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第五話

『婚約者がいる目の前で、ダンスを続けて踊った馬鹿がいる』

という噂、ではなく真実は、瞬く間に広まった。


 もう私が噂を広めなくてもいいくらい勝手に二人は落ち続けている。

空気の読めないどこぞの令息は「勇者じゃないか!」と笑い令嬢の冷たい笑顔を貰う羽目になっていた。




・・・少し、わかったことがある。


 物語の強制力は完璧ではない。少しずつ、少しずつほころびが見える。

義姉という悪役が機能していないが『私の代わりにこんな障害いかがでしょうか?』

と用意した噂が、二人に立ちはだかっている。

でもそれに対し周りを見ず、二人の愛だけで乗り越えようとして悪い方向に転がり落ちている。

もはや強制力でどうにもならない程に。


 噂を流した時点で最終警告だった。

あの時点で目が覚めていたら何もすることはなかったのに。





 そして冒頭だ。

小説と同じく婚約解消をこんな庭園でお願いしてきている。

たしか本来なら解消に納得せずティティーナを叱責し始めたバーバラに対しエドルドが

『実の妹になぜそんなに冷たくなれる』とバーバラの地雷を踏むような発言をしてバーバラが発狂。

婚約解消などもちろんできずティティーナをさらにいじめるために大きな事件へと発展するが・・・。


 残念ながら私はいじめなんてしていないし、周りの評判も私のほうが高い。

二人は愛に燃え上がりすぎて知らないのかしら?

ああそういえば、小説では平民全開なティティーナを諫めてサポートしてくれる優しい友人たちが周りにいたがそれらの子たちは皆、私のサロンに呼んでいるし、そもそも同じクラスではない。

そして今ティティーナがいるクラスは寄付金も払えなかった下位貴族か頑張ってお金を工面した平民ばかり。

クラスの中では一番高い地位を誇る彼女には言いづらく、言動や行動を止める人間は皆無だったのだろう。

 そう、小説のティティーナは『バーバラに認められたい。仲良くなりたい』と思い、

周りからの助言をしっかり聞き成長し、淑女になったのに

今は『婚約者がいる令息と知りながら近づく痴女』扱い。もはや貴族令嬢として誰も彼女を認めていない。


ここにきて物語の強制力のせいでどうしようもないほどヒロインという存在が瓦解している。



悪役の私が勝ってしまってごめんなさいね、物語の強制力、いえ、≪神様≫かしら。




「まあいいです、わかりました、解消ですね」


 私の言葉に二人の顔がパッと明るくなる。なに希望抱いた目をしているんだ。


「その言葉はこちらで預かりましょう。

私たちの結婚は国境を守る辺境伯と、隣の領地である貴方の家とが望んだ婚約です。

私が勝手に返事をするわけにはいきませんよね?


・・・皆さんには集まっていただかなければ。

もちろん王都にある私の邸に、指定された日に集まりなさい。

ああ、領地を家族全員が空けるのは大変です。エドルド、いえ、『ユースリム令息』。

そちらの家のご長男夫婦は許して差し上げます。

そして婚約解消の原因となったスノッド令嬢、家族全員の出席を求めます。貴女から話しなさい」

 

 エドルドが青い顔をして待ってくれという。白々しくどうしたのか聞くと、


「もちろん自分の責任であることはわかっている」

「あなたの責任で収まるわけないでしょう?

貴方はただの令息、あなたの保護をするのは家、あなたの家の責任ですよ」


 分かりやすく点と点をつないで答えに導いてやる。しっかりして欲しい。こんなバカじゃなかっただろうが。


「・・・今は領地で大事な稲刈りがあって大量の出荷を抱えているんだ。送り先の確認で多くの人手も必要で」

「まあ!それがわかっているのに、この時期に、『こんな無礼な方法』で解消申し込みをされたの?

仮に、急を要しているとしても、誰もいない部屋を貸し切り、家の者を見張りに立てる、それくらい最低限必要なことでしょう?

それが何かしら?放課後の庭園ですって?誰でも来ることが出来るこの場所で婚約解消?

