよ』


 エドはケタケタと笑っている。

 どうやら、このアヴァルがあのアヴァルだとは気付いていないらしい。

 無理もないか、兜被ってないし、鎧の色も違うし。


「その宿敵のアヴァルだよ」


『……は?ど、どういう……』


「この従者は……」

「私が話そう」


 そう言いアヴァルは自己紹介を始めた。


「お初に……ではないか、幾度となく剣を交えたな。エド殿、ルーナ殿。改めて我が名はアヴァル・ディア・ウラノス。邪に囚われていた哀れな騎士王だ。呪怨から解放してくれたクロノスに恩義を返すため、行動を共にしている次第だ。よろしく頼む」


『……よ、よろしく』

『……よろしくねぇ』


 アヴァルの自己紹介を聞いた2人は呆気にとられた様子で返事をしたが、その視線は徐々に俺の方に向いてくる。

 怖い。


『どういう事だルベ……クロ!!おま、どんなAI詰め込んだ!?』

『ちょっと説明がほしいわねぇ』


「だぁもう、説明するから落ち着けって」


 全く落ち着きのない2人だ。


「こいつは正真正銘"あのアヴァル"だ。お前らも最後の戦いの時パーティ組んでたんだから報酬は貰ってるだろ?」


『ああ、クリア報酬な。俺はこのブレスレットだった』

『私はこの髪飾りよ』


「俺の場合はこのアミュレットと……アヴァルだ」


『『????』』


 2人の頭に?が沢山浮かんでるな。


「クリア報酬と最多貢献度報酬だよ。クリア報酬は【ファントムアミュレット】、最多貢献度報酬が【従者の封晶石】。つまり、"従者アヴァルの封晶石"ってことだな」


『『っ!!』』


 やっと理解したみたいだ。


『いきなりラスボスが仲間って……反則じゃないか?』


「アヴァルは飽くまで従者だ。レベルはプレイヤーに合わせられる」


『しかし凄いわねぇ。クロだけの特別な従者、高性能独立型AIも搭載されてるから従者っていうよりプレイヤーといった方がしっくりくるわ』


 確かに。

 プレイヤー達が連れている一般的な従者は簡易的な表情変化や最低限の意思疎通は取れるが、アヴァルのように自分で考え行動するなんてことはありえない。


「まぁ、なにはともあれ俺の新しい相棒だ。仲良くしてやってくれ」


『あらぁ、妬けるわね。クロの右腕は私じゃなかったぁ?』

『馬鹿言え!クロの右腕は俺だろ!』


 ギャーギャーと言い合っている映像をヤレヤレと眺めていると思い詰めた顔でアヴァルが立ち上がる。


「ク、クロの剣となり盾となるのは私だ!生涯を共にすると誓った故、それだけは譲れん!」


「お、おい!」


 なんかすんごい語弊のある言い方を……。


『クロ、お前アヴァルに何言わせてんだよ』

『お熱いわね。そういう設定?やらしぃ』


「設定とかねぇよ!全部アヴァルの意思だ!」


『へぇ、超絶美少女アヴァルちゃんはクロノスにゾッコンなんだぞってか?』


「あーあーあーもううるさいなぁ!本題入るぞ!」


『『逃げた』』


 なんとでも言え。


「はぁ……装備が欲しいから売ってくれ。俺達のペースだと初期装備は役不足でな、それに双剣も壊れちまったし」


 俺は2人にボロボロの双剣を見せた。


『おいまだ始めて数時間だろ……どうやったらこんなにボロボロになんだよ……』


「話せば長くなる。とりあえず、レベルは50推奨かつレアリティはR(レア)以上がいいな。俺の武器は双剣、アヴァルは片手用直剣と盾、防具は俺は身軽なやつでアヴァルはフルプレートメイルで頼む」


 低レベルの装備と言えど、妥協は出来ないからな。


『あのなぁ、クロ……』


「なんだ?」


 何を渋ってんだか、世界を渡る行商人様がその程度用意出来ないはずないだろうに。

 まさか、この俺を揺すろうってのか……?


『お前金持ってんのか?』


 何言ってんだか、この俺が金を……。

 ん。

 金?金なんかいくらで……も……。


「あ……」


 しまった……前のデータは所持金が億を超えていたから……。

 所持金不足、考えたこともなかった。


『んなことだろうと思ったよ。いくらもってんの?』


 俺の稼ぎといえばさっき戦った特殊ボス:オーガジェネラルの討伐報酬くらいか。


「……1000G(ゴールド)


『まぁ、そうだろうな』


 そういうとエドは何やら考え込み始めた。

 まさか、金欠の俺からむしり取る気か?この悪魔め。


『はぁ……すまんが、今のお前の所持金に見合う装備は無くてな。だがまぁ、親友の縁だ、情報やるからレベリングがてら自分達で素材集めて鍛冶屋に頼め』


「か、金は……?」


『いらねぇよ。その金で最低限の装備を買ってこい』


 最新の攻略情報とはありがたい。

 悪魔とか言ってごめんよエド。お前は良い奴だ。


「……ん?【エニシア古城跡地】?新エリアのダンジョンか?」


『いや、旧エリアだ。アプデで追加されたばかりの新鮮なダンジョンだぞ!』


 今のレベルで初見攻略か……。リスクが高いな。


『安心しろ。よくある迷宮型のダンジョンだ。ボスは2体いるがこれもよくある片方が魔法型片方が近接型のモンスター、そういう敵とは嫌ほど戦ってきただろ?』


「まぁな」


『それに、運が良けりゃこいつらはお前らが欲しがってる装備を一度に手にすることができるからな。今のお前らにはもってこいだ』


 ふむ、なるほどな。

 2体同時のボスか……ってことは、同時に倒さないといけないパターンか、ヒーラーを先に倒さないといけないパターンの2択だな。

 どっちにしろ敵をはっ倒すって意味では変わらないか。


『クロ、早く追いつかないとまた原初武器取っちゃうからねぇ?』


 挑発じみた笑みを浮かべたルーナがクスクスと言ってくる。

 ルーナはおっとりした雰囲気とはかけ離れたドSだからな。


「ああ、首洗って待ってろ」


『そういうのって敵に言うもんでしょ〜。私達は味方よ』


「はいはい。んじゃ、行ってくるわ。フレ申は飛ばしてるから、またなんかあったら連絡くれ」


『おうよ!またな!』


 エドとルーナに手を振り、俺とアヴァルはエドの雑貨屋を後にした。


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