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第八話 ヒロイン視点①

私はティティーナ、『伯爵令嬢』だ。


 元は平民だった、お父さんは貴族様でお母さんが平民。

許されない恋人、というやつなのだと近所の人に聞かされ、

皆はかわいそうだと慰めてくれたけど、そんなことなかった。


 だってウチはその辺の子より大きな家で、お母さんはとびきり美人、

それにお父さんは毎日仕事から帰ってきて一緒にご飯を食べて遊んでくれるの。

酔っぱらって帰ってくるときはお酒臭くてそこだけ嫌だったけど寂しいことなんてなかったし、なんでかわいそうなんて言われるのかわからなかった。

たまに喧嘩だってするけど、仲はとっても良くて、二人とも大好きな私の家族なの。


 私が6歳のころ、お父さんが青い顔して帰ってきた、まだ早い時間だったけど忘れ物をしたわけでも、風邪をひいて戻ってきたわけでもなさそう。

お母さんと二人で長い時間話し合いしてて不思議だった。


 それから仕事もいかずに家にずっといるようになった、

お仕事は大丈夫なのかな?って思ったけど3人ずっと一緒なのがうれしかった。


 数か月くらい経ってお手紙がお父さん宛に届いた。

それを読んだあと、お父さんは部屋に響くほど大笑いしてて


ちょっと怖かった。


 そのあと、何度も家を出入りして知らない人もやってきて、

どうしたんだろうって思ったけどお父さんから引越が決まったよ!と抱きしめられた。


 もう、本当にあっという間で、

必要最低限の荷物を持って綺麗な馬車に乗ってとっても大きなお邸へやってきた。


 引越先ってここなの?ほんとうに?

玄関前でお母さんとポカンとしてたら、私たち三人に向かって頭を下げてくる人がいた。

知ってる、執事って人でしょ?

女性はメイドさん?建物までの道、両端に並ぶ人人人、

みんな私たち3人に頭を下げてお迎えしてくれてる、すごい!

ここが私たちの家になるんだ、お父さんすごい!

今までいた家にも使用人が通いで二人いたけど、比較なんてできないほどすごい!


 でもみんな冷たい?歩くたびに冷たい視線を感じるようでなんでだろう?って思ったけど、

お父さんが「ここは自分がもともと住んでいた家なんだよ」って教えてくれた。

お父さんは貴族だから、この視線は貴族様特有のものなのかなあって思うことにしたの。



 私はそれから伯爵令嬢になった。

お母さん・・・『お母さま』は伯爵夫人だ、前より綺麗な服を着て使用人が全てやってくれる。

料理もしなくなって私もお母さまも手がすべすべになった。

ただ勉強はとっても大変。よその国の言葉とか、マナーとか、もう、覚えることたくさん!

でもマナーを教えてくれた先生が、誰もいないときにこっそり教えてくれた。


私に血の繋がった姉がいるんだって


 お母さまがどうしてお父さまときちんと結婚できていなかったのか、

それはお父さまには今まで正妻がいたからなのだと、まあそういう話だった。

ただお母さまがいままで正妻じゃなかったっていう実感?が湧かなかった。


だってお父さまと毎日一緒に暮らしてたんだよ?


 お母さまは愛人という立ち位置だったらしい、愛人はどういう人を指すのかも教えてもらったけどひどいと思った。だから私はお父さまに聞いたの、そしたらお父さまは先生を辞めさせてしまった。

もっと先生から教えてほしいことがたくさんあったのに・・・。

次の先生に教えてもらおうと思ったけど

「あなたのお父さまから話すなといわれている」と教えてくれない、マナーに関することだけ教えてあとはさっさと帰ってしまう。


 ここにきて3か月経った。

初めてこの邸に来た時、迎えてくれた使用人たちは全員いなくなってしまった。


 やっぱりお仕事が厳しいのかな?

私も平民の時、お手伝いでお金もらったりしたけど厳しいところは続かないもん、

『でも入れ替わるたびにどんどん気さくな人が入ってくるの』。

だから今は結構気が楽なんだ!

皆で長い時間おしゃべりしたり、一緒にお菓子作って食べたり、大声で笑いあったり、

弾けるようになったピアノをお披露目したり、勉強は大変だけどとっても楽しい!


