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3話 情けは人のためならず

 召喚の部屋から外に出て、足跡を追うように歩き続けて、もう半日は歩いてる気がする。

 外に出たときは、日が昇ったばかりの、朝独特の空気があったのに、今はもう太陽は森の木に隠されて、木々の間から茜色の日差しが僅かに見える。

 部屋の出口から続いた足跡は、森に入って割とすぐに、馬車の車輪のような跡に変わっていた。 


 そりゃそうだよね。

 徒歩で来ないよね、こんなとこ。

 よくよく考えれば当たり前なんだけど、自分たちだけ楽しやがって!

 とささやかな八つ当たりは許してほしい。


 女子高生の体力で、ひらひらセーラー服のスカートに上履き姿。

 馬車の通れる道とはいえ、舗装された道路を歩きなれたこの足で、今までのぶっ通しで歩いてこられたのは、ひとえに、私のスキルのおかげ。

 体の組成や仕組みは、召喚の部屋で、何故か『解析』できてたおかげで、体の中に蓄積した疲労物質を、『分解』し、エネルギーとして『再構築』し、体内を巡回することで、飲まず食わず休まずで歩き続けられたのだ。

 これぞまさに、自給自足。

 

 あと、ここまで無事に歩けたのにはもう一つ。

 召喚者たちの通ったあとを辿ったおかげ。

 あいつら、この森の自分たちの通り道には、魔除けの結界を張ってたみたい。

 道の所々に、紋様の掘られた石台と、その中心に小さな宝石のような石が埋め込まれていた。

 『解析』したところ、紋様は魔除け、それを発動するために、魔力の供給源として、中心に魔石といわれる石が埋め込まれていた。

 魔石は、魔力の源で、魔物の核になっているらしい。

 また、魔物だけではなく、エルフや精霊なんかも、魔石とは違うけど、同じような核を持ってるんだって。

 稀に人にも核を持つ人がいるとか。

 魔物にエルフに精霊か。

 いよいよ、ファンタジー真っ只中って感じ。

 

 まあ、その魔除けの結界のおかげで、この結界付近には、魔物は近寄ってこれないみたい。

 結界に気づく前に、バカ正直に車輪の跡を辿ったら誰かに見つかるかもって、通り道から少し離れた場所を歩いてたら、サーベルタイガーみたいな魔物に食べられそうになった。

 それからは、あの魔物より人に見つかったほうがマシ!って感じで、道のど真ん中を歩いている。

 復活できるかもしれないけど、生きたまま食べられるなんて、流石にムリ。


 とりあえず、魔物には怯えずに歩けたので、暇つぶしに、自分のスキルの能力を試しながら歩いてきた。

 

