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1話 勇者召喚に巻き込まれたら、無職のわたしはそっこーで消滅しました

 なんの変哲もない、一日だった。

 いつもと違うことといえば、その日、日直で、日誌を書いたり、雑務をしたりで、いつもより少し遅くまで学校に残っていたくらい。

 同じく男子の日直だった、有園誠也アリソノマサヤくんと、学級委員長の三上琴乃ミカミコトノさん、そして、担任の白石正義シライシマサヨシ先生と、明日の課外授業で使う資料をまとめていた。

 とは言っても、わたし達生徒3人が、先生の作った資料をホチキスで留めて、先生に渡しただけだけど。


「ご苦労さん」


 白石先生が、軽い調子でそう言って、資料を受け取り、三上さんの頭を軽く叩いた。

 体育の若い先生だからか、白石先生はどことなく友達よりな態度なので、生徒からは名前をもじってジャスティスってあだ名をつけられてる。

 態度はあんまり、正義って感じじゃないけどね。


「っしゃー、これで終わりー?今日、日直って、マジついてねぇわ」


 有園君が思いっきり背伸びとあくびをしながらそう言った。

 先生、まだ目の前にいるんだけどね。

 有園君は思ったことをすぐ口にしてしまうタイプ。

 よく言えば素直。

 悪く言えばちょっとおバカ。


「新崎さん、ごめんね、手伝ってもらっちゃって」


 三上さんが、申し訳無さそうに、わたしの名前を呼んだ。

 新崎要ニイサキカナメこと、わたしだ。

 もともと学級委員長の仕事だったんだけど、男子の方が帰っちゃって、それを手伝うことになったんだよね。


「全然大丈夫だよー。3人でやったら早く終わったし!」


 三上さんは、典型的な学級委員長、って感じ。

 真面目なので、気にしないようにできるだけ明るく返事をした。

 外はうっすら暗くなり始める。

 真夏なので、外が明るい気がするけど、結構いい時間だ。

 家に帰る前に、電話したほうがいいかな。


「よーし、じゃ、お前ら、暗くなる前にさっさと帰った帰った」


 白石先生は、生徒に対する労りが足りないと思う。

 帰ろっか、と、各々カバンを持ち上げた。




 までは、覚えてるんだけど、気が付けば、カバンを持ち上げた姿勢のまま、広い石造り部屋の中にいた。

 しばらく訳が分からなくて、呆然としてしまったけど、周りに、さっきまで一緒にいた3人も居ることに気付いた。

 お互い、顔を見合わせる。

 みんな、さっき教室でしていた姿そのままに、さて帰るぞ、って感じの体勢で固まっていた。


「なんだ、ここ。」


 最初に口を開いたのは、白石先生だった。


「まさか、これ、異世界召喚的な…!?」


 ボソッと呟くのが聞こえる。

 どことなく、楽しそうというか、期待に満ちた声に聞こえたのは気のせいかな。

 確かに、状況は、最近流行りの異世界召喚みたいな感じだけど、でも、まさかね。


「え、マジで!オレ、異世界に召喚されちゃったわけ?」


 白石先生の呟きに反応して、有園くんがノリノリで、ステータス!とか叫んでる。

 三上さんは、全く状況についていけずにポカンとしてる。

 わたしはというと、これは夢なんじゃないか、半分、現実だったらどうしよう、家に電話できないよね、なんて。

 わたしもかなり混乱してるみたい。


「おいおいおい!ちょっ!みんなも見てみろよ!マジでステータス見れるぜ。これ、見えてんのオレだけ!?」


 有園くんのテンションがますます上がってる。

 けど、わたしからみたら、何もないところを見て騒いでるように見えて、なんだか異様だ。


「ステータスオープン!」


 有園くんに誘発されるように、白石先生もステータスオープン!って、結構大きな声で唱えた。

 そして、おお、と感嘆の声を上げる。

 ほんとに何か見えてるみたい。

 二人は熱心に、おそらく二人には見えているだろうステータス画面を見つめていた。

 ちら、と、まだステータスを唱えていない、三上さんを見た。

 三上さんもわたしの様子を伺ってたみたいで、目があった。

 お互いに目だけで笑うと、頷き合う。

 今の所、何も手掛かりがないし、恥ずかしがってても意味ないもんね。


「「ステータスオープン!」」


 わたしたちも結構ノリノリなのかもしれない。

 言うと同時に、目の前にステータス画面が開かれた。

 結構大きい。

 改めて周りを見るけど、他の人のステータス画面は見えないみたい。


名前    新崎要

属性    無属性

レベル   1

HP    20

MP    20

物理攻撃力 20

物理防御力 20

魔法攻撃力 20

魔法防御力 20

俊敏性   20

器用さ   20

賢さ    20

運     20


職業    無職

スキル   解析 分解 構築



 なんだか、The平凡、を体現したようなステータスだった。

 レベル1だからって言うのもあるんだろうけど、こういう転生ものって、もっとずば抜けたステータスだったりすると思ってた。

 属性の無属性っていうのもよくわからない。

 職業、無職…、確かにそうなんだけど、剣士とか、魔法使いとかじゃないんだね。

 せめて高校生とかさぁ。

 スキルもよくわかんない。

 解析、は、鑑定とかと同じ感じなのかな。分解、構築。

 機械の組み立てでも得意なのか?わたし。


「うわー!オレのステータス神ってる!職業、異世界から招かれし勇者だって!レベル1だけど、RPGとかで中盤くらいの強さっぽい!属性光、スキルは、魔法系が結構使えそう!」


 有園くんの言葉に耳を疑ったのは言うまでもない。


「俺も、職業は有園と同じ、異世界から招かれし勇者だな。俺は火属性、剣技がいけそうな感じだな」


 先生も有園くんに続けた。

 え、え?

