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たとえ瞳が失われても  作者: しっつう
1章 出会いとこれから
8/14

7

吹き飛ばされた月華の体は、ホワイトボードを折り、壁へとめり込んだ。

月華の背骨がみしりと嫌な音をたてる。

月華は一瞬何が起こったのか理解できなかったが、痛む右目を開いたことで分かった。

月華の視界は、左目は問題なかったが、右目だけ赤く染まっていたのだ。

つまり、さっき聖は月華に対し、とっておきという言葉を使うことで警戒させ、月華の意識が聖の右手に向いた瞬間を狙い、月華の右目に血を吐いた。

そして、突然の目の痛みで隙ができた月華の顔面へと、全力の拳を放ってきたのだ。


「くそがっ...!」


月華はあまりの衝撃のせいで脳が揺らいでしまい、平衡感覚を保てずにいた。

その月華の前へとにやついた聖が来る。


「卑怯なんて言うなよ。

実力じゃ勝てないって分かったからこその戦い方だ」


「はっ

弱者の戦い方だな」


そう月華は強がり、笑っていたが、顔からは余裕が失われていた。


「なんとでも言え。

だが生徒会長さんよ、俺はがっかりだよ。

俺がこれから守護しなくちゃいけない奴が、こんな単純な手に引っかかるような奴だなんて」


「さっきのはわざと食らっただけだ」


「強がるなよ、顔見りゃわかるさ。

さっきまでの余裕の表情がすっかりなくなってる」


聖に図星を突かれた月華は、一瞬ぴくりと眉をあげた。


「強がってなどいない。

俺が負けることはありえない」


「たしかにお前は強いな。

俺じゃ絶対勝てないってさっき思ったよ」


「当然だ...俺は」


が、その月華の言葉を遮り聖が続ける。


「だけどそれは、あくまで正々堂々と戦った時の話しだ。

これから俺たちは、能力者たちと命の取り合いすんだろ?

命の取り合いに、正々堂々なんてありえない。

さっきお前とやりあって分かったよ。

最初こそボクシングのように、正々堂々と戦おうと思ってたが、お前みたいなやつとこれから殺し合うのかって思ったら、その気持ちは吹っ切れた」


そこで聖の表情が急に険しくなる。


「俺はどんな卑怯な手を使ってでも生き残る、そしてお前も死なせない」


ほう、と月華は感心した。

第一印象こそ最悪だったが、聖の《瞳戦争》に向けた覚悟が伝わってきて、印象が変わったのだ。


こいつはバカそうだし弱いが、やる気だけは十分にあるようだな


そう考えた月華は聖にこう言った。


「お前の覚悟はわかった。

だが、お前はまだまだ弱すぎる。

この一年で、せいぜい俺の役に立てるようにあがけ」


その言葉を聞き、聖は呆れたように笑っていた。


「なんだよそれ。

お前、そんなんじゃ友達いねぇだろ?」


「何を持って友達というかによるな」


「それ、友達いないやつの常套句だから」


「黙れ」


少し怒った様子の月華に、聖はふっと笑ったが、少し真面目な顔つきになりこう言った。


「俺を認めてくれたのは分かった。

だが俺は、まだお前の本当の実力を見てない。

本気で来いよ」


「さっき、あれほど力の差を見せつけてやったのにまだ見たいのか?」


「冗談じゃねぇんだ。

お前が他の《瞳憑き》に殺されちまえば俺も死ぬ。

もちろん俺も、命がけでお前のことは守るが、お前の本当の力を見ない限り、俺は安心できない」


なるほどな、というように月華はうなずいた。


「いいだろう、少し本気で相手してやる。

下手したらお前は死ぬがな」


「そう簡単に死なねぇよ、俺は」


それを聞いた直後、月華の体は一瞬にして聖の目の前へと移動した。

そして


斬夜閃滅(ざんよせんめつ)


月華は光のような速さで木刀を振るった。

直後、聖の全身へと無数の斬撃が襲い掛かった。

斬撃の速度は、聖のラッシュなど比べ物にならないほど速く、そして正確に人体の急所を狙った攻撃であった。


うそだろ...?


聖は薄れゆく意識の中、月華の攻撃が信じられず、ただただ驚いていた。

さっき聖は、全力で月華のことを殴ったのだ。

なのに、月華はまるでそのことを感じさせないような攻撃を、聖にした。


「すごいな...」


聖は無意識にそう呟き、そのまま意識を失った。



ごんっごんっという音が聖の頭に響く。

目を開けた聖は、自分の頭が月華に蹴られていたことに気づいた。


「何すんだよてめぇ...」


全身の痛みに耐えながら起き上がった聖は、そう月華へと文句を言った。


「俺はお前の名前を知らないからな。

起こす手段がこれしかなかった」


「だからって頭蹴る必要ねぇだろ...。

てかそうか、自己紹介まだだったな。

俺は白金聖。お前は黒羽月華だよな?

これからよろしく」


そう聖は言い、右手を差し出し月華に握手を求めた。


「俺はお前と馴れ合うつもりはない」


そう月華は言い、視線をそむけた。

そんな月華の様子を見た聖は、ふっと笑った。


「なんだよ月華、照れてんのか?」


「ふざけるな、あと気安く名前を呼ぶな。

あとさっき、まるで俺がお前のことを認めたと勘違いしているような発言をしてたが、まだ俺はお前を認めていない」


「へいへい」


聖は楽しそうに笑い、差し出していた右手を引っ込めた。



これが、《二重瞳憑き》として《閃光の瞳》と《予知の瞳》を授かった黒羽月華と、《守護人》として《四神》の一つである、《白虎》を授かった白金聖の出会いだった。


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