聞こえてきた話に「すごいな、ルイルイ」と思っていたら、私の婚約者だったと言う所から始まる私の長い一日。
「うちのルイルイは、他にも女がいるみたいなの!」
私、リュデリラはお忍びでカフェでのんびり過ごしていた。
お忍びとはいえ、仮にも侯爵令嬢なので、護衛として侍女は一緒に来ている。昔から親しくしている侍女なので、姉妹同然の仲である。
カフェという場所は、女性陣がよく集まる場所である。そして噂話をよくしている場所でもある。
私はお忍びで街に出かけて噂話などを聞くのも結構好きだったりする。侍女には悪趣味では? と言われたけれど、こういう話を聞くのも楽しい。別に悪用しているわけでもなく、世の中色んな人がいるのだなと思いながら、一人楽しんでいるだけである。
そうしている中で、今日朝一からモーニングを楽しんでいたわけだが、面白そうな噂話が聞こえてきたわけだ。
「えー、サラの恋人のルイルイ、女いるの?」
「うん、絶対にいると思う。というか、私の元へ来るのも決まっているっていうか、女の気配があるの……」
「えー?」
「私のことを好きだっていうけれど、なんていうか、この前私の心当たりのないキスマーク見つけたし……。絶対に女がいるはず……。しかも一人じゃなさそう」
そんな会話をその女性たちは交わしていた。
一人だけではなく、複数の女性と関係を持っているらしいルイルイ。うん、そのうち女性に刺されるんじゃないか。
「えー。それヤバい。どうするの?」
「……浮気者! って振るか、問い詰めるか……。そのあたりを少し悩んでいるの!」
「悩む必要ないんじゃない? そのままふっちゃえば?」
「……でも、私、ルイルイのこと、好きだもん」
「そうなると、やっぱり問い詰めて、サラだけを愛しているって言わせないと!」
「でもルイルイには、女の影が沢山あるの……。そんなルイルイが私のことを選んでくれるかな」
……そのルイルイは色んな女性と関係を持っているらしい。しかし色んな女性と関係を持っておきながら、この女性にこれだけ惚れられているらしい。
正直聞いた感想としてみれば、「すごいな、ルイルイ」というそういう感想である。
「あ、ルイルイだ」
そんな女性の言葉に思わず、横目でその男性を見て……私は固まった。
侍女も顔をこわばらせて、雑誌で、自分の顔を隠す。
「やぁ、サラ」
「ルイルイ!」
「どうしたんだい? そんな顔をして」
「ルイルイには、他にも――」
さて、すぐ近くで修羅場が起こっているのを見ながら、私は侍女とこそこそと会話を交わす。
「……髪と目の色変えているけれど、ルイゼット様よね」
「はい。お嬢様の婚約者であられるルイゼット様だと思われます」
「……他に女はいないとか言っているけど」
「お嬢様という婚約者がおり、加えて付き合っている方がいる様子」
そう、その男は鬘なのか、魔法具なのか分からないが髪と瞳の色は変えているが……それでも私の婚約者であるルイゼット様に他ならなかった。
*
さて、婚約者であるルイゼット様が浮気をしていることを知った私は、証拠を集めることにした。
侍女を引き連れてまずやった事といえば、カフェでルイゼットに言いくるめられ、「……ルイゼットを信じる」となってしまっている女性に話を聞くことから始まった。
ルイゼットの婚約者だということと、情報収集をしていることを告げれば、その女性はルイゼットが貴族だと知らなかったからか青ざめていた。
その女性から情報を集めた後、ルイゼットの他の恋人の情報も集めていく。
私の婚約者であるルイゼットは大変評判が良かった。恋人が沢山いるということを知った今では信じられないことだが、貴族としてあるルイゼットは大変紳士として有名である。
……まさか、そのルイゼットにこういった女にだらしない面があるとは私も思ってもみなかった。だからルイゼットが何か用事があると言ってもその通りだと信じていた。しかし今思えば、それも女と会うためだったのかもしれない。
貴族子息としての勉学もこなしながら、表面上は紳士として活動し、複数人の女性と付き合っている。……どういう時間配分能力をしているのだろうか?
