表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪者  作者: 「きびだんご」
1/3

一話 転生

 暗い・・・。だけど、温かい・・・。




 一切の光がない暗闇の中で浮遊感を感じていた。


 それに不安を感じることはなく、むしろ安心感に包まれていた。


 冬場の寒い時期に入る布団の中のように、いつまでもその場に居たいと思える温もりと時折来る振動が余計に眠気を誘う。


 ここは夢と現実の狭間なのだろうか。


 ボヤけた頭で考えるが、やはりまとまらない。


 まあ、何でもいいや。


 とにかくもう・・・少し、少しだけ・・・この心地よい場所で眠っていたい。


 そう考えて思考を放棄し、温かい空間で時折来る振動に身を任せて眠りについた。






 その数秒後。




 突如として激しい衝撃が襲ってきた。


 少しの間不安に駆られたが暖かい場所にいるせいかすぐに落ち着きを取り戻す。




 なにが・・・おき・・・てる。


 突然の出来事についていけない頭で現状を把握しようとした。


 その瞬間、暗闇に光が刺し、目を焼く光と今までの温もりを消し飛ばす冷気が入り込んできた。


 俺は目を強く瞑っていたが直になれた目を開けるとそこには、人の顔があった。




「あっ」




 情けなく出た声はそれ以上続けることは出来ずに空気に吸われ、思考が止まり叫ぶことも出来ずに突如として現れた顔を呆然と見つめる。


 肌は張り、綺麗な白髪に丸い眼鏡をかけ、釣り上がれば怖そうな目尻も下に向いているせいか気怠そうに感じられる。ただそんな事がどうでもいいと思える程に俺は一つの場所へ吸い込まれるように瞳を固定する。場違いにも見蕩れる場所があった。


 その女性の目が普通ではありえない程、サファイアのように美しく緑色に輝いていたのだ。




 光り輝く目に見蕩れていると、その女性は両手で俺をすくい上げた。


 冷えてきていた体にとっては新しい温もりを感じる手だった。抵抗など考えもせず抱きかかえられ、そのまま俺はその場所から連れさらわれた。


 新しい温もりと振動に揺られ襲いかかってきた眠気に俺は抵抗出来ずに眠りについた。






 ーーーこれから地獄が始まるとも知らずに。






 目が覚めると黒い天井だった。緑色のカビや藻が張り付き、黒光りする虫が天井を走り抜ける。


 電気などなく淡い緑に輝く苔が唯一の光源となる部屋は所狭しと置かれた物という物で敷き詰められており、俺はその物の上に放置されていた。


 硬いものが背中を押す中、辛うじて布をかけられていたが衛生環境を考えるにこの布も恐ろしく感じる。


 少し寝たからか覚めた頭で考える。




 どこだ此処は・・・?




 俺は少し前まで・・・・・・何をしていた。




 確かな記憶がない事に焦りを感じつつ懸命に思い出そうとする。




 思考の波に飲まれて、僅かな記憶が湧き上がってくる。


 キッチンの前で食器を洗う女性、顔は思い出せないが確か母親だった気がする。そして学校というのがあり、そこに俺は通っていた・・・のか?


 いや、通っていた筈だ。そうだ、間違いない。そして友人もちゃんと居て、名前はーーー。




「■■■■■」




 突然の音に思考の奥深くから意識を覚醒する。




 横になった状態で目だけを周りに移すと薄暗い部屋で女性が立ち、見蕩れるほどの綺麗な緑色の目でこちらを見ている。


 キレイだ・・・あっ、あの時の目だ。




「あ、あのこ・・・こは?」




 喋りづらい喉で懸命に言葉を繋ぐ。


 反応がなく、一瞬たりとも動きがない。俺は本当に声を出したのか不安になるほど動きがないままこちらを見続けている。どこか不気味な空気に嫌な汗が出てくる。




 妙な時間が経ちもう一度話そうかと考えた後に女性が喋り始めた。




「目が覚めたか。転生者」




 え・・・。転生者?




「この本の187ページから私が使う言語が乗っている。覚えるように」




 そう言ってバカみたいに分厚い本が女性の後ろから飛んできて、俺の頭のすぐ横にドスンと本が出してはいけない音を出し置かれる。




「あ、あのーーー」




「一週間後にまた来る」




 そう言って扉を閉め、出ていった。


 カチャリと金属の音を立てて。




 残された俺は何も反応出来ず、置かれた真っ黒なハードカバーをした分厚い本を見つめた。








 しばらく経って状況を整理した。


 俺は転生者。なんで女性が分かったのか知らないがとりあえず保留。




 とにかく、転生した。


 そして赤ちゃんの状態で母親はあの目が綺麗な人・・・?産んですぐなのに動けるのか。いやまあとりあえず保留。




 転生してとりあえずこの部屋について本を渡された。


 そこには私の言語・・・さっきの女性の言語が乗ってて覚えて欲しいと言われた。


 一週間後にまた来る。ってことは一週間で言葉を覚えろと・・・無理じゃね?




