階段から落ちて、頭を打って起きてみたら、体が入れ替わって、自分の体は妹に乗っ取られていました誰もそのことに気が付いてくれません…。婚約者である王太子殿下を手に入れるためにここまでするとは…。
「……う、頭が痛い」
「お嬢様、お嬢様が気が付かれましたわ!」
私が起き上がると、館の皆がよかったよかったと喜んでいます。
そういえば私は階段から落ちて…痛い、頭を打ったようです。あと全身が痛い。
「お嬢様よかったです!」
「えっと、確かノエル?」
「ノエルです。お嬢様!」
確か妹についている侍女のノエル? どうしてこの子が? と思っていたら、両親や皆が扉を開けて入ってきて……え、中にいる一人って私? 私はここにいるのに!
「よかったマリア! 気が付いたのね!」
「え、マリアって、それは」
「……よかったわ! マリア!」
ぎゅうっと抱き着いてきたのは私? というか私は頭を打って夢の中とか?
『お姉さま、自分がエリザベスであるなど言い出したら、頭がおかしいと思われますわよ』
小声で『私』がささやきかけます。え。お姉さまって……。
「さあ、マリア、お医者様にみてもらいましょうね」
「私はマリアではなくて、え……」
「マリア、さあお医者様にみてもらいましょう!」
『私』が強い口調で言い、両親を下がらせます。にやりと笑う『私』
私はまだ夢を見ているのかどうしたのかと混乱していました。
お医者様がやってきて、『私』がそれを見ています。ちらちらと私が見るとふんっといやそうにこちらを見て、その表情マリアそのものです。
「痛い!」
ほほをつねると現実です。とても痛い、私が『私』にあなたはマリアなの? というと、かわいそうに頭を打って混乱しているのねと『私』が猫なで声で言います。
そのようですとお医者様に言われ、薬を処方されました。
「……あなた、何をしたの!」
「お姉さま、あなたは今はマリア、私がエリザベスです。だから他の人に自分がエリザベスなどとたわごとを言っても無駄ですわ」
二人きりにしてくれといって、医者を追い出し、私は私、いえ私の体を乗っ取ったマリアを問い詰めます。鏡で見た姿は私はマリアで、マリアが私の姿をしています。
喧嘩をして階段から落ちたところまでは覚えていました。
私の婚約者の殿下を譲れ、譲らないというものでしたが。
「ふふ、取り換えの魔法なんて本当に効力があるなんて! あははは」
「体をもとに戻しなさい!」
「もう無理ですわ。取り換え魔法は一度だけ、あ、それから私はお姉さまを完璧に演じられる自信がありますし、自分がエリザベスで体を入れ替えられたなんて誰にも言わないほうがいいですわ。頭を打って少し神経がやられているのではとお父様とお母様にいってます。わけのわからないことをいっても気にしないようにと」
「……昔からあなたはそういう……」
「悪知恵が回るって、あははは、うふふ、お姉さま、庶民の血が入った妹の体にいる気分はいかが? うふふ、これで公爵の正当な血を引く娘は私一人、殿下も私のもの!」
「……絶対に元に戻って見せます」
使用人の娘であったマリアが引き取られて三年、仲よくしようとしましたが、元々こういう悪知恵が働く妹とはうまくいかず……。
王太子殿下の婚約者に選ばれてからますます険悪になり、階段から落ちる前に喧嘩をして……。
それも計算ずくだったのかもしれません。
私は両親や周りにそっと自分がエリザベスであると伝えましたが、妹は嘘やいい加減なことを以前からいう子なので、また戯言かと取り合ってもらえません。
それに、「私」を完璧にマリアは演じていました。
……悔しいです。誰も信じてもらえないということは。
友人であるリアナに会いたいと思っても会わせてもらえません。
そうこうするうちに殿下と「私」の婚約式となり、私も無理をいって出席することにしました。
……殿下は全く気が付かず「私」に口づけして婚約を宣言しました。
私って薄っぺらい人だったのでしょうか、誰にもわかってもらえないなんて。
「……ねえ、ごめんなさい、変なことを聞くけど、あなたのお姉さま、最近少し変じゃない? マリアさん」
私が泣いていると、ごめんなさいと声をかけてきたのは友人のリアナでした。
リアナは妹の本性を知っているはずなのにどうして?
「……というか、貴方がどうもいつもと違うようで……」
「リアナ! 私、私がエリザベスなのです。変な呪いで体をあの子が入れ替えて!」
うわーんと私はリアナに抱き着いて泣いてしまいました。目を丸くして驚くリアナ、私はリアナと私しか知らないある秘密をいくつか並べると信じるしかないようねとリアナは頷きます。
「……何かいつもとあなたが違っていて、声をかけないとと思ったら、そうなの」
「何かの魔法らしいのですけど」
「魔法なら解呪の方法はあるはずですし、調べます。しかしあなたの妹、とんでもない人ですわね」
「……リアナに会えてよかった」
リアナは友人がほぼいない私にとっては幼馴染であり昔からの親友です。
魔法のエキスパートでもあるので、なんとかしてくれるかもとなんとか会いたいと思っていました。
「……調べておきます。あと、あまり『あなた』になったマリアさんとは会わないほうがいいかもしれません。解呪の方法を調べているとわかったら実力行使にでるかもしれません」
「そうね、そうするわ」
マリアの性格は私が昔からリアナと付き合いがあるのでよく知っています。
リアナの報告を私は待つことにして、おとなしくすごすことにしました。観念したように見えたらしく、監視もゆるくなってきました。
両親にも使用人にも婚約者にも中身が違うと気が付かれないって、私にも何か問題があったのかもしれません。
もともと人付き合いが苦手で引っ込み思案だったもので。
『エリザベスへ、解呪方法がわかりました。あなた、つまり今のあなたの体のマリアさんと、あなたの今の体の持ち主の人の髪の毛を送ってください。髪を媒体として解呪ができそうです』
リアナから手紙が届いたので、私は髪を少し切り、そして今の私の体から髪をわからないようにとり、それをリアナに送ったのです。
「……元、元に戻ってます!」
朝起きると、私が私に戻っていて、私は起き上がってつい踊ってしまいました。
バンと扉を開けて入ってきたマリアが怒りの形相で私につかみかかります。
「何をしたのお姉様!」
「元に戻ったということですわ。あ。一度解けた魔法は元には戻せませんわよ」
「ひどいわ!」
掴みかかってくるマリアを見て、私はマリアをなんとかしてくださいと両親にお願いしました。
最近少し変だったからと……医者を呼んでマリアを拘束してくれましたが、しかしこうしていてもなんら疑問を抱いていない両親。
やはり少し寂しいです。
「……貴方がいままでしでかしたいろいろなことは、忘れていませんわ、魔法局に禁忌を使ったことも報告してますから沙汰を待つことですわね」
「……」
悔しそうにこちらをにらむマリア、私は強くあらねば、リアナを通じてすべてを魔法局に訴え、元に戻り次第マリアを拘束するてはずも整えていました。
マリアは魔法局にとらわれ、永年禁固の刑となり、私は少し人づきあいを増やすことにしました。
さすがに自分が自分と気が付いてもらえないのは寂しいです……。リアナ一人気が付いてくれて助かったものの……。少しその点は己にも反省がありますが、殿下にも事の次第を申し上げたら全く気が付かなかったといわれたので、婚約も考えたほうがいいかもしれませんわ。
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