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レベリングも一筋縄ではいかないらしい

 

【鬼村】


「へへっ、遊びに来てやったぜ。【オーガジェネラル】」


 旅立ちの平原からやや北東に進んだ先にある廃屋が疎らに並んだ【鬼村】という小さなエリア。

 いくつかの廃屋の中で特定の操作をすると現れる特殊エネミー。それがこの如何にも「鬼!!」という見た目をした【オーガジェネラル】だ。


 なんとなんと初期エリア付近にもかかわらず推奨レベルは40。推奨人数は3人となっている。


「へぇー、確か本編リリース前は推奨人数12人だったよな。ちゃんとやりやすいようになってんだ」


 正直レベル1の新規プレイヤーがソロで挑む敵ではないが、まぁ、30分もあれば倒せるだろう。


「特殊ボスは経験値がうまいからなぁ。こいつ一体でレベル30はいくか?」


 腰から2本の剣を抜き取る。

 俺が選んだ職業は『双剣術士』。圧倒的な攻撃速度が強みのAGI特化型の職業だ。

 ちなみに前データの職業は『剣術士』派生の最上位職『天魔之極』という職業だった。この世界に2人しかいない超絶レアな職業であり俺がこの世界でトップたる由縁でもあった。


「過去の栄光だな……なんか悲しくなってきた」


 〔ピコンッ〕


「ん?」


 運営からのメール?しかもギフト付きだ。


「ちょっと待ってくれよオーガジェネラル。ちゃんと相手してやるから」


 迫りくるオーガジェネラルの攻撃を躱しながら運営から送られてきたギフトを確認する。

 オーガジェネラルとは嫌ほど戦ってきたからな。正直、視界の端で捉えてさえいれば躱すのは容易だ。


【最終ボス:騎士王アヴァルの討伐おめでとうございます。最多貢献度特典を送付します】

【最終ボス:騎士王アヴァルの討伐おめでとうございます。ラストアタック特典を送付します】


「おお、討伐報酬か」


 このデータでも届いたってことはヘブロのアカウントに直接送られてるってことか。

 助かった。

 アヴァルの討伐報酬すら闇に葬り去られたら萎えるどころじゃなくなっていた。


「やっぱ最多貢献度は俺だったな。さてさて、中身は……」


 まずはラストアタック特典からだ。


 ◆

 ・アイテム:ファントムアミュレット

 ・分類:アクセサリー

 ・ランク:レジェンダリー

 ・説明:現代では失われた技術で作られた聖遺物。かつて騎士王として君臨し続けた王者にのみ引き継がれていた。魔に堕ちた王を鎮め打倒せし真なる戦士が今新たな持ち主となるであろう。

 ・性能:取得経験値×1.25(Lv120まで) 筋力+3 敏捷+5 スタミナ+2

 ◆


 なんだこのぶっ壊れアクセは。

 取得経験値増加装備なんて以前のアヴァオンには無かったぞ。

 本編リリースでレベルキャップも150まで解放されてるし……くそっ、データが消えちまったのがさらに悔やまれる。

 本来ならこのアクセサリーでゲーム本編を優位に進めてたのか……。


「まぁ、お陰でレベルは上げやすそうだ」


 開き直れば爆速でレベル上げできるってことだろ?

 このデカブツ倒せばそれこそ一気にレベルが上がるな。


「さてお次は……っ!?」


 オーガジェネラルの拳が俺の脇腹を掠める。


 なんだ?

 ステータスが初期化されたからってこの程度のモンスターに遅れを取る程落ちぶれちゃいないはずだが……動きが数段速くなった?