 『解析』は、わたしが認識した対象の素材、性質、構造、この世界での知識なんかが分かる。

 基本認識って言うのが、左目で見ることみたい。

 例外はあったけど。

 『解析』が終わった段階で、唐突に理解できるようになる。

 全部くまなく知ろうとしてみたら、多大な情報量で困惑したけど、わたしの意識下で興味の大小によって得られる情報を制限できたりする。

 これがかなり便利。

 結界の外にある木に、たわわに実がなってたから、食べられるかなって、『解析』してみたら、


 チコの実

 特定の魔物に好まれる実。

 猛毒。

 人が食べると、体内が溶解する。

 食用可だがおすすめしない。


 とか出たわ。

 食べなくてよかった。

 この世界怖すぎでしょ。

 このスキルがなかったら、たぶん、そっこーでチコの実を食べて、液化してるわ。

 世間一般的にこういうのは食用可じゃないと思うんだけど、何、回復薬か何かと一緒に食べる人でもいるの。


 『分解』は、私が認識したものを、読んで字の如く、分解する。

 簡単なところでいうと、足元の石を半分に切断することも、粉々にすることも出来る。

 さらに踏み込んでいくと、『分解』を使う前に、『解析』で解析を行えば、視覚で認識できる範囲を超えて分解できた。

 水を酸素と水素に分解も可能ということだ。

 体の疲労を取ったのも、この応用。

 これ、うまくつかえば、魔物を倒したりとかもできそうだな。

 『解析』と『分解』を魔物に攻撃される前に瞬時に行うのは難易度が高そうだけど。

 遠距離でも『分解』が可能なら、いけるかもしれない。


 『構築』は、平たく言うと、ものの本質が理解できていれば、何でも作り出せる、といった能力だった。

 さっきとは逆に、水素と酸素から水が作れる。

 わたしの体を『再構築』できたことを考えると、かなり複雑なものまで再現できそうだった。


 化学のようだけど、法則を無視したところが多々あって、異世界だなって感じ。


 ちなみに、自分のスキルを『解析』してみた。

 左目で見ることによる認識の例外が、このスキルの『解析』が可能だったこと。

 わたしはスキルの発動を感知、つまり認識できてる。

 だから、そのタイミングで認識を行ってみたら、ズバリ出来たわけだ。

 わたしが認識したと、そう思えれば、ひょっとしたら見なくても可能なのかもしれない。

 まあ、左目の違和感とか、認識=見るっていう感覚が強いから、難しいんだけど。


 で、スキルの『解析』は次の通りだった。


 『解析』 万物の理解が可能

 『分解』 万物を極限まで細分化可能

 『構築』 万物の創造が可能


 『解析』を使ってるのに、理解がちょっと追いつかない気がするのは内緒だ。

 人が扱える能力を遥かに超えてる気がするのは気のせいだろうか。


 もちろん、職業も調べてみた。


 『無職』 人間失格


「だざいおさむかーーーーい!!!!」


 思わず大声で叫んでしまった。

 いやいやいや、なにときおりユーモアを交えてみましたみたいな、『解析』結果が出るの。

 まるでスキルに意思があるみたい。

 思わずツッコんだけど、一人で異世界探索、しかも一回殺されてる状況だし、少し気分が軽くなりはしたけれども。

 わたしの意思を介在させてるのかな。

 ともあれ、わたしは再び脱無職を心に誓った。






 


