第一話
「バーバラ、僕たちは愛し合っているんだ、
だから、申し訳ないけど…君との婚約をなかったことにしたい」
目の前にいる線の細い、まだ幼さを残した綺麗な男は苦痛に耐えるかのような顔をしてそんな言葉を吐いている。
エドルド・ユースリム、私の婚約者だ。
その横には可愛らしい少女がこれまた申し訳なさそうにしながら私の婚約者の袖を掴んでいる。
私ことバーバラ・バランドは二人に呼び出され、人気の少ない学園の庭園にやってきていた。
私は、怒るでも、悲しむでも、呆れるでもなくこう思った。
(あ、そうそう、小説でのセリフはそれだったわ)と
バーバラは転生者だ。
思い出したのは5歳のころ。
こことは全く違う世界の記憶があるとなんとなく理解していた。
それが前世というもので、この世界はその前世で読んでいた小説と酷似しているとわかったのは
さらに1年経ってからだ。
小説では今、目の前で震えている美少女こそがヒロインのティティーナであり、
バーバラは作品を彩るための悪役だ。
【腹違いの姉】であるバーバラはティティーナを小さい頃から苛めていたがティティーナは両親や使用人達から愛され、いつか姉とも仲良くなれることを夢見ながらすくすく育った。
そして学園の入学式、一目惚れした男子が姉の婚約者であることが発覚し…と
よくある【愛してはダメな人と結局愛しあっちゃうお話】である。
そして今、この状況も、残念ながら小説通りだ。
小説中盤、二人はバーバラを呼び出し婚約解消をお願いする。
もちろんバーバラは許さず、ティティーナいじめは加速し、ついには傷害事件を起し現行犯逮捕。
バーバラは修道院に入れられてしまう。
義姉という障害が消えたティティーナは義姉に申し訳ないと嘆きながらもエドルドの手をとり
両親や周りからも祝福され結婚。
月1で義姉に手紙を送る。いつか分かり合える日が来ると信じて・・・
その隣には愛するエドルドがいるのだ。
いやきっついきっつい。
小説でも「えーー」と突っ込んだところが何個もあったがまあさっくり見られるお話だしこんなもんかと思っていた。
そんな世界に転生し、バーバラの視点で見る光景は輪をかけてきつい。
お前ら貴族の子供だろうが、政略結婚って知ってるよな?百歩譲って親に言え。まさか私がOKしたら家族がOKするって?
・・・するわけがない、
というかこんな学園の庭園でする話でもない、「申し訳ない」とかいいながら私を呼びつけるのもどうなんだ。
不安そうな顔をしてるくせに、たまにチラチラとお互いの顔を見てアイコンタクトして微笑んでいる・・・頭が痛くなる。
恋は人をここまで駄目にするのか、いやこれも小説の強制力なのかもしれない。
そもそも今の私は小説とは全く異なるバーバラなのだ。
彼らの今後は小説ほど明るくはならないだろう。
明日はラストまで投稿予定です、
明後日にはヒロイン視点の結構長めなお話を上げます。