 ちょっと待って、みんなは勇者なの?

 三上さんは?!

 焦って三上さんを見てみると、二人の言葉を聞いても焦った様子はない。

 そして、


「私も、職業は有園くんと先生と同じですね。私は、風属性、スキルは回復系に特化したもののようです。」


 終わった…。

 これ、わたし、3人の勇者召喚に巻き込まれた一般人ってことなんじゃ。


「新崎は?どうだった?」


 有園くんに聞かれて、見えないのに、なんとなくステータス画面を隠すように動いてしまった。

 そして、意図せず、手が触れた。


 『解析』


 一瞬、ステータス画面が溶けたように見えた。

 次の瞬間、左目に激痛が走った。


「あああぁァあが!」


 突然うめき声を上げて、うずくまったもんだから、3人が慌てて駆け寄って来るのがわかった。

 凄まじい痛みだったけど、一瞬だけで、もう痛みはない。


「新崎?大丈夫か?」


 白石先生が心配して覗き込んでくる。

 さっきまでの痛みが嘘みたいに、なんともない。

 左目を抑えていた手を外して、3人に笑顔で答え、ようとした。


 ヴンッ


 3人に重なるように、3人のステータス画面が見えた。

 えっ?

 目を瞬かせて、ステータス画面を凝視する。

 さっきまで、見えてなかったよね。

 何度も瞬きを繰り返し、答えない私を不審に思ったのか、白石先生が私の前で手をふる。


「おい、新崎?」


 みんなのステータス画面が見えるんです、と言いかけて、やめたのは、今見えているステータス画面は、私のスキル、『解析』の能力だということに気付いたからだ。

 白石先生のステータス画面をしばらく見つめていたら、職業欄の『異世界から招かれし勇者』の注釈が見えたのだ。

 おそらく、3人には見えていない。






 異世界から招かれし勇者

 国の繁栄のため、異世界から召喚される人柱の俗称。召喚されることにより、召喚者と強制的な主従の契約を結ばれる。主のために命さえ惜しまず、人柱となることから、勇敢なる者を皮肉って、勇者と呼ばれる。なお、勇者召喚の儀は禁忌とされている。














 わたしを心配そうに見ている3人の顔を眺めて、わたしは肺いっぱいに空気を吸い込んで、ゆっくりゆっくり吐き出した。

 落ち着け。

 わたしが今、焦っているのは、自分が勇者じゃなかったからじゃない。

 むしろ、勇者じゃなかったから、落ち着いていられる。

 この世界の勇者は、わたし達が元の世界でイメージしていたものとは全く異なるってことが、わたしの『解析』スキルで分かった。

 でも、知っているのは、まだわたしだけ。

 みんなに話すべきだろうか。


「新崎、お前本当に大丈夫か?」

「新崎さん、どこか痛いの?」

 

 白石先生と三上さんが聞いてくる。

 喉の、ほんとにすぐそこまで出かかった言葉を、飲み込んだ。

 言えない、この『解析』のスキルが本物だとして、あなた達3人は、この世界で殺されるために召喚されました、なんて。


「ちょっと、左目が痛んだだけで、もう大丈夫です!」


 努めて明るく振る舞った。

 みんな、まだここが、夢か現実かの区別さえついてないはず。

 何の根拠も、解決策もないことを話して混乱を招くより、もっと先にすべきことがあるはず!


「それより、わたしたち、ステータスに気を取られてたけど、ここがほんとに現実で異世界だとしたら、一体誰がどうやって、なんの目的で、こんなところに召喚したんだろう。」