 というか喉も乾いたし、お腹も空いたからとりあえずご飯食べたい。


 そう考えて俺は立ち上がろうとした、その振動で絶妙なバランスで積み上げられていた物が雪崩を起こした。




「うわあーーーーーーー!!!」




 叫び声を上げて物の濁流に飲み込まれた。




「し、死ぬかと思った」




 体を痛めつつ、先程女性が出ていった扉まで四足歩行で進み扉に体重を預けて何とか立ち上がりドアノブに手をかける。




 ガン。




「えっ・・・」




 そんな馬鹿な。俺はもう一度力を入れて回そうとする。




 ガン、ガン、ガン。




 鈍い音が続くだけでビクともしなかった。




 う、嘘だろ。冗談だろ!?




 ガンガンガンガンガン。




 怒りに身を任せて回し続けるが意味はなく鍵をかけられた事実だけが残った。




 間違えて鍵をかけちゃった、を想像して一応声を張る。




「あ、あの!すみませーーん!!」




 大声を上げるが返答はもちろんなく、本当にやばいという焦りがやってきた。




 その後も衛生環境最悪の部屋を回ってみたが、あるのはボットン式トイレだけだった。


 部屋には窓もなく、唯一の出口には鍵が閉められ密室状態。


 食料と水、共になし。




 この状態で言語一つを一週間。






 ・・・ふ、ふざけんなよ!!


 俺は本を部屋の隅に封印した。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーー






 一週間後






 意識は途切れつつ、音は聞こえず目は霞んだ世界を移していた。黒い天井からを降ってくる経路不明の水を集めて飲み、ひたすら耐えるだけの日々。


 目の前を走り抜ける黒い虫を食べるかどうかを本気で悩んだが結局食べずに水で耐えた。




 時間も分からないなか一週間をひたすら耐えていた。




 カチャリ。




 耳が聞こえなくなっていたが不思議とその音は聞こえた。




 首を扉の方に向けると、女性が入ってきた。




「あ、忘れてた」




 その一言を聞いて俺は意識を手放した。






 だが、すぐに目が覚めた。


 水をぶっかけられたからだ。




 咳き込みながらも目を覚ますと目の前、鼻の先すぐに女性の顔があった。


 上から覆い被さるようにして口をもごもごと動かしている。


 意識が朦朧とする中でも目の前に綺麗な顔があると心臓が高鳴る。




 少しの間があり女性は更に顔を近づけ、俺とキスをした。




 それはとても酸っぱく、そして脳の処理を超えて破壊する程の冒涜的な苦さ、そして経験したことがなくすぐに吐き出さねばと思えるえぐ味、そして口の中に痺れが走り抜ける。これらがシナジーを出し、一瞬で俺の許容範囲を超えた。




「ん、〜〜〜〜ん!?!?」






 胃液が逆流して吐き出そうとするがそれ以上に女性から謎の物体が流し込まれてくる。


 傍から見れば熱烈なキスも俺を逃がさないためにがっちりと顔を固定していると思えば恐怖でしかない。




 俺は遂に脳のメーターが振り切れ意識が遠のくが、味が刺激的過ぎてすぐに戻ってくる。




 結局全てを飲み切った後には辛うじて意識を保ちながらもまともに受けてしまったダメージは計り知れず、顔から涙とヨダレが垂れていた。




 最後に流し終えた女性の口に黒い脚が見えたのは幻覚だったのだろう。




 刺激的なファーストキスを終えて結局四ヶ月で言語をマスターした。


 マスターと言っても読み書きが完璧なだけで喋るのはまだ完璧とは言えない。


 人間何にでも本気になれば凄いものだ。


 何故ここまで頑張れたのか。それは、毎日あのご飯と言っては失礼なレベルの物を流し込まれ続ければ何とかして止めようとするものだ。


 教えて貰えればもっと早く喋ることだって出来たかもしれないし、結局ご飯はあのまま継続されている。


 何なんだ、あの女。




 どうやらここはファンタジーな世界で魔法が普通にある。


 そして、魔法で言語の壁を突破する事も出来るがそれは相手も同じ魔法を使えたらの話だ。俺は魔法がまだ使えない。つまりは一方通行な為、意思疎通を図るなら普通に言語を覚えることになる。




 何としてでも食事を変えたかった。変えたかったがそれは無理だった。


 どうやらアレがここの離乳食らしい。


 ・・・本当か?




