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世界の崩壊をボクの眼鏡が救うだと?(旧題:壊れかけの異世界とクソ眼鏡)  作者: バイオヌートリア
第二章 テンプル騎士団
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第9話 取り調べと言う名の情報収集

「何?ラガーンが着ていた夕闇色のケプラーを魔法で砕いただと……?」

「ケプラーという名前なのは知りませんでした。彼らが着ていたオレンジの服なら神器の攻撃でパリーンと消えてしまいましたね。そのあと、ゴブリンへの魔法攻撃と斧で仕留めて逮捕しました」


 防弾チョッキとかに使われる防刃防弾素材のことかな?

 いや、アラミド繊維はケブラー、濁音だ。しかし、この世界ではケプラー、半濁音なのだ。

 おそらく元の世界のものと特性などが異なるのだろう。


 その他、神器の使い方の詳細は言わずに、昨夜のの顛末だけを簡単に話した。

 飲み物が出ているから、犯人レベルで扱われていないことは明白なので落ち着いて話した……と思う。


「パリーンと……?おかしいな。あれは植物からとれる繊維で、斧や剣の斬撃を防ぐのに使われる。斬撃では致命傷を与えられない程度に防御力は高い。

しかし、ケプラーの木の繊維は非常に強固に絡まりやすく、剣などの衝撃をからめとるのだが、弱点がいくつか存在する。

矢などの直線的な攻撃は完全には防げないこと、レリックによる魔法は防げないこと、最後に水に塗れると性能が落ちる。以上だ」

「割と弱点が多そうですが、何故ラガーンはそれを使うのです?」


 武装にしては弱点がはっきりしすぎているので、質問を投げてみる。


「ここまでの道は両側に森が広がっていただろう?」

確かに石畳の街道の道幅は馬車が通る部分と側道を含めて一五メートルくらいの広めに取って有ったな……


「奴らはキャラバンなどを街道で襲う事が多い。敵を視認してから構えていたら、レリックや弓を狙いを付ける前に詰め寄られる。そして、盗賊の人員はオークやゴブリンと言った打撃に強い種族が多い。ゆえに必然的に剣で迎撃することになる」


「ケプラーを着ることで斬撃が効かなくなるなら、突きがメインという事でしょうか」

「それもあるが突きで倒せても剣を抜いている間に敵の仲間に迫られてしまう。だから、水をかける事が最優先だ。濡れることでケプラーが重くなって動きを遅くできる。また、極端に防刃性能が落ちるので斬撃でも仕留めることができる。そのため基本的に都市間の通路に沿って水道橋が設置されているのだ」

サキセルの町に来るまでの間、頭の上にあった謎の建築物は水道橋だったのか。あれは襲撃対策だったのだな。

「水道橋は各行政区にある”命の大樹”という木々から大量に噴出しているきれいな水を、それぞれの集落に送っている重要な設備である。また、ラガーンに襲われた際には柱にある装置を使うことで一定時間水を吹き出し、反撃を行うための重要な防衛設備でもあるのだ」


 だからあの水路は手の届かない天空に設置してあるのだろうか。


「普段道路を通るキャラバンには、護衛ギルドから剣士などが随伴することが多い。石炭など大量の資材を運ぶときは我々騎士団が護衛に向かうが、小規模キャラバンでいちいち騎士団を動かすと人手が足りないからだ」


また眉間にシワを寄せたセシュ……。

「まぁ、小規模キャラバンを襲う主な狙いは積み荷の食料と武器や貴金属だから、荷馬車を置いて馬で逃げれば人間は町まで逃げられる。キャラバンを襲うときは石炭以外の物資、石炭は選別後のぼた山で。それが基本パターンだ」

だいたい事件のあらましは出そろったかな。


「ところでだ。この異世界ガイドについてもう少し知りたいのだが」

 その時、鐘の音が鳴り響いた。半鐘のようなけたたましい音ではなく教会の鐘の音のようだった。


「おっと日が暮れたか。我々も業務終了の時間だ」

 椅子から立ち上がりつつ、セシュはまた俺に腰縄を付けた。

「他の者なら来客用の宿舎に泊まりになるが……すまない。グラスキー殿は見張りが必要とのことで拘束させていただく」

「犯罪者でもないのに留置ですか」

「いや、隊舎に来て貰うことになった。何というか、貴様の扱いは難しいのでな」


 部屋に向かいながら、些細な疑問をぶつけてみた。

「ラガーンはなぜ石炭を?」

「武器の鍛造と資金調達だろう。かつて攻略した砦に取引の書類が残されていた」

「砦はあるんですね」

「あぁ、砦と言っても小さな遺跡や木造の集落だがね。ラガーンは拠点は小ささゆえに、なかなか見つけにくいのが腹立たしいのだ」

「拐われた人達はどこかの砦か遺跡にいると」

「恐らくはな……」


 すれ違う隊員たちに挨拶しながら、セシュとともに隊舎へのセキュリティゲートに入った。

 念のため手荷物検査をした後に、通行許可が下りる。


「人をさらう理由とかは判明しているんですか?」

「基本は労働力として奴隷にするためだ、それ以外にマジックバッグの中身もだろう。貴様も持っていると思うが、マジックバッグの物資は対応する『カード』を所持している人間しかアイテムは取り出せないのだ。カードさえあれば他人でも中身を取り出すことができるのがみそだな。ただ、『カード』内の金は本人の意志がないと取り出すことができない」

「本人の同意……。その同意を無理やりとるために……」

「あぁ、拷問だろうな。復活の日に目が覚めてから一ヶ月かけて拷問する。死んでしまっても首と『カード』だけ持っておけば拠点移動時の移送もしやすい」

「じゃあ、昨日捕まった人たちを早く助けに行かないと……!」


 声を荒げた僕の首筋に剣の切っ先が添えられていた。

 早すぎていつ抜いたのかもわからない。


「そちらは現在捜索中だ。彼奴等の拠点が分かり次第、奪還作戦が行われる。それよりも貴様は自分の立場を思い出していただきたい。第一に貴様の役割は神器の研究への協力だ。捜査権はない。焦る気持ちは分かるが、救出の邪魔になるなら1か月ほど眠ってもらう」


 剣を収めたアイビーさんは目を伏せながら 続けた。

「我々とて心泣き軍隊ではない。救出は責任をもって行う」

 その優しげな声に混じるわずかな哀しみに、僕はこのとき気付いていなかった。


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