ルイゼットの恋人たちと接触し、色んな証拠を集めている中で私は再度「すごいな、ルイルイ」と思った。
少なくとも私はそんな器用な真似は出来ない。ちなみに何でルイルイ呼びしてしまっているかというと、ただの現実逃避である。だって、ルイゼット様のことを立派な婚約者で、ルイゼット様と結婚したらもっと妻として努めなければと思っていたのに……裏切られたのだから私もショックなのだ。
カフェで話を聞いた後、数時間かけて情報を集めていく。またルイゼットに何か言いたいことがある女性陣はついでに、領地の屋敷へと連れて帰ることにする。……ちなみにこうやって私が情報収集をしている間にも、ルイゼット様は女性の被害者を増やしていたりしていた。
というか、婚約者がいて、恋人が複数人いるにも関わらず、新しく女をナンパして引っかけるとはどういうことなのだろうか。
それほどに好色な相手とは流石に結婚は出来ない。というか、私は無理……。
というわけで、私は屋敷に帰宅してすぐにお兄様とお父様に浮気の証拠と共に、浮気相手を突き付けていた。
お兄様もお父様も驚いていた。
まぁ、それはそうよね。今日は私、一日フリーの日で、ゆっくりと侍女と過ごす予定だったの。だというのに、そんな風にゆっくりしていたはずの私が婚約者の浮気の証拠を持ってきていたので、驚くのも当然だろう。
そして私はそのまま休む間もなく、婚約解消に向けての書類の準備をし、ついでにルイゼット様の女癖の悪さを国中に広めるための準備である。ああいう紳士面をしておきながら、女性を苦しめるような存在を放っておくつもりはない。第一、私という婚約者がいながらそれだけのことをやっていて、コケにされたわけで……うん、慈悲を掛ける必要もない。
そういうわけで噂好きの友人や私のことを大切にしてくれている親族たちに手紙をしたためておく。うん、こういうのはスピードが大事。あとルイゼット様に何か言いたい女性たちに関してはこのまま屋敷に留まってもらって、盛大にルイゼット様に色々言ってもらうことにしよう。
私は婚約解消のためのための準備を早急に済ませると、元々から予定していたことを早めることにする。これに関してはカフェにいる段階で、知らせを送っていたら了承の言葉が来ていたので、それの準備もする。
――そして夜までの間に私は、婚約解消の手続きと、ルイゼット様にもてあそばれた女性たちのケアと、出かけるための準備をした。
で、夜になり、私が何をしているかというと……船に揺られながら夕食を食べていた。
「はぁ、朝の段階ではこんな予定はなかったのだけど」
「お嬢様って本当に行動力ありますよねぇ。そういう所、私は好きです」
「ふふ、ありがとう。それにしてもすぐに準備も終わって良かったわ。足りないものは送ってもらうか向こうで買いましょう」
「はい。お嬢様」
私は元々他国への留学を予定していた。これはルイゼット様と結婚するので、その前に他国との交流を深めようとしていたわけだが……まぁ、あれだけ女癖が悪いルイゼット様と結婚するつもりはないので、今は別の目的を持っているわけだけど。
それで予定していた留学を私は前倒しにした。
だって、ねぇ……、このまま国に居たら幾らルイゼット様が浮気したのが悪くても、婚約解消したってことで悪目立ちしそうだし。私はそういうの嫌だったもの。
大体浮気者のせいで、嫌な目に遭うなんて嫌でしょう?
そういうわけで私はさっさと、留学の準備を早めたわけだ。
他国に向かう伝手は、昔からの知り合いに頼った。今日向かうと言った言葉に頷いてくれたのだ。というわけで、もうさっさと私は船の上なの。
流石に、午前中に婚約者の浮気を知って、それから情報収集をして証拠を集めて、婚約解消の手続きをして、他国に向かう準備をして――とやってようやく一息ついたので、夕食を食べてすっかり私は眠くなっていた。
「――お嬢様、本日はお疲れ様です。お眠りになりますか?」
「ええ」
そして船の上の、個室の中でゆっくりと眠りに付くのだった。
私の長い一日が終わった。
……ちなみに留学先に着いた後に、ルイゼット様が落ちぶれている様子を友人や親戚経由で聞いて思わず落ちぶれた様子に高笑いをしてしまうのだった。