 〔グルルルルァァァァアアア!!!!〕


「なんだなんだ!?」


 急にオーガジェネラルの身体が黒く変色し始めたぞ。


「おいおい、第2形態なんて聞いてないぞ……」


 どうやら修正が入ったのはゲームのシステムだけじゃなく、モンスターの挙動や仕様にも修正と変更が入っているらしい。


「まぁいい。とりあえずファントムアミュレットを装備してステータスの底上げだ」


 ステータスに割り振れるポイントは1レベル上がる事に1ポイント獲得できる。

 このアミュレットは合計で10のステータスポイントに相当する。つまり、今の俺はレベル1ではなくレベル11相当ってことだ。


「あんま変わんねぇが無いよりかマシか」


 さて、どうするか。

 かわせないことは無いが、防戦一方だ。

 どうにかして反撃のタイミングを掴みたいが……。


「やっちまったなぁ……。大人しく順便待ちしてレベリングした方が良かったか?」


 このゲームのデスペナルティ地味にキツイんだよな。ステータスもデバフ入るし、取得経験値の量も減っちまう。


「って何弱気になってんだ。俺はトッププレイヤーだぞ。こんなピンチ屁でもな……ってこのウィンドウ邪魔だな!!」


 視界の端で操作途中だったギフトメールのウィンドウが出っぱなしだった。

 今はそれどころじゃないんだが……。


「……ん?もう1つの報酬……これって」


 ◆

 ・アイテム:アヴァル・ディア・ウラノスの封晶石

 ・分類:消耗品

 ・説明:この剣は貴方の為にある。また会える日を楽しみにしている。

 ・性能:従者召喚アイテム

 ◆


「アヴァル・ディア・ウラノスって言えば、騎士王アヴァルの本名だよな。従者って……まさか……っぐあ」


 オーガジェネラルの拳が俺の腹部を捉える。

 地味にダメージも上がってやがる……。HPの5割が消し飛んだ。

 レイドゲーの頃だったら即死だったかもな。


「神アプデありがとな運営」


 ビギナー応援キャンペーンで配布された上級ポーションを使いHPを全快する。少しもったいないがそんなこと言ってられる場合じゃない。


「……また会えるのか」


 ボコられてた時は二度と見たくない面だと思っていたが、こんなにも嬉しいなんてな。


「さぁ、今度は共に戦おうぜ好敵手(ライバル)。力を貸してくれ!」


【封晶石を解放しますか?】


「"はい"だ!!」


 インベントリから取り出した金色の水晶は一際眩い光を放ち、四方に砕け散った。

 砕け散った水晶の中から現れた金色のオーラはやがて人の形を型取っていく。


 美しい長髪のブロンドヘアー。

 吸い込まれそうなほどの翡翠色の大きな瞳。

 シルバーの甲冑を身に纏う美しい女性は跪き、頭を垂れる。


「貴方とまた会える日を心待ちにしていた。今日この日より、貴方は私の主だ。ルベライト……ルベライト?」


 アヴァルは俺の顔を見るなりキョトンと首を傾げる。


「貴殿は誰だ?おかしい……お告げでは私を打ち破った者と生涯を共にすると……」


 生涯を共にて……添い遂げる気かよ。


「アヴァル、話は後だ。とりあえず力を貸してくれ」


「?……なるほど、承知した」


 迫るオーガジェネラルを見てアヴァルは剣を抜き取り構える。


「はっ、ラスボスが序盤で仲間になるとか……とんだヌルゲーだな」


「くるぞ」


 迫るオーガジェネラルの拳を躱し、胴体に一撃叩き込む。


【スキル:双牙】


 2つの強烈な突きでオーガジェネラルは大きく後退し仰け反った。


「アヴァル!!今だ!!」


 アヴァルはクワッと目を見開き、オーガジェネラルへ肉薄する。


「てやぁぁぁぁああ!!!!」


 〔カーーンッ……〕


「「え?」」


 気合いとは裏腹なマヌケな金属音が辺りに響いた。

 心無しかオーガジェネラルもキョトンとしているような?


「ぬっ……」


「ぬっじゃねぇよ!!」


 不思議そうに自分の剣を眺めるアヴァル。

 だが、そこへオーガジェネラルの強烈な殴り攻撃が迫っていた。


 〔ガンッ!!!!〕


「ぐっ……」


 すんでのところでアヴァルの前に割って入り、迫る拳を2本の剣で受け止める。

 くそ。

 今の俺の力じゃ受け止めきれない。


「アヴァル……!支えてくれ……!」


「しょ、承知した!!」


 俺の2本の剣にアヴァルの金色の剣が加わる。

 多少マシにはなったが、それでもギリギリか。


「「うぉぉぉおおお!!!」」


 ギリギリ拳を弾くことに成功した。


 やっぱりアヴァルのやつ、とんでもないほど弱体化している。

 従者用に弱体化するとは思っていたが、これはやりすぎじゃないか?

 いや、待てよ。

 従者は飽くまでプレイヤーのサポート、プレイヤーのレベルに合わせられる物だとすると……。


「俺のせいか……」


「次が来るぞ!」


 もしアヴァルのレベルが俺と同じ1だとしたら、正直戦力にはならない。

 俺は第2形態となったとはいえオーガジェネラルとは嫌ほど戦った経験があるからまだなんとか戦えるが……。


「何かスキルあるか?」


「信じられないが……2つしか使えないようだ」


 騎士系統の序盤スキルだと、【守護の唄】と【剣気】か。

 騎士職はタンク寄りのロールだったよな。

 レベル1にタンクさせるのは忍びないが……致し方ない。

 俺がその間に削りきればいいだけだ。


「アヴァル!【守護の唄】で全力で防御してくれ!」


「了解した!」


【スキル:守護の唄】


【守護の唄】にはヘイトを稼ぐ効果も含まれている。

 案の定オーガジェネラルのヘイトはアヴァルへと向いた。


 よし、あとは俺が残りのHPを削りきればいい。

 だがどうしたらいい……?

