第五話 皇帝と出雲
師匠の国主が死んだ後、出雲は夢を見た。夢の中で国主は語る。
「出雲よ、これで良かったのだ。私は剣士であり、敵の刃で葬られることは、私の望みなのだから」
その頃、悪魔は思案していた。出雲との戦いでレプリティアンは重傷を負った。次の手は、どうするか。
兎に角、あの出雲とかいう『神の子』を、早く、始末したい。
そして、悪魔は次の戦略として『皇帝』を利用することを思いついた。
皇帝は『権謀術数』で大乱を勝ち抜き、支配者となった男だ。
権力者となった今は、常に命を狙われていて、誰も信じられない。 皇帝は『猜疑心』の塊になっていた。
その皇帝の『意識』に、悪魔は直接、語りかける。
「皇帝よ、聞こえるか」
「この声は、いったい」
「声の正体など、どうでもいい。重要なのは、お前を殺して、支配者の地位を奪おうとしている者が、居る事だ」
「そんな者は、最近、大勢、居るだろう」
「問題は、それが、できる者が居るかだ」
「それが、できる者が居るというのか?」
「一人いる。その存在は、お前も、良く知っているだろう」
「もしかして、それは、辺境の砂丘に追いやった『神の子』か。確かに、奴なら、私を殺して支配者になれる」
「そうだ。お前の心の不安や怯えも、すべては『神の子』の存在によるものだ。まあ、それは、お前が一番よく知っている事だがな」
悪魔の口車に乗った皇帝は『将軍』に四百騎の騎兵を預け、辺境の砂丘へと向かわせた。
そして、出雲は四百騎の騎兵に取り囲まれ、抵抗もせずに降伏する。一部始終を見ていた三穂は、捕縛された出雲に駆け寄った。
「出雲、なぜ、逃げないの?」
「この騎兵たちも、命令を受けて、僕を捕らえに来たんだ。僕が逃げれば、この騎兵たちが罰せられる」
そう答えた出雲は、縄で縛られ、都に護送されて、投獄される。
将軍は都に戻ると、皇帝に謁見して報告した。
「神の子、出雲を捕縛、致しました」
「そうか、明日の朝にでも処刑せよ」
出雲を捕らえて安堵した皇帝は、満面の笑みで、そう命じる。
しかし、その夜。皇帝は『神の子』を一目、見たくなって、出雲の牢を覗いた。
牢の中の出雲は『優しい光』を宿しているようで、戦士のような荒々しさはない。
「これが『神の子』か」
皇帝が思わず漏らした『独り言』を耳して、出雲が牢の中から、皇帝を見る。
目が合った瞬間、皇帝は『正のエネルギー』を感じて、涙を流した。
「この涙は、いったい何なのだ?」
困惑しながらも、皇帝は、自分の無力さと憐れさを悟った。
出雲は牢の中で、無言のままであったが、皇帝は番兵に牢を開けさせ、
「さあ『神の子』よ。どうぞ、あなたの行くべき場所に向かって下さい」
と、出雲を逃がして、なぜか入れ替わりに、皇帝が自ら牢に入る。
牢の中の皇帝は麻袋を頭から被り、ジッと動かなくなった。
その様子を物陰から見ていた将軍は、
「皇帝は力を失った。今度は、私が支配者になる番だ!」
そう確信して、逃げる出雲の後を追って、呼び止める。
「お待ち下さい『神の子』よ。私は、あなたを崇拝します」
将軍は出雲の足元に、ひれ伏した。だが、出雲は無視して、その場から立ち去っる。