第七話 山大国の妃巫女
『将軍』の率いる騎兵により、捕縛され、投獄された出雲だが、意外にも『皇帝』によって、牢から解放された。
その後、出雲は『辺境の砂丘』には戻らず『山岳地帯』へ向かう。
この山岳地帯には、皇帝から迫害された人々が、集落を作って暮らしていた。
その集落のリーダーは、美しい女性が務めている。
ここは現在『山大国』と呼ばれていた。
出雲が『山大国』に到着すると、女性リーダーは、人々を集落の広場に集め、
「この御方は『神の子』である。今日から私は『妃巫女』と名乗り、神の子に、お仕えしよう」
つまり、妃巫女は出雲の妻になると、宣言したのだ。
「こ、困りますよ。突然、そんなこと」
これには出雲も、当惑したが、
「神の子、降臨!」
「神の子、降臨!」
と、人々からの熱烈な歓迎を受け、山大国で暮らすようになる。
だが、それから、しばらく経った頃、三穂が山大国に、やって来た。
「出雲、あたしも、来ちゃった」
「こんな遠まで一人で来たのか」
「だって、出雲に、会いたくて」
三穂は、山大国に神の子が『降臨』したとの噂を耳にして、長い道のりを旅して来たのだ。
しかし、すでに出雲には、妃巫女という妻がいる。
「でも、それは『神の子』に、仕える巫女さんでしょう」
三穂は無邪気に言ったが、
「いや、それには大人の事情があって」
「何が、大人の事情よ。このスケベ!」
激怒する三穂だが『辺境の砂丘』には帰らずに、この『山大国』に留まった。
その頃、都では皇帝が毒で暗殺される。
さらには、未亡人となった后と将軍が再婚した。
混迷する都の治世だが、后は『九尾の狐』であると噂される悪女で、民衆から嫌われている。
その后は、ある日、爬虫類のような目をした魔術師から『魔法の鏡』を買った。
夜、后は『魔法の鏡』に顔を映して、こう尋ねる。
「この世界で一番美しいのは誰?」
「それは、山大国の妃巫女です!」
その答えに、后は怒り、
ガシャーン!
と、『魔法の鏡』を叩き割った。そして、今の夫である将軍に、
「あなた、今すぐ、山大国を攻めて!」
「どうしたんだ。急に、そんなことを」
「いいから、山大国の妃巫女を殺して」
結局、将軍は后の言いなりになって、兵を挙げる。
そして、その日の早朝、将軍の率いる軍勢が、山大国に侵攻した。
この事態に三穂は、山頂の出雲の神殿に駆け込む。
「出雲、大変な事が起こったわ」
「朝早くから騒がしい。何事か」
と、応じたのは妃巫女だったが、三穂は妃巫女を無視して、出雲に向かって言った。
「軍勢が、攻め込んで来たのよ!」
「何だと、敵の襲撃か、今、行く」
出雲は剣を手に取り、走った。
山頂の神殿から駆け降り、出雲が見たものは、地獄のような光景である。
「お願いします。助けて下さい」
「うるさいぞ、コラァ、死ねや」
将軍の軍勢が、逃げ惑う人を無差別に殺戮していた。
「この子だけは、殺さないで」
「近づくな、汚らわしい民が」
馬に乗る将軍は、命乞いする母子を容赦なく、太刀で斬り殺す。
「何をしているのだ、将軍!」
出雲は怒り、将軍に斬りかかった。