序盤でラスボス(レベル1)が仲間になりました
世界物語!
つまり、トライアル版アヴァロン・オンラインの続きが始められるってことか。
はい、と言いたいところだが……。
世界物語は正直どのNPCからでも受けられるはずだ。なぜ、このタイミングで?わざわざアヴァルから?
なにか特別なストーリーに繋がってるのか?
それに、このアヴァルの表情……。
いや、真顔なんだが、なんか……こう……。
「いいえだ」
「っ!?なぜ……?」
アヴァルは目を見開き固まる。
「そ、そうか……私では貴方の……」
「アヴァル」
「?」
「お前、なにか隠してるだろ」
「……」
バツが悪そうに目を逸らすアヴァル。
やっぱりな、あの瞳の奥に宿る感情……。
「復讐か?」
「……」
図星か。
「ったく、表情に出やすいなお前」
「っ……すまない。隠していたつもりなのだが、やはり敵わないな」
困ったような笑顔をうかべたアヴァルはポツポツと話し始める。
「そう……私にはやり遂げなければいけないことがある。だが勘違いしないで欲しい。貴方の剣であり続けるという想いは本物だ」
「ああ、それに関しちゃ疑ってない。教えてくれよ、お前達はこの未知の大陸アヴァロンで一体何があったんだ?」
「話せば……長くなる。聞いてくれるか?私達の物語を」
【『原初物語:根源と終焉の詩を貴方と』を開始します】
「……まさか、ここで原初物語とは」
しかも、"はい"か"いいえ"の選択肢もない強制的に開始するイベントだ。
【原初物語】とはこの世界の根源に関わる極めて重大なクエストだ。
トライアル時の原初物語クエスト発生確率は……なんと0%。そう、俺も含め誰一人としてクエストフラグを立てることができなかったのだ。原初物語の存在は公表されていたから、おそらく実装はされていたのだろうし。
もし、世界物語の段階で"はい"を選んでいたら恐らくこの原初物語は日の目を浴びることは無かったのだろうか。
そう考えるとヘブロの運営はリスキーな事するよな。自分達が最も知って欲しい物語のはずなのに。
いや、もしかしたらこれ以外にもクエストフラグがあったりするのか?
まぁ、普通に考えてそうだよな。
「ルベ……クロノス?」
「ああ、なんでもない。クロでいいよ」
「そうか?ではクロ、私達がこの大陸に来た理由は知っているのだろう?」
ゲームのオープニングにもある話だな。
世界を救った英雄"騎士王:アヴァル・ディア・ウラノス"。
彼女は戦いの傷を癒すため、かつての仲間と共に"安息の地:アヴァロン"へ赴いた。
泉には回復の効果が宿り、木々に実る果実には失った魔力を回復する効果を持つ。空気は澄みわたり、島に住み着く動物達は穏やかでアヴァロンは人々の楽園と伝えられていた。
しかし、アヴァロンへ向かった1ヶ月後、彼女らとの連絡が途絶える。
楽園に染まったのか、はたまた別の驚異に晒されたのか……それを知るのは"アヴァロン"へ赴いた者のみだ。
「そして俺達は未知を求めこのアヴァロンに訪れた」
「だろうな。あの王城で私が貴方達を待ち受けていた時点で、私達がどうなったかなど想像も容易だろう」
「まぁな」
今は美しい銀色の甲冑を身につけているが、ラスボスとして君臨していた頃は紫色の禍々しい甲冑を身に付けていた。
忌々しき呪怨と言っていたし……恐らく呪いの甲冑といったところだろう。
アヴァルと言えば世界の英雄だ。そんな奴があんな状態になってしまうほどの強敵がまだ待ち受けているってことか……。
「私は負けた。このアヴァロンに君臨する絶対的な"神"によって」
「神……?」
「その話は……また今度にしよう」
ってここでお預けかよ。
レベル不足か?条件を満たしてないんだろうな。
さて
【クロノス レベルUP 1→36】
【アヴァル レベルUP 1→32】
お、一気にレベルが上がったな。
だが30を超えてからのオーガジェネラルでのレベリングは効率が悪い。
原初物語も気になるところだが、こっからはエリア探索しながらぼちぼちレベ上げしていくか。
「行こうぜアヴァル」
「ああ!行こう!」
小さな廃村を背に俺達はまだ見ぬ地へと思いを馳せるのだった。
◇◇◇◇◇
【城塞都市:ガルガン】
ここは城塞都市ガルガン。
ビギナーがまず最初に訪れる、アヴァロン・オンラインでセントラル王城に次いで大きい街だ。
ここにくれば大抵のものは揃ってるビギナーからベテランまで御用達の街だ。
ざわざわと喧騒が街に響く。
「おい……あれ見ろよ」
「とんでもない美人だ」
「キャラクリ上手いなぁ」
街行くプレイヤーたちは俺……の隣にいるアヴァルを一目見ては目で追っている。
「セントラルから随分と離れた街に来たものだ……」
「ここには来たことあるのか?」
「ああ、随分前になるが、こんなには栄えてなかった」
アヴァルがこの大陸に上陸したのって100年以上前だよな……。
アヴァルって今何歳……、
「クロノス、なにか失礼な事を考えてないか?」
「き、気の所為だ」
人の心でも読めるのか……?
