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7話 御子、本領発揮する

 ミンスさんたちに、神の御子、と呼ばれて、世界を救う約束をした。

 雰囲気に飲まれて、安請け合いしてしまった感はあるけど、約束したものは仕方ない。

 でも、世界を救うってどうするんだろう。


「世界を救うって言ってましたけど、具体的にどうしたらいいんですか?」

「カナメさんには、召喚された勇者たちの対応をお願いすると思います。具体的には、これから国に帰って軍部関係者と相談しますが。」


 ミンスさんが答えてくれた。

 ちゃんと、御子様扱いから、元の対応に戻してくれてる。


 あのあと、みんなが、カナメ様、とか、御子様、とか呼んで来るもんだから、落ち着かないから!って、元に戻してもらった。

 あ、ビートさんはだけは、御子さんって、敬われてるのかどうかよくわからない呼び方だったけど。

 

 お願いしたら、みんな躊躇うことなくそっこーで元の対応に戻ってくれた。

 元々、第一王位継承者さま(ミンスさんね)を呼び捨てにしたり、叩いたり、茶化したりするような人たちだから、おおらかな国風なのか、そういう性格なのか。多分後者かな。


 エリオルくんがすんなり聞いてくれたのが意外だったけど、理由を聞いたら『カナメとよそよそしくなるのは寂しいから』って、笑顔で言われた。

 可愛すぎかよ!!


「カナメ、すまんな、ちょっと手を貸してくれるか。」


 悩殺笑顔を思い浮かべて、ちょっとニマニマしそうなところで、ロンデさんに声をかけられた。

 危ない危ない。


「いいですよ、どうしました?」

「さっきの魔物の襲撃で、馬車が完全にイカれてな。馬車の修復を頼みたいんだが。」

「あー、あれは、なかなかの衝撃でしたもんね。」

 わたしは少し前の状況を思い浮かべて苦笑いした。




 御子騒動が落ち着いて、さあ出発、と馬車を走らせ始めて、しばらくしたところで、爆音と衝撃とともに、馬車が横にふっ飛ばされた。

 倒れた馬車から這い出ると、サイを巨大化して凶悪にしたような魔物が50匹以上、馬車の周りを囲っていた。

 2メートル近いロンデさんの身長よりも、更に見上げる大きさで周りを囲まれてるから、巨大な岩に囲まれてる気分だった。

 『解析』したら、リノセロスという魔物で、皮膚は鋼のように固く、その角は鉄をも貫くとか。弱点は、視力が悪いことと、お腹の皮膚は柔らかいこと、あと毒にも弱いらしい。


「カナメ!悪いが、そこで気絶してるミンスと、あとの二人を頼めるか!」


 ロンデさんから声が飛んだ。

 みんな、馬車からは無事出られたけど、ミンスさんはリノセロスをひと目見て気絶した。

 ビートさんとエリオルくんは、非戦闘員みたいで、ミンスさんの側に固まってる。


「分かりました!」


 返事をして、ミンスさんたちに駆け寄る。

 みんな怪我はないみたい。


「カナメちゃん、吸わないように気をつけね。」


 マーレさんが、チャイナドレスのスリットから、太ももに取り付けていた、扇を取り出した。

 大ぶりの鳥の羽みたいなのでできているそれを、リノセロスにの群れに向かって勢いよく振ると、扇から風が巻き起こる。ちょっと強い風が吹いた、位の感じだったけど、風の当たる範囲にいたリノセロス3匹が膝を折って倒れ込んだ。