 でも毎日毎日同じことが続くの。

外にあんまり出ちゃいけないんだって、誘拐されたら困るもんね、貴族って大変。


 そんな日々でふと思い出したの、最初のマナーの先生は私に腹違いの姉がいるって。

お父さまの、前妻との子供。私と同い年だって。

気になっちゃったから仲良くしている使用人に、お父さまには内緒でこっそり調べてもらったの。

だってお父さまはお姉さまのことを訊くだけで先生を辞めさせてしまったから、

私がお姉さまのこと調べたら怒られちゃう。


 調べたらバーバラ・バランドっていう『私と同じ伯爵令嬢』だってわかった。

自分のお母さまが死んじゃったあとは、

そのお母さまの実家で『すごく遠い田舎』で暮らしているんだって。


 それを聞いて私はかわいそうだと思った、

『仲の良い母が死んで』

『田舎に引っ越すことになっちゃった』なんて、

お父さまはなんでお姉さまを呼んであげないのだろうか?

私とお母さまがぎこちなくなっちゃうからかな?そうかも、


お父さまはやさしいから。



 それ以上は調べられなかった、会う手段もなかった、行くには遠すぎて、貰っているお小遣いでは足りないし。かといってお父さまたちに言うわけにもいかない。

がっかりしていたけど、別の先生が言ってたの、

16歳になったらこの国の貴族の子供は「全員」王都の学園に通う義務があるんだって。


 同じ年のお姉さま!お姉さまと同じ学園に通える!

私はうれしくなって随分先のカレンダー買ってもらい入学式に花丸を付けた。


どんな子なんだろう、私が妹だって知ったらびっくりするかなあ、

そもそも姉妹がいるなんて知らなかったりして?

ふふふ、学園に通うのが楽しみだなあ!





私は16歳になった、ついに入学式の日!


 可愛い制服を着て逸る心を抑えられなくて、御者にお願いして早めに馬車を出発してもらった。

お姉さまの馬車はどれだろう?お姉さまの伯爵家の家紋はばっちり覚えたの!

でもたくさんの馬車が出入りしてて全然わからなかった、

ついには「轢かれてしまいますよ」とその場から追い出されてしまった。


 追い出された先が全く分からず迷子になっちゃった、どうしよう式に間に合わなくなっちゃう!

おろおろしてたらとても綺麗な男の子に出会った。


本当に、本当に、物語から出てきた王子様みたいだった


 王子様・・・じゃなく、その男の子から困りごと?って聞かれて「迷子」であることを正直に伝えたけど、とっても恥ずかしかった。

その男の子も同じ1年でクラスまで案内してくれたの。


 うれしい、うれしい!こんな綺麗な男の子と同じ学年なんて、

頭がそれだけで埋め尽くされて帰りまでお姉さまを探すことすっかり忘れていたの。

クラスは別々だったから・・・。

『同じ伯爵令嬢ならクラスも一緒かも』って期待したけど。

そういえばクラスメイトも私を変な目で見てた、

自己紹介をした時ちょっとざわついたし、そういえば私と同じ爵位の子っていなかったなあ。

あの男の子と同じクラスじゃないのは残念だったけど、

平民の子もいたし過ごしやすくてラッキーだなって思った。


 そして帰りにようやくお姉さまのことを思い出して慌てて探し始めてようやく見つけた、

お姉さまの家紋がついた馬車!

男の子にエスコートされる女の子の後ろ姿が見えてテンションが上がった、きっとお姉さま!

と、隣は婚約者かな?


 貴族だと16歳で婚約者がいることも普通なんだって

私は?ってお父さまに聞いたら学園でのびのび暮らしてほしいからまだ婚約者とかは決めていないんだって。さすがお父さまよね。


私はお姉さまだって確信して話しかけたの。


「お姉さま!」


 振り返ったのはきれいな女の子、興奮してお姉さまへ話しかける。


「あの!わたしティティーナ・スノッドです。父はアダムスといいます、同じ父です!」


お姉さまはニコリと笑ってくれた、わあ、綺麗な笑顔だなあ。

でも私やお父さまに似ているところはあんまりないかな?お姉さまは亡くなったお母さま似なのね!

あ、いけないいけない、きちんと令嬢としての挨拶しなくちゃ。

この日のために練習したんだから、

帰りに一緒にスイーツのお店とか行ったりしたい!

 あ、そうすると今エスコートしてる男の子が迷惑に思うかな?

