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データが破損する恐れがありますって脅し文句だと思ってた

【アヴァロン・オンライン】

 圧倒的な自由度と超美麗なグラフィックで一世を風靡したフルダイブ型MMORPG。

 冒険に出てエリア攻略に出る者、武器や防具、ポーションなど生産職に力を入れる者、農業や釣りなどに精を出しスローライフを送る者。各々のプレイスタイルでアヴァロン・オンラインを楽しんでいた。

 しかし、超高難易度のボス攻略に加えレイドバトル推奨であることからソロや少数パーティには厳しい面もある。ただでさえ超高難易度なのに寄せ集めの野良レイドで攻略もできるはずがなく、心が折れ生産職に回るプレイヤーも多々現れたという。中には初期街で初心者を狩り続ける外道になりさがるプレイヤーも。そうして、こと戦闘職においては過疎化の一途を辿って行った。


「それで?24人レイド推奨であり、かつてないほどの超高難易度ボスである"私のアヴァルちゃん"を倒したのはたったの4人の少数精鋭パーティーと。やったのは『陽炎』の連中?……いや、彼らにそんな力はないか』


 そう話すのは丸い眼鏡をかけた目の下の隈が目立つ若い女性。

【アヴァロン・オンライン】の総合管理責任者でありエグゼクティブプロデューサーである『天羽君津(あまうきみつ)』だ。


「攻略したのは『無所属:アルフィ』『無所属:エド』『陽炎クランマスター:ギルバルト』そして、『無所属:ルベライト』」


 スーツを着た黒髪の男性、責任者補佐である『天羽君人(あまうきみと)』はそう答える。


「ルベライト……やっぱあの子は別格ね」


 天羽君人は資料を取り出し、ペラペラとページをめくる。


「プレイヤー名:ルベライト。アヴァロン・オンラインリリース初日から始めた最古参プレイヤー、総プレイ時間は2000時間を超え、ソロでアヴァロン・オンラインのトッププレイヤーとして君臨してきた。記憶に新しいのは推奨人数24人のアヴァルに次ぐ超高難易度ボス『精霊騎士:ランス』にソロで挑み5時間の激闘の末勝利を納めた正に規格外……。で、どうするの?姉さん」


「どうするったって…………」


 君津は手に持つペットボトルを全力で地面に叩き付けた。


「なんでその当人はアカウント消してんだよ!!!!!」


「言葉が汚くなってるよ」


「汚くもなるわ!?なんで!?ゲーム本編リリースしたんだよ!?寄せられてた意見も取り入れてレイド主体からパーティー主体に変えたんだよ!?それどころかトライアル版が霞むくらいの超特大アップデートなんだよ!?」


(本編リリースなのに自分でアップデートって言っちゃってるし……)


「訳わかんないんだけど!!どうすんのさ!?アヴァル戦で最も貢献したプレイヤーに贈られるクリア報酬!"アレ"は他に替えがきかない物なんだけど!?」


「それについては問題ない。特別撃破報酬については運営からの報酬付きメールとしてアカウントに直接贈られる。彼が同じアカウントでゲームを始めたのならそのデータ内で報酬は受け取れるはず」


「そっか、報酬を受け取るのは同アカウントのうち1つのデータだけ。彼がまたアヴァロン・オンラインを始めてくれたら私のアヴァルちゃんも……」


「始めてくれたら……だけどね」


「「はぁ……」」


 PCの画面に映し出された1人のプレイヤーの資料を横目に、双子の溜め息が室内に寂しく響いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 季節は春。

 がやがやと喧騒の響く教室では、新しいクラスの仲間となった高校生達が和気藹々と話している。

 フレッシュな光景とはかけ離れたどんよりとした空気を醸し出している男子生徒が1人……。


「おはよう。刻波君」


「……」


 刻波紅鳴に挨拶をした女子生徒は無視されたことにピキっと額に青筋を立てる。


「私を無視するとはいい度胸ね……」


 〔ガンッ!!!〕


「うおっ!?」


 机を蹴られ、うつ伏せで寝ていた彼は体をビクッと起き上がらせる。

 何事かと顔を上げると、亜麻色の髪色をした女性が頬を膨らませ彼を睨んでいた。


「おはよう」


「……なんだ黒羽(くろば)か」


「なんだじゃないわよ。挨拶くらい返しなさいよ」


「はいはい、おはよおはよ」


 悪態をつく彼に対して息混じりに口を開く。


「なにをそんなにしょげてるのよ。なにかあった?」


 若干頬を赤らめクイッと顎を上げながらもしょげている紅鳴の顔をチラチラと見る。


「なんでもねぇよ」


「……あっそ」


 何か言いたげな顔をしていた黒羽だが、少し開いた口を閉じ、彼の隣の席に座った。


(2000時間の1番やりこんだゲームのデータが消えちゃったから、流石に堪えてるわね……)