 怪しんでみたがあの人の目を見ると疑う気が失せてしまう。


 結局、日に三回俺は涙を流すこととなった。




 個人的な話はここまでにして、話せるようになって色々と聞いてみることにした。




 涙を流した後に、適当な物の上に座り話しかけた。




「えーとお母さんの名前は何ですか」




「・・・私は母親ではない」




「えっでも私が初めて見たのはあなたのお顔でしたよ」




「あれはあなたを腹から取っただけ」




「え・・・」




 この取ったは帝王切開的なことなのかな。この世界ではなんと言うんだろう。




「それは、ありがとうございます。それでは私の母親はどこにいるのですか?ああーもしくて預けられている形なんでしょうか」




「いないわ。さっき言ったでしょ。腹から取ったって」




「!!!」




「あの日、街からここまで帰ってる途中にあなたを見つけたの。欲しかったから取ったの」




 何を・・・言っているんだ。




「私の目、良いでしょう?腹の中でもあなたを見つけれたのよ」




 自信満々にいう姿は可愛らしいものだが、やっている事はただの殺人だ。




「顔も知らない母親だがそれでも母親だ!殺人なんておかしい!」




 先程までの自信満々な姿は消え水を刺されたかのようにつまらなそうに言う。




「人一人くらい別にいいでしょ。いっぱいいるんだし」




「・・・は?」




「そんな事よりあなたは異世界から来た存在よそこらの人より価値があるわ」




 俺はただ目の前の女性が得体の知れないものに見えて恐怖心を抱いた。




「そう言えばあなたの名前はなんて言うの?」




 話はもう終わりとばかりに流された。こんな簡単に流してしまっていい事なのだろうか。受け入れ難い気持ちもあったが、この世界では罪で無いとしたら異常なのは俺の方だ。




「・・・・・・」




 郷に入っては郷に従え。だけどこれはそう簡単な問題じゃないだろ。俺は母親を殺されたんだぞ!?




「ねぇ」




 目の前に女性の顔があった。端正で綺麗な白髪にサファイアのような瞳。




「つまんないこと考えていると教育するわよ」




「あ、え」




 先程まで積もっていた怒りが瞳に吸い込まれて一瞬で霧散した。




「もう一度言うわね。あなたの名前はなんて言うの?」




 な、名前ってなんだっけ。俺の名前、前世の名前はーーー。必死で記憶を掘り起こそうとするがそれらしいものは出てこない。




「すみません。過去の事があまり思い出せないんです」




「名前も、おぼえていないの?」




 初めて驚いた顔を見たかもしれない。その顔を見て何か焦りを感じたのでもう一度思い出そうとしてみる。


 ーーー確か学校には通っていて家族がいて友達もいる。サッカー部に所属していてそんなに強くはなかったけどみんな仲が良かった。


 俺の事をみんなはなんて呼んでたっけ。


 は・・・り ゆう




 はっとり ゆう




 あーそうだ。あまり男って感じの名前じゃなかったんだ。




「確かハットリ ユウだったと思います」




「そう、ユウ・・・ね」




 名前繰り返す一瞬の間に笑った顔を見たが、それが何故か嫌な予感、警鐘が鳴り響いた。心臓を握られたような感覚がする。




「あ、あの違うかも」




 慌てて言い直そうとする、が。




「いえ、違わないわ」




 何故かハッキリと反対されてしまう。




「そうね。こっちの世界では・・・そうね。ミハエルと名乗りなさい」




「何でですか。突然に言われても困ります」




 突然名前を決められても、殺された親が考えていた名前があるかもしれないのに。




「いいじゃない。いい名前でしょ」




「いい名前と言われましても自分には既に名前がありますし、それに」




「めんどくさいわね。私はあなたの親みたいなものなんだからいいでしょ」




 ・・・お前が殺したんだろ。


 いらついた感情が表情、もしくは態度に出たのか緊張感がまた高まってしまった。


 そして、この時のことを後々後悔することになる。




「ねぇ。私は言ったわよ」




 目の前の女性の空気がどんどん変わっていくのが分かる。




「つまんないこと考えていると教育するって」




 やばい、意識が持っていかれる。


 何かが起きたわけでもなくただ女性は物の上に座って居るだけだが、俺の生存本能が最大限に警鐘を鳴らしている。




 拙いながらも立ち上がって逃げようと足に力を入れた瞬間にはもう女性が目の前から消え、次の瞬間には抱っこされていた。




「そう言えばまだ部屋から出したことなかったわね。案内するわ」




 体が温かい物に包まれ、声色もいつも通りだが俺は怖くて泣き崩れそうだった。


 逃げ出そうにもがっちりと捕まれ逃げることは許されず、そのまま部屋の外へと連れていかれた。


 後ろでは女性が動いたせいか、積まれたものが崩れる音が聞こえた。




 部屋の外は変わらず黒い木が続く廊下で、床や壁にはカーペットや絵等華やかなものは一切なく、カビや藻、虫が張り付いていた。




 マジで汚いな。




 少し歩いたが窓は一切なく、不気味に光る緑色の苔が唯一の光源だ。臭いもどこかカビた印象を受ける。




 俺は異常な光景と先程の話の流れから死刑を待つ囚人のように顔が真っ青だった。




「あ、あの何処へ行くのですか」




 恐怖のあまり何処へ行くのかを聞いた。何をは怖くて聞けなかった。




「私は助手が欲しかったの。あなたには将来助手になって私を手伝うの。今回はその早めの職場体験ね」




 それから先は怖くて聞けなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