 毒だ。

 マーレさんの扇に仕込まれた毒香どくがが風に乗り、リノセロスを瞬殺したことが『解析』でわかった。

 舞うように、マーレさんはリノセロスを倒していく。


 ロンデさんはというと、鋼よりも硬いはずのリノセロスを素手で殴ってる。

 『解析』しても、鋼よりも強い筋肉。とか出た。


 2人とも、すごい強さで、次々倒していくけど、いかんせん、数が多い。

 リノセロスが大きいことと、ミンスさんたちがここにいるから、倒せば倒すほど身動きが取りづらくなっている。


「くそ、きりがないな!」


 ロンデさんが吐き捨てる。


「ロンデさん、マーレさん!考えがあります、こちらに来てください!」


 二人を呼ぶと、瞬時にわたしのところに来てくれる。


「お前の能力は、確か左目で視認が必要だっただろう。大丈夫か!?」


 ロンデさんの言うとおり、わたしのスキルは、原則として左目で認識したものに対して発動される。

 リノセロスの巨体で視界が遮られたこの状況では、『分解』の能力は分が悪い。

 けどそれは、リノセロス本体を『分解』する場合は。


『構築』


「グギャアアァ!!!」


 リノセロスたちの断末魔が響いた。

 地面から、天に向かって無数に伸びる巨大なくさびで、弱点である腹部を貫かれ、リノセロスたちは一匹残らず絶命した。

 わたしは、リノセロスの足元の地面から、巨大なくさびを『構築』したのだ。


 スキルの使用には、確かに左目で見て認識する必要がある。

 でもそれは必ずしもすべてが目に見えてないといけないわけじゃない。

 問題は、わたしが対象を“認識できている“と意識することが重要なのだ。


「すごいな」


 ロンデさんが呟いた。

 巨大だったリノセロスたちの体が、地面から突き出したくさびで宙に持ち上がっている。

 わたしはゆっくりとくさびを元の地面に戻していく。

 あとにはおびただしい数のリノセロスの死体だけが転がっていた。






 そんなことがあって、リノセロスに体当たりされた馬車はもちろんバラバラ。

 みんな無事だったのは、最初にリノセロスに気付いエリオルくんが、うまい具合に衝撃をいなしてくれたおかげらしい。

 

「これなんだが、元の状態に戻せそうか?」


 目の前には集められた馬車の破片。

 丁寧に拾ったのだろう、細かい部品も揃ってる。


「徒歩でも帰れないことはないが、この国の様子は明らかにおかしい。魔物の出没が多すぎるし、普段は出ないような高ランクの魔物がこれだけ頻出するとなると、モルガディス王国にも被害がでかねない。出来るだけ早く国に戻って報告したい。」

「馬車だと、あとどれくらいかかりますか?」

「乗っていた馬車と同程度の性能であれば、あと10日といったところだ。」


 馬車でも10日か。

 いくら歩くよりは早いと言っても、引いてるのは馬。

生き物な分、休ませる必要もあるし、ずっと走りっぱなしにはできない。

 わたしたちも休みたいしね。


「ロンデさん、木材や鉄なんか、もっとないですか?」

「エリオルに頼めば用意できると思うが、どうした?」

「馬車よりも早く帰れる方法があるかもしれません。」


 エリオルくんに頼むと、どこからともなく、たくさんの木や鉄、布なんかを出してくれた。

 エリオルくんのスキル『収納』の能力らしい。

 ミンスさんみたいに固有のものじゃなく、職業と適正によっては、大小あるけど、持ってる人は割といるみたい。

 ない人は、マジックバックや、マジックボックスなんかの、空間拡張魔力の込められたアイテムを使うと同じようなことをできるらしい。

 中々お高いのだそうだけど。


 さてと、材料は揃ったし、やってみますか!


 ロンデさんとエリオルくんが興味深そうに見守る中、わたしは始めた。


 『分解』した材料を、頭の中のイメージになるよう『構築』し、『構築』してできたものを『解析』し、理想の形になるまでそれを繰り返す。

 形になったものが、また溶けるように形を変え、組変わっていく。

 そして、完成した。


「これは、まさか。」

「船です。」


 わたしは、馬車の部品とエリオル君からもらった材料で船を『構築』した。

 馬車を引いてた馬も一緒に乗せるから、馬車よりは大きいけど、機動性を重視して出来るだけ小型の船にしてみた。


「すごい、が、これでどうやって。」

「こうします。」


『分解』


 船の下の地面を限界まで小さな砂粒にした。

 ずずずっと、船は砂の海の上に浮かんだ。


「さ、乗ってください。」


 リノセロスの解体をしてたマーレさんとビートさんを呼ぶ。

 リノセロスの皮や角は、鎧や武器に最適らしく、これから戦争が起こることも考えて、全部持っていくんだって。

 ミンスさんは、船を作ってる途中からいつの間に近くに来て見てた。


 みんなと馬が船に乗った。


「これから、どうやって動かすんです?」


 ミンスさんが、興味津々って感じで聞いてきた。

 アラフィフなのに、一番子供っぽくワクワクしてる。


「最初はちょっと揺れるかもしれないので、しっかり掴まっててくださいね。」


 そう言って、わたしは再びスキルを使う。

 船の行く先の地面を砂粒に変え、『構築』で空気の構成をイジることで気流を生み、風を起こす。

 帆が風を受け、船が動き出した。

 これだけだとちょっと遅いけど、船の浮いている砂粒そのものにも、強制的に流れを生み、船を押し出すように動かす。

 砂粒は限界まで細分化したおかげで、船に対する抵抗は殆ど無い。

 これで、馬車よりは速いはず。

 

「船が大地を走るなんて!」


 エリオルくんが、感嘆の声を上げた。

 船を『構築』する時点で、かなり念入りに『解析』を行い、この状況に最善の『構築』を施したおかげで、船は大した揺れもなく、滑らかに進んだ。


「もっとスピードを上げますね。急ぎましょう。」


 わたしたちはモルガディス王国へと向かった。


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