ストーカー
これはある夏の夜のお話——
トコトコ
ドスンドスン
トコトコ
ドスンドスン
a「なぁー」
b「なに?」
a「なんか、俺らつけられてない?」
b「気のせいじゃない?」
a「そっか、きのせいか——」
トコトコ
ドスンドスン
トコトコ
ドスンドスン
a「いや、明らかにつけられてない?」
b「あー、やっぱり?気のせいかと思ったんだけどな」
a「いや、無理あるでしょ。何回おれら十字路曲がったと思ってんの。てか、足音おかしくない?ドスンって何?初めて聞いたよ。お兄さん。」
b「いや、今どき厚底っていう靴あるからきっとそれだよ。」
a「どんだけ厚いの?もうそれは厚底ではないよ。」
b「気にすんなって、気にしたら負けだ。きっと空耳だ。心を落ち着かせて、周りのセミの音を聞きながら歩いたらいいよ。」
a「わかった——」
ミーン
トコトコトコ
ドスンドスンドスン
ミーン
トコトコトコ
ドスンドスンドスン
ミーン
トコ
ドスンドスンドスン
ミーン
ドスンドスンドスン
ミー
ドスンドスンドスン
ドスンドスンドスン
ドスンドスンドスン
a「あのー、セミの音が消えたんですけど……ドスンドスンドスンに耳すましちゃってるんですけど。」
b「それは新種のセミの音だ。」
a「違うよね。足音だよね!てか、どんな新種なの。絶対迷惑だよ。すぐ駆除されるよそんなセミ。しかも、うちらの足音まで消されてるんだけど、どんだけ厚いの。夏だけに。」
b「それはちょっと面白くない。」
a「あ、すみません。」
トコトコ
ドスンドスン
a「ねー、どうするよこれ。家着く前にはどうにかした方がいいって。」
b「たしかにね。じゃー遠回りしてみる?それでついてきたらストーカーってことになる。これでついてこなかったらお前の自意識過剰ナルシストバカっていうことになる。」
a「いいよ。逆にこれでついてきたらお前のニックネームは厚底になる。」
b「いいよ。」
a「次の十字路右ね。」
b「オッケー」
トコトコ
ドスン——
b「はい、勝ちー。これでお前は自意識過剰ナルシストバカってことだ。かわいそー。これからはおれのことをうやま——」
ドスンドスン——
a「……」
b「……」
——早歩き——
a「おいおい、どうすんの。ホラーゲームみたいについてきてるけど、厚底。」
b「どうするよ。自意識過剰ナルシストバカ。」
a「あ!お前それはルール違反だぞ。俺のほうが当たったんだからそのニックネームはなしだ。」
b「そんなルールありませんし、そんなルール説明された覚えもありません。」
a「うわー、しんじらんない。よくこんな男にあんな可愛い彼女ができるわ。」
b「それは、おれは優しいし周りに気配りができるいい子だからできるんです。どっかのナルシストとは違います。」
a「あ、そんなこと言っていいだ。彼女に内緒で女の子と遊んだこと言おうっと。」
b「それは言わない約束だろ?!お酒一升買うことで言わないって言ったやん。」
a「知りません。約束したら言わないなんてルールありません。」
b「いや、それはあるでしょ。常識中の常識でしょ。」
a「もういい。言う、絶対言う」
b「ごめん!言わないで。一升だけに一生言わないで!」
a「俺がさっき言ったやつより面白くないよ。それ」
トコトコ
ドスンドスン
a「そんなことよりどうするよ、ほんと。このままじゃ家バレされて、手紙とか嫌がらせとかされて。最後には刺されて死ぬよ。」
b「いや、お前は死なないだろうけど、おれは確実に死ぬな。イケメンだから死ぬな。」
a「……。ほんとまじ一回刺された方がいよ。」
b「警察に電話しかないか……。その前にどんな顔か知りたくない?」
a「たしかに。」
b「じゃーお前が見て、そのあとお前が警察に電話する。」
a「俺しか仕事してないんですけど……。てか無理だよ。見るなんて。そんなことしたら……絶対ちびる。」
b「大丈夫だ。安心しろ。替えのパンツは持ってる。」
a「こんなに嬉しくない事前準備はないわ。」
b「そんなに準備してるならお前がやれよ。」
ドン(タックル)
a「あ、先に暴力しちゃいけないんだ。」
ドン(タックル)
b「あー、そんなことしちゃうんだ。」
スルー
ドン
a「ひきょうだ。靴紐を解くなんて。てか、どうやって解いたのか知りたいわ。」
b「まぁーせいぜい頑張りな足止めや——」
ドン
b(なに?!とっさに足を出して転ばせただと。)
a「今お前足止め役って言いかけただろう。友達売るなんて最低だ。お前も巻き添えだ。」
b「バカか?誰が警察に電話するの?」
a「バカって言う奴がバカなんだ。ばーか。」
b「なんだと!?」
ドスンドスン
ドスンドスン
ab((やばい。近づいてくる!))
ドスンドスン
ドスンドスン
ab「「スッストー」」
c「あのー、これ忘れ物です。」
ab「「……。あ、ありがとうございます。」」
ドスンドスン——
a「ただの親切なやさしい相撲の人だったね。」
b「うん。」
a「今日のことは、無かったことにしよう。」
b「だね。」