 ようやく森を抜けたのは、日が沈んだあとだった。

 街灯もなく、真っ暗な森の中を歩くのは、正直生きた心地がしなかった。

 道順は、『解析』を使えば、月明かりだけでも見失うことなく歩けたのだけど。

 問題は、夜行性の魔物たち。

 虫型の。

 50センチはありそうな、毛むくじゃらの蜘蛛型の魔物がぞろぞろと、わたしを狙うかのようについてきたときは、思わず『分解』のスキルを連打してた。

 魔除けの結界があるから、襲われる心配は無かっんだけど、ほんとに反射的に。

 おかげで、加減とか、『分解』の程度とかをまったく考えてなくて、もちろん『解析』なんて出来るわけもなく。

 感情だけで放たれたスキルは、蜘蛛の群れを四散させた。

 弾け飛んだ細長い足が、足だけになっても、そこら中で蠢いたのを見たときは、ショック死を覚悟したわ。

 生きててよかった、マイ・ハート。


 ともあれ、『分解』のスキルは魔物退治にも使えることが証明されたのだった。

 同時に、こんな惨事を繰り返さないためにも、出来るだけ『分解』は使わないようにしようと心に誓った。


 さて、ようやく道らしい道に出てきはいいけど、流石に疲れたし、真っ暗だし、今日はもう歩きたくない。

 この辺で野宿かな、と思ってたら、遠くの方で誰かが騒いでるのが聞こえた。

 声のする方に目を凝らす。

 暗くてはっきりは見えないけど、馬車が魔物に襲われてる。

 結構危ない状態みたい。

 敵の可能性もあるわけで、助けるかどうか悩んだけど、一瞬だけだった。

 躊躇って、死体の山を眺めて後悔はしたくない。


『解析』


 さて、助けるにしても、この世界でも異常な可能性のあるスキルをそのままは使えない。

 魔法はあるみたいだから、それっぽい感じで倒せないかな。


『構築』


 見た目が危うくなる『分解』ではなく、代わりに、『構築』で、空気中の水分を凍結し、つららを形成させる。

 魔物の急所を貫くための計算は、『解析』任せだ。

 スキルを発動させた瞬間、魔物のうめき声とともに、あたりが静まり返った。


「大丈夫ですか?」


 馬車に駆け寄って、声をかける。

 私が近寄った瞬間に、相手が肩を小さく震わせて驚いた。

 今まで戦っていた魔物たちが急に倒れて、この世界では珍妙なセーラー服を着た少女に声をかけられれば、無理もないか。

 でも、今はあまり呆けられてばかりでも困る。

 微かだけど、血の匂いがする。

 怪我人がいるのだろう。


「大丈夫?怪我は?」


 わたしはもう1度声をかけた。


「あ、ああ、大丈夫だ。」

「血の匂いがするけど、怪我人がいるの?」

「仲間が1人怪我をしたが、あんたのおかげで軽傷だ。助かった。礼を言う。」


 返事をしたのは、ガタイのいい、スキンヘッドのおじさんだった。なかなかいい筋肉が、暗い中でもよく分かる。

 いかにも、冒険者、って感じの格好をしてる。


 返事をしながら、わたしの姿をマジマジと見ているのが分かる。

 せめてセーラー服くらい、スキルで別の服にしとくべきだったかな。

 道に出る前に、目立つ格好をスキルで変えてしまおうかと思ったけど、よくよく考えるとわたしは、この世界の人間と会ったことがなかった。

 セーラー服では変かもしれない、と思っても、じゃあ変ではない服装が分からなかったのだから、仕方ない。

 こういう趣味だということにしておこう。


「俺はロンデだ。向こうで怪我してるのがビート、手当してるのはマーレだ。そっちで丸まってるでかいのは、俺達の雇い主の商人、ちっこいのは御者だ。あんたは、変わった格好をしているが、この辺の人かい?」

「カナメです。よろしく。この辺は初めて来たと思うんだけど、迷っちゃって。この服は趣味なんです、可愛いでしょ。」


 ロンデさんが丁寧に自己紹介してくれたので、それに合わせて素早く『解析』する。

 この馬車に乗ってる人が敵である可能性は、ほぼゼロだった。

 なので、素直に自己紹介しておく。

 可愛いでしょ、って、スカートをちょっと持ち上げたら、なんとも言えない表情をされた。

 失礼な!


「まあなんにせよ、本当に助かった。あんた強いな、魔法使いか?」


 想定通り、勘違いしてくれたみたい。


「そんなとこだと思うんだけど、魔物に襲われた拍子に、崖から落ちて頭を打ったみたいで。記憶が所々抜けちゃってるみたい。」


 困ったわ、って感じで、頬を抑える。

 その割には、身ぎれいな格好してるな、とか聞こえたけど、気にしない。


「近くの町にでも行ってみたら、なにか思い出すかもって思ってるんだけど。ロンデさんたちは?」

「近くの町って、一番近いとこだとバチルダン小国内の村が近くにあるが、やめたほうがいいぞ。この国は近々戦争を始める気だって、もっぱらの噂でな。俺達も、今回の護衛で立ち寄ってたが、国境が閉鎖される前に、隣国に行こうと出てきたってわけよ。」

「戦争…、小国ってことは、小さな国なんでしょ?」

「まあな、ただここんとこ、禁術に手を出したとか、まことしやかに囁かれててな。」


 あの召喚のことだ。

 噂とは言うけど、わたしは事実であることを知ってる。

 あの3人を、わたしを殺した時のように操って、兵士にするのか、それとも他に理由があるのかは分からないけど、3人の無事を祈る時間は、そんなに残されてないのかもしれない。


「なんだ、その、行く宛がなくなったなら、俺達と一緒に来るか?今向かってるのは、俺達の拠点がある隣国のちょっと大きな街なんだがな。」


 難しい顔をして黙り込んでしまったから、行く宛がなくなって、呆然としていたように見えたんだろう。

 実際に半分はその通りなんだけど。

 ロンデさんの強面で、努めて優しく言おうとしてくれてるのがおかしかった。


「でも、商人さんの馬車なんですよね。見ず知らずのわたしが乗ってもいいんですか?」

「なあに、命の恩人に、歩いて国境を超えろなんていうバカはいないだろうさ。どうする?」


 ロンデさんは、確認するように、商人さんと御者さんをふり返った。

 商人さんは、ぜひぜひ、というように、固まった笑顔で首を縦に振る。

 さっきの魔物がよほど怖かったんだろうな。


「じゃあ、お言葉に甘えて。」

「改めて、次の街までよろしくな、カナメ」


 次の目的地が決まった。




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