 現状扱えるスキルではオーガジェネラルのHPを削りきることはできない。


「くそっ……考えろ……」


 なにか無いか。

 俺はこの世界で1番戦い続けてきたプレイヤーだ。この程度の逆境なんて幾度となく覆してきた。


 そうして俺は前人未到を成し遂げたんだ。


 〔ポツ……ポツ……〕


「……雨?」


 上空を厚い雲が覆う。

 暗雲立ち込める空には稲光が迸り、当たりを照らす。


「雷……そうだ、これなら」


「すまないが……もう耐えれそうに……!!」


 必死で耐えるアヴァルだが、そのHPは3割を切っていた。

 従者が力尽きた場合どうなるかは分からない。だからこそ、こんな所で躓く訳には行かない。


【スキル:属性付与(雷)】


 アヴァロン・オンライン。

 このゲームの真骨頂は圧倒的な自由度の高さだ。

 限りなく現実(リアル)を追求し、時には非現実(ファンタジー)を織り交ぜ多種多様な攻略法、戦闘方法がある。

 その中でも運と環境に作用されるフィールドの環境によって攻略する方法がある。

 難しい話じゃない。今この場にあるもの全てを使って敵を倒す。ただそれだけだ。


「今のこのフィールドの環境は"雷雨"!雷電を纏う貴金属を持ち歩く奴は落雷に注意……ってな!!!」


 俺は近くにあった教会の時計台の頂上に登り、高々と2本の剣を掲げた。


 〔ズガァァァァァン!!!!!〕


 その瞬間、獲物を見つけたかのように落雷が俺を……元い2本の剣を襲う。


「うぎぎ……し、痺れる……HPは……残り2か。ギリギリだが、これでいける……!!!」


 属性付与は本来重複しない。だが特殊条件下でのみ効果が上乗せされ『上位属性』へ一時的に進化を遂げ、低レベルでも扱うことが可能となる。


「上位属性『黒雷』」


 漆黒の雷は銀色に鈍く光る2本の剣に宿った。


 纏う黒雷は猛々しさが増し、轟く雷鳴は曇天の空を縦横無尽に駆け巡る。

 教会の時計塔からオーガジェネラルの頭上目掛けて飛び降りた。


 こいつの弱点は頭部。特に頭頂部がダメージ倍率1.5倍の急所だ。


「アヴァル!!下がれ!!」


「っ!!わかった!!」


 俺の声を聞きアヴァルは咄嗟に数歩下がる。


「この技は本来『天魔之極』に到達してようやく使える最上位スキルだ。擬似的なもんだが、てめぇごときこれで十分だろ!!」


【スキル:擬似『漆天万雷』】


「この世界で頂きに至った"スキル"の真髄ってやつを見せてやる」


 頭頂部目掛けて双剣を振り下ろす。

 荒れ狂う漆黒の万雷はオーガジェネラルの頭上に降り注ぎ、その身を焼き焦がした。


 〔グオォォォォォォオオ!!!!〕


 オーガジェネラルのHPは1割を切る。


「あの技は……」


 アヴァルの脳裏には、自分が倒されたあの日の最後の剣戟が脳裏を過ぎる。


「やはり……貴方は」


 オーガジェネラルのHPを一気に削ることができた。だが、まだ足りない。


「ルベライト!!」


【固有スキル:ナイツ・オブ・ラウンド】

【能力値が低い為効果が激減します】


「っ!?これは……バフか!」


 全身が金色のオーラを纏う。

 感覚的に全てのステータスにバフが入ってそうだ。


「これなら……!!」


 オーガジェネラルの頭頂部から股の下までを斬り下ろし、それを追尾する様に二閃の黒雷が斬り口を焼き焦がしていく。

 黒雷はやがてHPを削り取り、オーガジェネラルは光の粒子となって砕け散った。


「はぁ……はぁ……」


 あっぶねぇ……ギリギリだった。

 擬似『漆天万雷』の威力が思ったよりも低かったな。あの程度じゃ最上位スキルの模倣なんて言うのも烏滸がましい。


「ルベライト、流石だな」


 ボロボロの体を引きづりながら、アヴァルは笑顔で語りかける。

 アヴァルの固有スキルが無ければやばかったな。


「助けられた。ありがとうな」


 アヴァルは不思議そうに俺の顔を覗き込む。


「姿形は変わろうと、やはり貴方なのだな。ルベライト、また会えて嬉しい」


「ああ、俺も嬉しいよ。訳あって弱っちくなったが、魂は同じだ。名前はクロノス、よろしくな」


「ふふっ、確かに以前のような圧倒的な力は無いが、それでも貴方の強者の風格は変わらないな。よろしく頼む、クロノス」


 そう言うとアヴァルは唐突に膝を着き、頭を下げた。


「お、おい、なにしてんだよ」


 真剣な瞳で俺を見る。


「クロノス。私を忌々しい呪いから解き放ってくれた英雄。これからは貴方の剣であり盾であることを誓う。私も弱くなってしまったが、かつての力を取り戻し、必ず戦力になる。願わくば、貴方と共に世界を見たい。どうか、貴方の傍で戦わせほしい」


【『世界物語(ワールドストーリー):アヴァロン』を開始しますか?】


「っ!!」


 世界物語!

 つまり、トライアル版アヴァロン・オンラインの続きが始められるってことか。


 だが……どうするか。

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