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たとえ瞳が失われても  作者: しっつう
1章 出会いとこれから
9/14

8

月華は鋭い目つきで聖を睨んでいた。

聖はさっきまでの様子が嘘のように、縮こまって正座していた。


「これはどうするんだ?この間抜け」


「申し訳ない...」


月華の指の先には、さっきの戦闘で折れたホワイトボードと壊れた椅子が倒れていた。


「お前が何も考えず殴ってきたせいで、壊れた。

そして、備品だけでなく壁までも壊れた。

どうすもりだ、この馬鹿」


「だが、椅子に関してはお前が俺に向かって蹴り上げてきたから...」


「言い訳するな。

そもそもお前が俺に急に殴りかかってきたから、こうなったんだろうが」


「仰る通りです...」


はぁ、と月華はため息をついた。

ホワイトボード、椅子という学校の備品、そして壁。

これらが、月華が生徒会長としての初仕事の日に壊れたのだ。

当然学校側から相当な罰が下るだろう。

月華には、これらを学校側に弁償する金などなかった。


「これを理事長にどう説明するつもりだ?」


「ごめん...何も思いつかん」


はぁ、と再びため息をついた。

聖の軽率な行動のせいで、自分が責任を負うのだけは避けたい月華は、ずっと教師への言い訳を考えていた。

喧嘩を聖が一方的にしかけてきた、というのが最初に浮かんだ言い訳だったが、喧嘩という言葉では到底片付けられないほど生徒会室は荒れていた。

何より、ホワイトボードや椅子なら言い訳のしようがあるものの、大きく凹んだ壁が問題だった。

まず、並大抵のことでは壁がこんなに大きく凹むことはない。

能力のことを話せるなら、全てありのままに話せば済むことだが、能力について一般人に他言はできない。


「お前の馬鹿力は認めよう。

だが、お前の軽率な行動のせいで俺の立場まで危うくなる。

最悪、全て弁償させられる可能性だってある。

それすらも考えられなかったのか?

何か言いたいことがあるなら、この状況の解決策を思いついてからにしろ」


月華は苛立っていた。

一方聖は、縮こまって申し訳なさそうにしてるだけで、一向に解決策を思いつく様子もない。

そんな聖に、更に苛立ちが募った月華は、聖の頭へと木刀を振り下ろそうとした...その時


「おやおや、喧嘩ですか」


その声はどこかで聞いたことのあるような、低く穏やかな声だった。


「誰だ」


そう言い、月華は声の主へと顔を向けた。

そこには、生徒会室の開けっ放しになっていた入り口に佇む、一人のスーツ姿の男がいた。

月華には全く見覚えがない男だった。

男は、灰色の髪の毛、サングラス、不気味な表情、センスのない柄のシャツをスーツの下に着るという、不審者にしか見えない容姿をしていた。


「何だお前は?

俺は馬鹿の説教に忙しい、部外者は帰れ」


「その言い方はないでしょう。

私は今日から、あなたたち生徒会の顧問となるのですよ?」


「なんだと?」


こんなただの不審者にしか見えない男が顧問?と月華と聖は内心思ったが、口には出さなかった。


「それでは自己紹介の時間にしますか。

私はアヴリッジ・パストと申します。

木刀を持った黒髪の君が黒羽生徒会長、正座している白髪の君が白金副会長ですね?」


月華は驚いた様子で聖を見た。


「お前、副会長だったのか?」


「いや、俺も初めて知った」


聖はきょとんとした顔でそう返した。

そこでアヴリッジは、はてという様子で生徒会室の中を眺めた。


「ずいぶん生徒会室が荒れているようですが...」


「あ、あぁ...そのようだな。

俺も驚きだ」


月華は珍しく言葉に詰まった様子だった。


まずい、このままだと俺まで責任を負わされる...面倒ごとはごめんだ


そう思った月華は、困った表情を作り、アヴリッジに言った。


「俺が生徒会室に来た時からこんな状態で、俺も驚いた。

生徒会室にはこの間抜け面の男が一人だったから、何をしていたのかと問いただしていたところだ」


「おい、てめぇひきょ...」


そう言いかけた聖を月華は、それ以上言ったら殺す、という目で睨み黙らせた。

そんな月華と聖の様子を見ていたアヴリッジは、穏やかな口調のまま


「嘘はおよしなさい。

私は君たちの戦いの一部始終を見ていたので、嘘は通用しませんよ。

学校という大勢の一般人がいる中で能力を使うとは、死にたいのですか?」


と、声に若干の怒気を含ませ言った。

能力、という言葉をアヴリッジが発した瞬間、月華は木刀をアヴリッジに向けて構えていた。

聖もそれに同調するように立ち上がり、拳を構えた。


「お前、能力について知っているということは、やはり《天使》の関係者か?」


「聞く必要はねぇよ月華。

俺たち以外で能力について知ってる人間なんていない。

いたとしても、それは俺たちと同じ能力者だけだ。

そしてそいつらは全員俺たちと同い年、こいつは明らかに年上だ。

つまりこいつは《天使》の関係者だ、殺すぞ」


「早まるな、馬鹿が。

それくらいは俺もわかってる。

だが、《天使》の関係者だったら俺は聞きたいことが山ほどある。

半殺しにして尋問するぞ」


「おやおや、怖いですね二人とも。

しかし、さっきから殺すだの半殺しにするだの、私も随分となめられたものだ。

それとも、能力があるからって自信過剰になってるのかな?

若いねぇ」


「おい白金、こいつの言葉に耳を貸す必要はない。

やるぞ」


「もち」


そして月華と聖は同時に、アヴリッジへと攻撃をしかけた。

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