6話 御子と第一王位継承者
美味しい果物をお腹いっぱい食べて、あーー、満足。
異世界って、原始的で食べ物が美味しくないかもって思ってたけど、向こうの世界では食べられない美味しいものがたくさんありそう。
ちょっと危険なスパイス付きだけど。
食べすぎて、お腹がぽっこり出てしまった…上から見下ろしてるのに、出てるお腹を見るのに遮るものはない。
いやいやいや、この話はもういいから。
それより!
「あの!いくつか聞きたいことがあるんですけど!」
またビートさんに生暖かい目で見られる前に、話を切り出した。
「そうだな、俺達も、お前に聞きたいことがある。」
「どうしましょうかねぇ。カナメさんのことは、昨夜なんとなく分かりましたから、今度は先にこちらの手の内をお見せしましょうか。」
みんなのリーダーっぽいのは、ロンデさんなのに、パーティーの決定権を持ってるのは、ミンスさんみたい。
雇い主だからって言うのはあるんだろうけど、それにしては、みんなミンスさんを非難したり、頭を叩いたり、結構好き放題してるし。
「再三になりますが、改めて自己紹介させてもらいますね。モルガディス王国の第一王位継承者、ミンス=モルガディスです。」
「………………モルガディス、王国…」
「今、僕たちが向かっている、隣国のことですよ。」
「………第一、王位継承、者…」
「今のモルガディス王が死んだら、次の王様になる人間のことですね。」
「商人じゃ。」
「あ、今から行くモルガディス王国のソマリという街で、商業ギルドのマスターもしてますよ。そちらが本業のようなものですから、嘘じゃないですよー。」
いや、問題はそこじゃない。
え、次の王様ってことは、この人、王“子”様?アラフィフなのに?
いやいや、そこでもない。
「それ、わたし、聞いても大丈夫な情報だったんでしょうか。」
「構いませんよ、大したことではありませんから。」
ミンスさんはそう言ってニコニコしてるけど、周りの4人はそうでもない。
ロンデさんは、またこいつは!とか、ブツブツ言いながら頭を抱えてる。
マーレさんは、仕方ないわねぇ、って風に頬に手を当てて微笑んでるし。
エリオルくんなんて、どこか遠い目をして悟りを開いてる。
ビートさんは、ミンスさんに食って掛かってた。
「おいおいおいおい、旦那!流石にそれ言っちゃ、ダメでしょ。」
「いいじゃないですか。緘口令が敷かれているとはいえ、知ってる人はそこそこいますし。何より、カナメさんが本気でスキルを使えば、この程度のことを知るのは造作もないことですよね?」
ミンスさんが、ね?と、首を傾げてこちらを見るので、他の4人の視線もわたしに集中した。
「ミンスさんの、“ソレ”は、読心術ですか?」
「そうですね、サトリ、という、わたしの固有スキルです。ああ、ちなみに、別に毛むくじゃらの猿ではないですよ。」
「そこまで正確に分かるんですか!?」
「相手の精神状態によるところも大きいですが、油断や動揺をしている時や、読む対象があえて伝えようとして来た場合は、かなり正確に読み取れますよ。例えば、カナメさんがビートを“おっぱ ”」
「ちょーっとまったーーーー!」
まさかアレを読まれてたなんて。
名前を出されたビートさんがこちらを見てくるけど、知らない。
「ミンスさんのスキルが、どれくらいすごいか、十分わかりました!もう結構です!」
「まあまあ。でも、すべてがすべて、読めるわけではないですから、カナメさんから直接お聞きしたいですね。」
5人の顔を見ると、促すように頷かれて、わたしはこの世界に来てからのこと、そしてわたしのスキルについて、出来るだけ包み隠さず話すことにした。
わたしが話しを終えても、みんなはしばし無言だった。
召喚後すぐに殺されて、生き返りました。のくだりを話したときは、みんな目が点になってた。
「消滅した体を再生して生き返るとは、にわかには信じられんな。」
「事実だとしたら、神話級のスキルよねぇ。」
「カナメちゃんレベルの勇者が3人召喚されてるとしたら、いくらうちが世界随一の強国とはいえ、戦争を仕掛けられたら勝つのはかなり難しいですね。」
「それはまずないでしょう。カナメさんの話を聞く限り、勇者3人のスキルは能力こそずば抜けてますが、この世界に現存するもののようですから。召喚されたにも関わらず、勇者としての契約から漏れているカナメさんが異常なんですよ。破壊と再生のスキルは、まるで神話に出てくる、世界の破滅を救うために使わされた、神の御子のようですね。」
ロンデさんが、口火を切ると、みんな興奮した口調で一斉に喋りだした。
話の9割はわたしの異常さについて話されてる気がする。
「カナメ、大丈夫?もう痛くない?」
エリオルくんが、心配そうに、わたしの顔を覗き込んできた。
間近で見ると、ますます美少年。
プラチナブロンドの髪に、透き通った青空のような目に、長いまつげが縁取られている。
こんなに近くで見てるのに、肌は白い陶器のように滑らかで、毛穴の1つも見当たらない。
じっと、真っ直ぐ見つめてくるもんだから、顔が段々熱くなる。
「だ、大丈夫。意外と一気に殺されちゃったから、痛みもそこまで感じなかったし!」
「でも、顔が少し赤いよ。熱があるのかも。」
額に、私の体温より少し低めの手が触れて、その後にコツン、と、エリオルくんの額が触れた。
さっきよりも近づいた距離に、息を止めた。
固まったわたしをよそに、エリオルくんは、熱はないみたい。と、すました顔をしている。
天然たらしめ!!
エリオルくんが離れて、一息つくと、大人4人の視線が注がれているのに気付いた。
みんな、さっきまで真剣な話し合いをしてたはずなのに、今は子供たちの成長を暖かく見守る親の目でわたしたちを見てた。
「あ、気にしないで。続けて続けて。」
ビートさんが冷やかすと、ロンデさんが、気を取り直すように咳払いした。
「それで、ミンス。これからどうするんだ?」
「それはもちろん、勇者が3人も召喚されたとなると、僕達に残された選択肢は一つしかありませんね。」
そう言って、ミンスさんはわたしの方に歩いてくると、膝を折って、そっとわたしの手を取り、恭しく頭を下げた。
ロンデさん、マーレさん、ビートさん、そしてエリオルくんが、ミンスさんの後ろに膝をつき、同じように、頭を下げる。
厳かな儀式のようだった。
「神の御子、カナメ様。この世界を絶望から救うため、どうか我らに、そのお力をお貸しください。」
わたしは、戸惑いつつも、彼らの願いを受け入れた。