2話 無職少女復活する
意識はない。
だが、わたしの意志に関係なく、わたしの3つのスキルは自動的に発動した。
『解析』が発動し、体組成を理解した。
空気中に霧散した成分から、『構築』が始まる。
足りない部分は周囲から補い、変質したものは『分解』して『構築』する。
およそ、人の目には見えないレベルでの『構築』は、速やかに進む。
神経が『構築』されたのだろう、存在している、という感覚が芽生えた。
痛みはない。
まあ、刺されただけでも痛いんだもの。
分子レベルにバラバラにされて痛覚があったら、たまったもんじゃない。
最初に視界が戻った。
薄っすらとだけど、召喚された部屋の天井が見えた。
右腕を持ち上げてみる。
あ、まだ、皮膚の『構築』が済んでない。
グロいかな、と思ったけど、スーパーに並んでる牛とか豚の塊肉とあんまり変わんないな。
思いの外、冷静、というか、庶民的な発想しか出てこないのは、この状況があまりに現実離れしていたからかもしれない。
だって、あれ、死んでるじゃん。
殺される瞬間の自分を、すごく冷静に観察してしまった。
だから断言できる。
わたしはさっき、一度死んだんだって。
じゃあ何でわたしが今生きてるのかというと、
「スキルのおかげか」
漠然とした、しかしそれは確信に近いものがあった。
無意識下ではあったけれど、わたしは確かにスキルの発動を感じたのだ。
声に出して言ってみると、少しかすれてるけど、ちゃんと出た。
声帯も『構築』が完了したみたい。
ゆっくり立ち上がって、軽くストレッチしてみる。
違和感はない。
ステータスはどうなってるんだろ。
「ステータスオープン」
変化はない。
ステータス画面にではなく、画面そのものが出ない。
部屋には私の声だけが虚しく響いただけだった。
「……あれ?」
みんなと一緒にいたときは確かに開いたはずたんだけど。
初見だけ使える……みたいな?
ああもう、わけがわからない!
わたしのスキルも、最初は、機械いじりにでも強くなるのかと思ったけど、どうやら違ったらしいし。
なにせ、跡形もなく消し飛んだはずの人間を、自動的に生き返らせるんだから。
この世界では当たり前なのか、私が変なのか。
わたしは、改めて部屋の中を見回した。
3人はもういなかった。
わたしを殺せと命じた、声の主も。
しんと静まり返った部屋の中で、わたしの心も静かになる。
わたしは、足元の魔法陣の跡を見つめた。
殺される前に、魔法陣の『解析』結果を理解した中で、気になることがあった。
『分解』と『構築』だ。
わたしのスキルと同じだった。
このスキルが有れば、召喚を逆行して、元の世界に戻ることができるかもしれない。
「よし、決めた!」
まずは、この世界を知ろう。
初っ端からクソゲーのような設定を出されて、仲間も失ってどうしようかと思ったけど、希望はある。
少なくとも今、わたしは生きている。
ひょっとして、冒険者ギルドとか、ダンジョンとか、あったりするのかな。
ちょっと楽しみかもしれない。
この無職状態もなんとかしたい。
わたしが無職とわかった瞬間の、同郷の3人の顔を思い出す。
んぬぬ。自然と眉間に力が入ってしまう。
せめて女子高生とか記載してくれる優しさはないのか、この世界は。
3人の安否も気になるけど、まずは自分のことをしっかりしないと。
なんせ、一度死んで二度目の人生なのだ。
「目指せ、脱無職!」
わたしは一人、拳を振り上げ気合を入れた。
召喚の部屋を出ると、石でできた、一本の通路が伸びていた。
奥に階段が見える。
念の為、通路を『解析』してみる。
罠があるかもしれないしね。
通路を凝視すると、左目がじんわりと暖かくなる。
特に罠もなく、普通の石造り通路だった。
通路を進んでいく。
来て早々に、抹殺されたから、ここにもなにか罠があるんじゃないかって警戒したけど、なにもないみたい。
階段を登ると、そこはあたり一面、緑の森だった。
できれば早くどこかの町にでも行きたかったけど、こんな極秘施設みたいなとこが、町の近くにあるわけないか。
出てすぐに、召喚したやつらのアジトとかのど真ん中じゃなかっただけ、幸運だったかもしれない。
今後はもうちょっと、気をつけよう。
とりあえず、この森から抜けられればいいんだけど。
ふと足元を見ると、階段の出口から、森の方へ続く足跡がある。
召喚者たちの足跡みたい。
これを辿っていけば、どこかにつくだろうけど、どこにつくのか全くわからない状態で、敵とも言える相手の足跡だけを頼りにするのは心もとなかった。
そうだ、これも解析出来るのかな。
足跡を見つめる。
左目が暖かくなったけど、スキルを使うたびに段々と違和感がなくなっていく気がする。
『解析』の結果が、ストンと頭の中に落ちてくる。
この足跡は、『バチルダン小国』に続いているらしい。
『解析』の結果に、異世界の情報が出てきたことに驚いたけど、人体の構造が分かるくらいだもの、わたしの知らないことが分かるくらい何でもないんだろう。
そもそもこのスキル自体が異世界仕様なわけだし。
それにしても、バチルダン小国か。
一番近い国かもしれないけど、どう考えても敵の本拠地、もしくは関係のある国だよね。
そこに乗り込むのは、ただのバカかもしれないけど、他にあてもなく
「とりあえず、ダメ元で行ってみるかな」
誰ともなしに呟いた。