「まぁ、すぐにでもセントラル王城に戻って拡張エリアを探索したいところだが、俺達はまだ弱い」
現に俺達はアプデが入ったとはいえ、オーガジェネラル如きに苦戦してしまった。
くそ、このままじゃアイツらに色々と先を越されてしまう……。
こんなところで足踏みする訳には……。
「焦っているのか?」
「え?焦ってなんか……いや、そうだな。焦ってるかな」
このゲームがリリースされてから常に最前線を張ってきたのは俺だけじゃない。
今回の本編リリースで拡張されたのはマップだけじゃない。あらゆるコンテンツが体験版と比べてバージョンアップされ、まだ見ぬダンジョンやお宝が眠っている。
それに……。
「原初武器……」
「原初武器?」
「ああ。この世界のどこかにある、各種の根源を宿した2つと存在しない幻の武器のことだ。体験版……この世界が拓かれる以前にも原初武器は3つあったが、そのどれも手に入れることはできなかったんだ」
「そんな物が存在するのか。根源を宿した武器……奴らにも関係ある物なのか……?」
「ん?」
「いや、なんでもない」
アヴァルは何かを思い詰めるように顔を逸らす。
「まぁ、なんにせよ、この世界の最前線を走るヤツらはみんなこの世界に取り憑かれた廃人だ。急ぐに越したことはないけどないだろ」
「その原初武器とやらを持っていなくてもクロは最強だったのだな!流石だ!」
満面の笑みを向けられるとなんか照れるな。
原初武器を持たずとも最強で居られたのは【天満ノ極】のおかげだろうけど。
「攻略も一朝一夕にはいかないだろうからな」
そのための準備も必要だ。
「それで、クロ。私達はどこに向かっているのだ?」
「ああ、ちょっと買い物に行こうと思ってててな」
「買い物?」
首を傾げるアヴァルに俺は装備している双剣を腰から抜き取り見せた。
「これは……」
「まぁ、無理矢理上位属性を使用した結果だな」
焼け焦げ黒ずんだ剣身、ボロボロの刃、切っ先は折れ見るも無惨な姿になっている。
そもそも初期装備の双剣だ、1回上位属性を扱えただけでも十分な働きだった。
「では、武器を新調に行くのだな」
「ああ、それとアヴァル、お前の装備もな」
そういうとアヴァルは気まずそうに目を逸らす。
「ちょっとお前の装備見るぞ」
武器
・聖剣エルナイト【装備推奨レベル120】
・マナシールド(神聖)【装備推奨レベル120】
防具
・騎士王の兜【装備推奨レベル120】
・騎士王の鎧上【装備推奨レベル120】
・騎士王の鎧下【装備推奨レベル120】
装備推奨レベルを大きく下回っています。
性能が大幅に低下します。
ふむ。
騎士王装備は腕装備と足装備は統一なのか……なるほど。
まぁ、大方予想通りだな。
「思い入れがある装備なのはわかるが、今のお前じゃ宝の持ち腐れだぞ」
「わ、わかっている……」
レベル32の今じゃ、ペラッペラの紙装甲でしかない。タンクがメインの騎士職としては大きな弱点だ。
「うむ……。致し方あるまい……クロの足を引っ張る訳にはいかないからな」
そう言いアヴァルは騎士王装備を解除した。
このレベルまで下がってしまったのは俺のせいでもあるから、少し気が引けるな。
そんな事を考えながら歩いていると目的の店が見えてきた。
「ここだ」
「ここ?」
大通りを外れた薄暗い路地の一角にある如何にも荒屋といった風体の店。
「とても武具屋には見えないが……」
「まぁ、武具屋っていうより雑貨屋だがな」
「す、すまないがいくら主の命令と言えど適当な物を装備するのは……」
「安心しろ、品質は保証する」
今にも倒れそうな木製の扉を開き、店内に足を踏み入れた。
一方その頃双子は
君人「うおおおおお!!!」
君津「なに!?急にびっくりした!?」
君人「これ!コレ見て!例の彼!原初物語のクエストフラグ一発で立てたよ!!」
君人&君津「うおおおおおおおお!!!!!」