誰かに聞かれたらどうされるおつもり?」


 あうあうと喘ぐだけで言葉になっていない。

ティティーナに至っては話についていけないようでポカンとしている。口を閉じろ。


「先ほども申し上げた通り、家を継ぐ予定の長男夫婦は来なくて構いません。

二人はすでに領地経営者としてとても優秀で、ほとんど任されているほどだと伺いましたし」

「なぜそれを知っているんだ?」


私はハア?という顔でエドルドを見た。


「…手紙が来ていたでしょう。近況報告は婚約者である私にもありました。当然のことです。

貴方に手紙を出しても戻ってこないと、貴方のご実家から嘆きの手紙もいただいていますが、

まさか読んでいないのですか?」


信じられない、という体で肩を上げ一歩下がった。


「でも・・・せめて我が家と君の家での話じゃないか。彼女を巻き込むのは」


 エドルドはティティーナをちらりと見てそんなことを言っているが当然逃がしてなんてやらん。

私は大げさに「あのですね?」と少し大き目な声を上げる。


「そちらのご令嬢と私の関係を、ご存じでしょう?

私からの接触をできるかぎりしない、そして彼女からも私に接触しない。

それで『スノッド家を許した』ことにしたのです。

なのに、よりによって私の婚約者と付き合うですって?どんな神経をしていたらそんなことが出来るんです?

 エドルド、貴方は勉強もおろそかになり順位を落とし、学園内での交流もせず皆様の助言も聞かない。自分に対しての悪い噂も受け流し、家族の手紙すら読まず、ついにはダンスパーティーで2回も続けて踊るなど!

貴方たちは何がしたいんですの!」


 おろおろするしか出来ない二人を無視してホロリと涙を流して駆け出した。

二人が追いかけてきたタイミングで友人が飛び出して私をかばう。


 彼女は王族にもお金を貸す侯爵家の令嬢だ。

今回のことは事前に伝えて庭園でスタンバイしてもらっていた。

彼女からずいぶん厳しい目で見られたんだろう。二人は後ずさりして頭を下げている。

友人に肩をそっと支えられ庭園をあとにした。

 この友人は私の性格も知っている悪友で私が彼女と、彼女の婚約者との仲を取り持ってやった。

彼女は目が少し強めなので睨んでいるように見えるし、少ーし言動も強めなのだが、

『ツンデレ可愛いやろがい』と彼女の婚約者を洗脳・・・教育し今ではラブラブである。

そんな彼女が何を隠そう私の涙指導に当たってくれている師匠である。大変お世話になった。


 そうして二人がいる庭園から離れた。

今日はこのまま授業をさぼって帰宅する予定だ。馬車を待っている間、誰も来ないよう見張りを付けて・・・友人は私の演技に対しダメ出しをしてきた。


「師匠、これでも婚約者に婚約解消を言われてショックを受けておりまして」

「私とのお茶会でさんざん面白おかしく二人の噂話をして

笑いながらスコーンを紅茶で流し込んだ女が、なんですって?」


私は黙って師匠のありがたい指導を聞いた。


 彼女は『見るに堪えない惨状を見てしまい、具合が悪くなった。と各家に抗議しておきますね』

と、とてもいい笑顔で馬車に乗って帰っていった。師匠もサボるのね。

もちろん私も帰宅後に彼女へ謝罪という名の感謝の手紙を送った。

彼女への謝礼は今回の結末をいち早く教えることだ。


 そして他にも3通。

祖父、エドルドの両親、そしてティティーナの両親にも手紙を送る。

その間もちろん学園にはいかない。

 何度かエドルドとティティーナ、そして実父がやってきたが全部門前払いだ。

この数日、学園は二人を責める視線とねちねちのお言葉で相当痛い目を見ただろう。



 婚約解消発言の4日後、祖父と、なぜか従弟がやってきた。

従弟・・・カルロは13歳とは思えないほどのイケメンになっていた。

背は私と同じくらいだけど、程よい筋肉が付きめちゃ好みだった。

『まだ祖父のようになれない』としょげていたがあんな山みたいになる必要はない。

そのままであれ。


 辺境の地で過ごした私を祖父は溺愛していたし、信用していたユースリム伯爵家の息子に裏切られてブチギレの祖父。そんな祖父が明日「来い」といえば嵐の中だろうと来なければならない。

同じように伯爵家と名が付いていようと、重要な国境を守る我がバランド家とは同列ではないのだ。



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