第一話 最も古く最も新しい神話
この物語は、世界で最も古く誕生し、最も新しく発見された神話である。
その『新世紀神話』によると、神の子『出雲』は、大乱に巻き込まれ、辺境の砂丘へ追われたという。
まだ幼い出雲は『龍をも葬る』と、称される剣士『国主』に育てられた。
国主は、少年時代の出雲に、こう語り聞かせる。
「出雲よ。剣で身を守るとは、敵を殺すという事だ。その事を忘れるな」
「はい」
「剣だけではない。人間が生きる事は、他の生命の犠牲の上に成り立っている。飯を食うとは、他の生命を食しているのだ」
「僕たちは、日々、生きるために殺生をしなくては、ならないのですか」
「そうだ。生きていくうえで『犠牲なった』他の生命への感謝の気持ちを忘れてはならない」
「では、師匠。今の世は、人々が感謝の気持ちを忘れ、こんなにも、乱れているのですか?」
「そういう事だな。お前の御父上である『神』がいた頃は、人々は感謝の気持ちを忘れなかった。他者に優しく、争い事は無かったのだが」
その父である神は、妻の『イザナミ』が病で死ぬと、
「出雲、必ず、お前の母さんを甦らせる」
と、言って『死者の国』へと旅立ち、戻らなくなっていた。
そして、神がいなくなった、この『東の島』では、人々の心が乱れ、互いに争い、やがて、大乱が起こる。
時が流れ、出雲は精強な剣士へと成長した。
そして、ある日、長剣を担いだの男が、この辺境の砂丘にやって来た。
その男は、一人の娘に声をかける。
「私は、こんな長剣を持っていますが、皇帝の親衛隊の一員です。この砂丘に『神の子』がいると聞いて、一目、お会いしたく、都から来たのですが」
「出雲のことですね」
この娘は、出雲の幼なじみで、名は『三穂』という。村長である須佐の娘だ。
三穂は、この男を出雲の家へと案内した。
「出雲、お客さんよ!」
三穂が声をかけると、出雲は戸を開けて顔をだした。
「俺の名は『八咫鳶』という。お前が、剣豪・国主に育てられた『神の子』なのか」
「そうでが、何の、ご用ですか?」
「その腕前を、見せてもらおうか」
と、八咫鳶と名乗った男は、長剣を鞘から抜き放つ。
「えっ、嘘。この人、出雲と決闘をするために来たの!」
三穂は目を丸くして驚き、
「ごめん、出雲。こんな事になって」
「いいよ。三穂が悪いわけじゃない」
出雲は、そう言いながらも、この珍客を、どうするべきかと思案した。
今、師匠の国主は、他の村へと出掛けて留守だ。
だが、八咫鳶は、今にも斬りかかって来そうな殺気を放っている。
「わかりました。お相手、致しましょう」
出雲は覚悟を決めた。 それを見る三穂は、
「決闘なんて大丈夫、出雲」
「たぶん、大丈夫だと思う」
出雲も決闘は初めての体験だ。緊張を覚えながらも、八咫鳶と対峙した。
「今日、俺は『神の子』を倒して、伝説の剣士となるのだ!」
八咫鳶は、長剣を真上から振り下ろす。
グオォーン。
出雲は紙一重で避けた。そして、一気に踏み込み、剣を水平に凪ぎ払う。
ザシュン。
充分な手応えがあり、八咫鳶の首が宙に舞った。
「や、やってしまった」
出雲の足元に、その首が転がる。