慌てて傍にいた男の子に顔を向けて・・・固まった。


入学式前に助けてくれた王子様・・・


 エスコートしているってことは、やっぱり婚約者ってことだよね、

実は兄弟がもう一人いたってことはないかな、あ、それもなんか嫌かも。

ええ、泣きそう。

相手も私だって気が付いて驚いている、そんな顔もとっても素敵。

私たちはそこまで見つめあっていたつもりはなかったんだけど、

お姉さまが「挨拶もされたくないようなので、そろそろお暇しようかしら」といって馬車に乗り込んでしまった。きれいな男の子も私を気にしつつも一緒に馬車に乗って行ってしまった。


馬車が見えなくなるまで私はずっと見ていた。


 その日の夜、私の好物をたくさん用意して家族と使用人たちがパーティをしてくれた。

でも私はあの綺麗な男の子のことで頭も胸もいっぱいで全然食べられなかった。

周りが困っているのが分かったから無理やり食べようと思ったら玄関が騒がしい。

お父さまが呼ばれて玄関で手紙を受け取って・・・

戻ってきたお父さまが「パーティは中止だ、ティティ、私と一緒に書斎まで」と。

びっくりしているお母さまたちを置いて、私とお父さまは書斎に入った。


「『とある伯爵家』から抗議の手紙が入った、

入学式の帰り、馬車に乗り込む前に突然挨拶もなく呼び止められたと、

家名も名乗らずあちらから声掛けしても「無視された」と」


 お姉さま、声かけてくれてたんだ。

どうしよう、綺麗な男の子のことしか見ていなかったからわからない、

私は混乱しつつもお姉さまがいるって知ってどうしても会いたかった、

会ったけど緊張してしゃべれなかったって伝えたの。

ちょっと嘘が入っちゃったけど、知らない男の子に見惚れてたなんていったらお父さま心配しちゃうよね。


 お父さまは今まで見たことない厳しい顔をしながら教えてくれた、前妻との間にたしかに子供がいてその子がバーバラお姉さまなのだと。

 ただ前妻よりも前に私のお母さまと出会っていて恋人だったんだって。

だけどお母さまは平民で、周りは許してくれなくて、だから私たちを貴族として迎え入れることが出来なかったって。


「前の奥さん?が亡くなったら、私たちを貴族として迎えられるの?最初は反対されたんでしょ?」

「・・・私はこの伯爵家の三男でね、当時は決定権がなかったんだ、

ただ『前妻が亡くなった後、実家に戻り、兄たちが相次いで亡くなったため』私がこの伯爵家を継ぐことになったんだ。

この家の長となった、だから多少のわがままを通すことが出来たんだ」


 だから私たちを邸にお迎えできたんだって。

私は、貴族でも平民でも家族一緒に仲良くできたらそれでよかったけど、

でも、貴族じゃなかったらあの男の子とも会えなかったのかなあ。


「お姉さまも一緒に暮らせなかったのはどうして?」

「・・・前妻の方の家が跡取りを欲していたんだ。

そのため、彼女は前妻の葬式のあとにすぐ、あちらのご家族が迎えに来たんだ」


 可哀そうなお姉さま!

そして納得した、あっちの家に跡取りがいなかったから連れ去られたんだわ、6歳頃でしょ?

まだそんな小さいのに『大好きなお父さま』と離れ離れにされたなんて・・・。

私ならとても耐えられない、お姉さまのことを考えたら悲しくなった。

お父さまも青い顔をしてる、きっとその時のことを思い出しているんだわ。


「お姉さまがいるって知ってとてもうれしかったの、姉妹ってあこがれてたから。

同じ学園に通っているんだから、お話ししちゃ、だめかな?」

「・・・・・・それは難しい、いや、貴族にはとても大変な【色々な事情があって】な、

話すことは控えた方がいい、その方がお互いのためなんだ」


わかってくれるね?とお父さまが青い顔のまま私の肩を掴んでくる、ちょっと痛かった。


「お姉さまをこっちの邸にお迎えすることは出来ないの?

私!半分しか血がつながってなくても全然平気よ!」

「なにをっ・・・いやすまない、優しい子だねお前は。

だがそれも難しい、すでにあちらの跡取りとしての教育も進んでいるし卒業後は今の婚約者と共に伯爵家を早々に継ぐという話だ」


 ずきんと胸が痛んだ。

あの男の子の顔がよぎってそれ以上は聞けなかった。




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