 そう、目的があって、わたしたち、もとい、勇者の3人を召喚したのなら、誰もいないのはおかしい気がする。

 普通だったら、召喚できたことを確認するために、誰かいそうな気がするんだけど。


「そういやそうだよな。こういう召喚ものって、大勢の魔道士とかが集まって、召喚して、よくぞ勇者よ!的な流れだよな。」

「そうだよね、でも、ここに来てだいぶ経つのに誰もいないみたい」


 有園くんに頷いて、周りを見回した。

 四角い石造りの部屋は、とても広いのに出入り口のような物が一つあるだけで、窓もなく、隠れられそうな場所はない。

 天井も高いが、2階はない。

 床を見ると、うっすら焼け焦げたあとが見えた。

 模様のようだった。


「床になにか書いてある」


 わたしが言うと、3人も足物を見下ろした。

 部屋いっぱいに書かれた魔法陣のようだった。

 魔法陣を凝視する。

 チリチリと左目が痛い気がするけど、今は気にしない。

 焦げた魔法陣が光って浮かび上がる。

 色々な角度に変わったり、クルクル回ったり。

 魔法陣を、『解析』しているようだった。


『ずっと見てないとだめなのかな』


 そう思って、瞬きをすると、

 光って浮かんでいた魔法陣がフッと消えた。

 あれ?と思ってキョロキョロしていると、不意に脳内に響くように、『解析』の結果を理解した。




 勇者召喚の魔法陣

 異世界から勇者を召喚するための魔法陣。

 召喚の儀には、多数の魔道士を必要とし、また異世界から召喚する対価として、その魔力を償却するが、満たない場合は魂と肉体を糧に勇者が召喚される。

 なお、勇者は召喚に際し、その肉体と魂は分解され、召喚者の用意する依代を肉体として構築される。




 おそらくだけど、この部屋には確かに、魔道士たちはいたのだろう。

 部屋の大きさから、数十名は間違いなく。

 勇者の召喚の対価として、消滅したのだ。

 魔法陣の解析結果を理解した中で、気になることがあった。

 『分解』と『構築』だ。

 わたしの、スキルにあった。


『ステータスオープン』


 今度は声に出さずに、念じてみた。

 先程と同じようなステータス画面が表示された。

 少し違うのは、『解析』のスキルのところが薄く光ってるみたい。

 さっきは、たぶん、『解析』を触ったら、使えるようになった。

 ということは、他の2つも、ステータス画面に触れれば使えるようになりそうだけど。

 ちょっと勇気がいる。

 一瞬とはいえ、ものすごく痛かったんだよね。

 ビクビクしながら、『分解』と『構築』に触れた。

 …なんともない。

 ステータス画面の『分解』と『構築』は、『解析』と同じように、うっすら光ってるから、これで使えるようになったと思うんだけど。


 って、うっかり自分の世界に浸ってしまってた。

 またみんなに心配されちゃう。

 思考から意識を目の前に戻して、周りを見た。

 てっきり、みんなにまた心配かけてると思ったけど、みんな気にしてないみたい。

 …それどころか、微動だにしない。

 3人とも、部屋の入口の方を見つめて、マネキンのように無表情に突っ立っていた。

 

「ねぇ、みんな。どうしたの?」


 返事はないだろうな、と思った。

 みんなを見て違和感を感じた瞬間、この状況が『解析』されていると感じた。

 『解析』はまだ途中だけれど、じんわりと手に汗が滲む。

 とても嫌な感じがする。

 

 小さな、足音が近づいてくる。

 急ぐでもなく、ゆっくりとした足取りで。

 それに合わせて私の心臓も、バクバクと音をたてる。

 耳の奥で、血の流れが分かるほど、脈打っている。

 ギリギリ目いっぱいに張り詰められた緊張の中で、突然、頭の中に理解が降ってくる。

 『解析』が完了したのだ。


 3人は勇者召喚に伴う契約に基づき、主に従属し、わたしを殺すだろう。


「おりなさい」


 部屋の前で止まった足音と同時に、男の人の声が聞こえた。

 耳障りの良い、中性的な声で、こんな状況でなければ聞き惚れていたかもしれない。

 そんなきれいな声で、そんな物騒なことを言わないでほしい。


 ツッと、視線を滑らせる。

 さっきまでマネキンみたいに立ってた3人が、私に向かって動き出した。

 何で、とは思わない。

 さっきの『解析』が答えだ。

 この声の主が、召喚者で、勇者はそれに絶対服従。

 本人たちの意思は関係なく。


 白石先生の手には剣があった。

 剣の形をした焔みたいな。

 剣の先端がゆっくりと私のお腹に刺さっていく。

 刺さったところから、ジュッと音がして、肉の焦げる臭いがした。

 めちゃくちゃ痛い。

 のに何で、わたしはマジマジとわたしが殺される様を見てるんだろう。


 三上さんに視線を移す。

 三上さんは、回復系専門って言ってたから、痛くないよね。

 そう、願いを込めて。

 三上さんが何か唱えた。

 わたしには、何もなかった。

 わたしには。


 代わりに、有園くんが光り輝いてるけど。

 あー、バフ系ね、勇者の力がめっちゃ底上げされちゃう系ね。

 もはや自分でも、何言ってるのか訳わかんない。

 そういえば、わたし、HP20だっけ。

 刺されてよく生きてるな。

 

『ステータスオープン』


 あ、あと2しかないわ。

 見るんじゃなかった。

 あと2しかHPない人に対して、そんな仰々しいもの出さなくてもよくないかなぁ。

 ねぇ、有園くん。


 有園くんの両手のひらの真ん中に、バレーボール大の電気の塊みたいなのが、バチバチいってた。

 その電気の塊みたいなのは、一気に集束したかと思うと、わたしの中で暴発した。



 




 わたしは、この世界から、消し飛んだ。








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