 彼女の名前は黒羽花楓(くろばかえで)

 成績優秀(学年2位)容姿端麗(気が強くてモテはするがあまり告白されない)な少女である。

 趣味はゲーム。"紅鳴が始めた"という理由で自分も始めたアヴァロン・オンラインでは準古参プレイヤーであり、トッププレイヤー達に名を連ねるほどの実力者である。


「そ、そのなんかアヴァロン?オンライン?ってゲームがなんか最近話題になってるけど、刻波君がやってるゲームじゃない?わ、私は興味無いけどね!」


 ゲームでは紅鳴と仲良くできるかもと思い始めたアヴァロン・オンラインであったが、始めて1年、まだ彼とフレンドになれていない。どころか、紅鳴は花楓がアヴァロン・オンラインをしていることを知らない状況だ。


「へっ!あんなレイドゲー!大型アプデがあったってまたすぐプレイヤーは居なくなっていくさ」


「えっと?『難易度の調整』?『従者の追加』?『原初武器の追加』?よ、よくわかんないけどなんか凄いみたいね?」


 花楓は紅鳴が好みそうな話題をあえて持上げ、チラチラと表情を伺う。

 そして紅鳴はゆっくりと上体を起こす。


「難易度の調整?まさか、ソロでも攻略可能なのか……?」


「い、いや……パーティー推奨だからソロはキツイんじゃないかしら?ソロでも攻略する為の『従者』じゃないの?戦闘とかサポートしてくれるらしいけど……」


「なるほどな、ヘブンズロードのAI技術は他には無いほどの高性能だ……これなら……」


 ブツブツと話しながら徐にスマホを開き、アヴァオンの最新情報を眺める紅鳴。

 その様子に花楓は困ったように頬を綻ばす。


「なにがあったか知らないけど、途中で諦めるなんてあなたらしくないわ」


「……そうだな。うん。また1から始めるか」


 紅鳴は決意新たにスマホを閉じる。

 その瞳には先程までの虚無とは違い、確かな決意が宿っていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 3日ぶりに目にする【アヴァロン・オンライン】のタイトルロゴ。

 3日間インしなかっただけでえらく懐かしく感じる。


【新規作成】


「はぁ……まさかまたこの画面を見ることになるとはな」


 新規アバターを作成するキャラクリ画面。

 キャラクリにそこまでこだわるほうじゃないからなぁ。とりあえず操作感に支障が出ないように慎重と体重はリアルに合わせよう。


「よし」


【プレイヤー名を決めてください】


 プレイヤー名か。

 いつもならルベライトにするところだが、ルベライトはもう消えちまったからな。

 心機一転、新たな俺の門出だ。


【プレイヤー名:クロノス】


「さて、New紅鳴のデビューだ」


【アヴァロン・オンラインへようこそ】


 アプデしたにも関わらず1年前と変わらない質素な歓迎の言葉に思わず笑みがこぼれる。

 あぁ、やっぱりいいな。新しくゲームを始めるわくわく感はたまらない。


 ◇


【旅立ちの平原】


 がやがやとプレイヤーたちの喧騒が聞こえる。


「んっ……」


 暗転した視界にゆっくりと光が差し込んでくる。


「うぉ……」


 人!人!人!!見渡す限りのプレイヤー!!!


 本編リリースしてから復帰勢を含めた新規プレイヤーが爆発的に増加したとは聞いていたが、まさかここまでとは。

 平原が本当の意味で平原になっていたあの頃が懐かしい。


「ったく、これじゃレベリングもままならないな」


 序盤のおすすめ武器や狩場、レベリング方法などアヴァオンの攻略情報はそれなりに出回っている。辺りの狩場はすでに満員だろうな。

 だとすると、経験者でありしかも最前線を走ってきた俺のすることは一つだ。


「いつまでも下で燻ってる訳にはいかないよな」


 トップに返り咲いてやる。

一方その頃双子は


君津「うおおおおおお!!!!」

君人「うわっ!?姉さん急に奇声を発さないでよ」

君津「ね!見て!コレ見て!例の彼!また始めたみたい!!」


君津&君人「「うおおおおおおお!!!!」」

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